32話 ホルスタインの悩み
「ぱいたん、なにそれ?」
みんなーッ!元気ーッ?うちだよ、とんこっつだよ!
ねぇ、聞いて聞いて聞いてーーッ!うち、今、ままに会う為に冒険者やってるの!でもでも、全然、ままに会う為に必要な「女神像」が手に入らないのッ!
うちは早く……ままに会いたいんだけど、もう二年も経っちゃった……。このまま全然見付からなければ、うち……おばあちゃんになっちゃう!
うちがおばあちゃんになっても、ままはうちの事を、とんこっつだって気付いてくれるかなぁ?気付いてくれなかったらどうしよう?
ところで、聞いてよーッ!なんか、ダンジョンとか、街とかですれ違う男の人が、みんなしてうちの……おっぱいを見てくるのーーーッ!
どうすればいいのかなぁ?ぱいたんと一緒の時は、ぱいたんが男の人を追い払ってくれるからいいけど、うちが一人の時に男の人が近付いて来たら、どうすればいいか分からないよーーーッ!
最後の手段は……えへへ、ヤっちゃってもいいのかな?
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翌日、早朝から三人はダンジョン攻略に向けて歩を進めていた。
防具しか纏っておらず武器を持っていない重戦士とメイド服という異様なコンビに、盗賊の身なりをしたセレネの姿がそこにあった。
「ここが、ダンジョンの入り口です。準備はいいですか?」
「うん、大丈夫だよ、セレネちゃん」
「わちきも問題ないわ」
「じゃあ、行きましょう。くれぐれもモンスターに捕まらないようにだけお願いします。わたしじゃ、助けられる自信がありません」
街から出て東北東に少しばかり進んだ場所それはあった。一見するとただの岩場のようにも見えるが、それはポッカリと開けた口の中に、エサが入るのを待つトラップのようにも見える入り口だった。
こうして三人はダンジョンへと入っていったのだった。だが、その足取りは恐る恐ると言うよりは、楽しいピクニックにでも向かうような軽やかな足取りだったと言えるかもしれない。
そしてこのダンジョンに巣食うモンスターは「ゴブリンモドキ」であり、各地のダンジョンを攻略して廻っている二人でも知らないモンスターだったのは事実だ。
しかしゴブリンモドキはそこまで強いモンスターではない。だが、集団戦法を得意とする事から、階層が深くなり出現頭数が増える事で真価を発揮するモンスターであるとも言える。
ゴブリンモドキの性へ……ではなく、性質として挙げられるのは女性であれば誰彼構わず種付けをする事である。更には、その腹から産まれた子供は単体能力が飛躍的に向上しており、並の冒険者では太刀打ち出来ない程の脅威になり得るのだ。
拠って、このダンジョンの階層の深い所にいる強敵は、そうした経緯によって産まれた個体だと容易に推測出来る。
とは言うものの、下層に於いては豚骨と白湯の敵にもなれないゴブリンモドキは、パーティーの歩が先に進むのを許し、三人は早々に5階のボスまでクリア出来ていた。
「意外とボスが弱かったね、ぱいたん」
「まぁ、5階だからそんなモンでしょ」
「あれ?お宝箱が2個しかないよ?」
「わたしは前にダンジョンに入った時に拾ってるので、その二つはお二人の分ですよ。でも、各地のダンジョンを攻略して廻ってるお二人には、性能的に必要無いかもしれませんね」
「ううん、そんな事ないよ!」
「えっ?そうなんですか?一人が装備出来る量には限りがあるから……あっそうか!ダンジョン毎にバフの種類で取り替えてるんですね!」
「それも違うよ」
「えっ?それじゃあ……」
「うちは特殊な専用装備で、装備に付いてるステータスとか、バフとかを他の装備に統合出来るんだよ。だから、無駄になる専用装備って無いんだ」
「凄いッ!じゃあ、ぱいたんさんも?」
「わちきはそもそも装備制限があって、姉さんみたいに武防具は宝箱から出て来ないから……。でも、姉さんが持ってるような特殊な専用装備はあるわ」
こうして5階で手に入れた装備は装備される事無く、二人の装備の糧になった。
二人はそれぞれ左手の人差し指に指輪を嵌めている。それが特殊な専用装備であって、豚骨は装備に付与されているステータスアップやバフと言った性質を剥ぎ取り、任意の装備に付与する事が出来る、「統合の指輪」を使用している。
一方で白湯の装備は同系統の装飾品に対してのみ効力を発揮する。それは豚骨の「統合の指輪」の劣化版とも言える「剥ぎ取りの指輪」であるが、白湯的には性能に不満は無い。
ちなみにそれらの専用装備に拠って更に自身の装備を強化しているので、二人は王都にいる正騎士などでは歯が立たないくらいに強くなっている。そして、極めつけは二人の身体にそれぞれ刻まれる形で貼り付いている、三本の包丁のタトゥーである。
豚骨は背中に、白湯は右脚のふとももに、それはある。
それらのタトゥーは一本一本がそれぞれ非常に強力なバフを二人に掛けているので、専用装備がなくても並の相手……即ち一般階級の兵士や街のチンピラ程度であれば倒せる程だ。
こうして三人は順調に階層を踏破し、早い段階で45階に到達していた。
「お二人とも、気を付けて下さい。この階から強力な個体が出て来る場合があります」
「わかった、セレネちゃん。気を付けるねッ」
「——ッ!?……姉さん、さっそくお出ましみたいよ」
「じゃあ、ちょっとだけ本気出しちゃう?スティングスティングスティングも1つオマケにスティング!」
じゃららん
「えっ、凄い……」
豚骨の声と共に現れたのは、その左手の指に絡み付くように現れた鎖……の先に垂れ下がるトゲトゲの付いた鉄球だった。
それは一見するとモーニングスターのようにも見えるが持ち手はなく、鎖が指から生えているようにしか見えないのでモーニングスターと呼ぶには相応しくないかもしれない。
更に付け加えるならばダンジョンに入った時に装備した、右手に持っている武器こそモーニングスターと呼ぶに相応しい様相だが、そのサイズは豚骨よりも遥かに大きい為、こちらもモーニングスターと呼ぶには相応しくないと思われる。
一方の白湯は下駄履きで小刻みにぴょんぴょんとその場でジャンプをしているだけで、豚骨のような劇的な変化は無い。
要するに白湯は、ただの準備運動をしている様子だと言えるかもしれない。
「いっくよぉ!」
ぶぉん
「ぐぎッ」
べっちーーーーーん
「あれ?終わり?」
「そのようね、姉さん。強力な個体と言ってもこの程度じゃ、姉さんの準備体操にもならないわね」
それは豚骨の左手の一振りだけで何もする事無く轟沈した。その左手から生え伸びる凶悪なトゲトゲが、ゴブリンモドキの腹に直撃すると、ゴブリンモドキはそのままダンジョンの壁にめり込み息絶えた様子だったからだ。
その光景をあっけらかんと見て、口を半開きのまま呆気に取られていたのは、セレネだと言うのは言わずとも分かるだろう。
「姉さん、次、来るわよ!」
「うん、まっかせてぇーーーッ!」
こうして、例え強力な個体だろうと、通常の個体だろうと豚骨が左手を振り払い、右手を振り下ろすとそこには、ゴブリンモドキだったモノが次々と無残な姿になっていく。
ただ流石に低階層よりは深階層と言う事だけはあり、数にモノを言わせて出て来るモンスターの中には二振りのモーニングスターを潜り抜けて来るモノもいた。
だがそれらは、目にも映らない白湯の蹴撃によってやはり無残な姿になる運命だったのである。
「ねぇ、ぱいたん。そう言えば、このダンジョンのモンスターって倒すと切り身にならないね」
「キリミ?キリミって何です?」
「セレネ……通常はモンスターの「力の結晶」と呼ばれるモノよ」
「でも、姉さん。前のダンジョンでも似たような事があったでしょ?小さなツブツブみたいなのになったりしてたし」
「コレの事ですか?」
セレネが豚骨の疑問を解消するべくモンスターの力の結晶を拾い、二人に見せるとそこには種のような小さなナニカがあった。
「ちょっと臭うので、誰も拾いたがりませんが、これがキリミなんですか?」
「ううん、違うわ。ダンジョンによると思うんだけど、それは切り身じゃなくて「種」だって、ましまっしが言ってたわ」
「タネ?へぇ、そうなんですか。お二人はこの「タネ」を集めているんですか?」
「ううん、集めてないよ。切り身なら使い道はあるけど、「種」は使い道が分からないからね」
こうして三人は雑談を交え、余裕綽々で軽くモンスターをいなしてミンチにしながら、47階まで無事に到達する事が出来た。ちなみにここに至るまで、二人の敵になるような個体は存在していなかった。
通常の冒険者ならば、脅威になったであろう強力個体のゴブリンモドキであっても、二人の敵には一切ならず、セレネは途中から驚きもしなくなっていた。
どうやら、セレネの順応性は高い様子である。
「ググギュウガッガガガァッ」
「なんだろ、アレ?今までに見たモンスターよりも大きくて強そうだよ?」
「あ、あれ……まさかッ!」
「セレネ?何か知ってるの?」
「あのゴブリンモドキから、光属性の力を感じます。前にこの階層まで到達したパーティーのヒーラーの方が使ってた魔術と同じ波動……です」
「じゃあ、それなら……やっぱり……」
「ぱいたん、どうしたの?うちがヤっちゃっていい?」
「とんこっつさん、気を付けて下さい!物理攻撃が効きにくいかもしれませんッ」
「うりゃあぁぁぁぁぁぁぁッ」
ぱきィィィィィィん
どげし
「グギィィィィィィ」
ぺちゃ
「えっ?ウソ……あのゴブリンモドキを一撃……?」
「そのようね。まぁ、姉さんに掛かってるバフがあれば、あの程度の防壁じゃ防げないのも分かるけど……。それにしてもあのモンスター……ヒーラーが孕まされた結果……って事よね?」
「はい、恐らく……」
「じゃあ、探しましょうか?」
白湯の言葉の意味がセレネは分からなかったが、この階層に至っては自分の役割である「道案内」はもう出来ない事から、「探す」と言われても付いて行く選択肢しかなかった。
そして、訳がまったく分かっていない豚骨もまた、二人の後に付いて行った。
「これね……」
「ぱいたん、何ソレ?ガイコツ?ねぇ……動いたりしないよね?」
「えぇ。ここではスケルトンモドキは出ないから動かないと思うわ。だからこれは、三人の遺体の残骸……って事ね。せめて、衣服や装飾品があれば、持って帰って弔ってあげられるって考えてたんだけど、残されているのが専用装備じゃ、わちき達は街に持って帰ってあげられない。それにここにいるのは三人……だから三人は結局、連れさらわれたヒーラーを見付けられなかったのね……」
「それなら、ぱいたん!ヒーラーさんのガイコツがあったら、ここに持って来て、一緒に埋めてあげようよ」
「姉さん……」 / 「トンコッツさん……」
こうして、ダンジョン攻略は一旦オアズケとし、三人はこの階層で既に死んでいる筈のヒーラーの亡骸を探す事にしたのだった。




