30話 結末
「おい、聞いたか?」
オレはただのモブだ。名前は無ぇ。えっ?モブなんかお呼びでねぇって?いやいや、そんなツレナイ事を言うモンじゃねぇぜ。
モブにはモブの矜持ってのがある。それに、モブだからこそ噂話しで場を盛り上げるモンさ。だから、一つ二つの噂話しを盛大に盛り上げる大事な役目ってヤツだ。
ところで、聞いたか?なんか新たな冒険者がこれから冒険談を語ってくれるかもしれねぇってよ!
オレは噂話しだったら、どんな内容でも喰い付くからよ!今から新進気鋭の冒険者が語ってくれる冒険活劇ってヤツが、気になって気になって夜も眠れねぇってモンだぜ!
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「姉さん達はダンジョンでお袋を連れ戻す方法を探すんだろ?ましまっし姉さんは、お袋の畑を守る。それならあたいは、この家を守る」
「それが、アナタを雇う事になるの?」
「ましまっし姉さんの畑と、この家があれば……お袋の造り上げた「ラーメン」が作れるだろ?だから、それを使って、アリスはこの国の女王になって欲しい」
「それ……本気で言ってるの?」
「あぁ、あたいは本気だ。あたいだって、お袋に恩義が無いワケじゃない。お袋は、あたいを警戒する事無くエサをくれたし、名付けまでしてくれた。あたいはミノタウロスだ!恩義には恩義で返すし、義理や人情を忘れる事も無いよ!」
「それで、私が女王になったら、このダンジョンに兵士を送って、「らあめん」の材料を確保しろ……とでも言いたいのかしら?それとも他の何かを私にやって欲しいワケ?」
「女王になってからアリスにやって欲しい事はそれさ。そうなったらその時になって、漸くあたいはとんこっつ姉さん達を追い掛けられるし、一緒にお袋を連れ戻す方法を探す事も出来るってモンだろ?」
「で、他には何があるワケ?「女王になったら」なんて言ったんだから、それまでにやらせたい事もあるって事よね?」
「——あたいと、ましまっし姉さんが収穫したモノで造ったラーメンを全てアリスに譲るから、アリスは旅に出る姉さん達に資金を援助してもらいたいんだ」
「「わんたん……」」
「なるほど……だから、自分を雇えって言ったのね?まぁ、雇うって言うよりはどっちかって言うと取り引きしたいって感じね?でも……そうなったら、旅に出ない二人はどうやって生きて行くつもりなの?」
「あたいは、このダンジョンで食料を奪るから生きていくには問題無い。ミノタウロスは雑食だから何でも喰えるし、モンスターでもそれは関係無い」
「わーは大地に根差していれば死なないわ。だから、わんたんの提案に……わーも賛成するよ」
「「ましまっし……」」
「アリス……どうかな?」
「えぇえぇはいはい、分かりました分かりましたよ!私が二人から「らあめん」を買い取って、それで女王になればいいんでしょ!やってやろうじゃんか!私はジロウが女王になるのを見てるつもりだったのに、まったくジロウのヤツ!全部私に押し付けやがって!そんなに結婚するのがイヤだったのかしら?」
「クレアリスの口が悪いですが、どうやら決まったようですね……。それならば、アテクシから皆にささやかながら贈り物を致しましょう」
「贈り物?女神様の贈り物ってなんだろう?」
「先ずはクレアリス……アナタがアリスシードの時に手に入れた装備は今は使えません。なので、所有権をアリスシードからクレアリスにしておいてあげましょう」
「えっ?あぁ、そうね。そういう事ね?分かったわ、遠慮無く使えるようにして頂戴!」
「次に、山形次郎がクレアリスの身体で手に入れた9本の包丁は、娘達である皆に所有権を移しておいてあげましょう。ただ、装備制限など制約があるでしょうから移譲するのはバフのみですよ」
「女神様!わーは闘えません。だから、わーの分は旅に出る姉さん達と、ここに残るわんたんにあげて下さい」
「分かりました。それでは三人に9本の包丁を移譲します。バフがいい感じに掛かるように、それぞれの戦闘スタイルに合わせておきますね」
しゃららんッ
「最後にクレアリス……分かっているとは思いますが……」
「私にアリスシードの装備を移譲した理由でしょ?私が女王を目指す事の意味よね?」
「えぇ。分かっているならこれ以上、話す事はありませんね。それでは、皆さん……。アテクシはこれにて、おうちに帰ります。もしも女神像を手に入れられたなら、この世界にいる女神の5人の内の誰かが召喚される事になるでしょう。その召喚された女神が、貴女達の願いを聞き届けてくれる事を祈っています」
「「「「女神様、ありがとうございました」」」」
「それでは、ご機嫌よう」
「それじゃあ、みんなッ!絶対にままをこの世界に呼び戻そうねッ!」
「「「おーーーーーッ!」」」
「いや、私の「まま」ではないんだけど……まぁ、いいわ。私もジロウに言いたい事は山ほどあるし、最後までアンタ達に付き合ってあげるんだから、絶対にジロウを呼び戻しなさいよねッ!」
「うんッ!絶対に、ままにもう一度会うんだッ!」
〜二年後〜
「おい、聞いたか?」
「なんだ?新しく即位する予定の隣国の狂刃女王の事か?それとも、隣国から流れて来てる何やら怪しくて、すこぶる旨い食事の事か?」
「いや、それも面白い噂だが、オレが言ってるのはそんなんじゃねぇよ!」
「じゃあ、なんだよ?」
「オレが仕入れたのは二人組の冒険者が、各地のダンジョンを攻略しまくってるって噂さ」
「へぇ?各地のダンジョンねぇ」
「なんだ?興味無しか?」
「いや、ダンジョンなんて専用装備か専用アイテムしか手に入らないんだから、ただの道楽だろ?専用装備で強くなって、最終的には国に取り立ててもらって、それで兵士達を指揮する指揮官になりたいだけだろ?」
「いや、聞いた話しじゃ、そいつらは違うらしいぜ?」
「何が違うって言うのさ?」
「そいつらが、ダンジョン攻略するのは、二人の母親を探してるからだってさ」
「母親ぁ?いやいやいや、ダンジョンに母親がいるってのか?そんなワケねぇだろ。それにその話しが本当だとしたら、冒険者にもなってどんなマザコン野郎だよ?」
「いや、マザコンかどうかは知らねぇが、野郎じゃねぇって話しだ」
「なに?野郎じゃねぇって事は女なのか?」
「あぁ。二人とも女で、一人はレッドオークの重戦士。一人はコカトリスのメイド……らしいぜ?」
「メイド?メイドって言ったら、貴族様の家に仕えてる使用人だろ?メイドなのに冒険者なのか?だがな……その話し、矛盾があるぜ?」
「矛盾?」
「だってそうだろ?二人は母親を探しているのに、二人の種族はてんでバラバラじゃねぇか!そんなの大概な与太話だろうぜ?それとも何か?二人はそれぞれの母親を探してるってのか?」
「そんな事は知らねぇよ!でもま共通してるのは、二人が二人共、絶世の美女らしいぜ?余所モンだから気楽に遊びでヤろうと考えて知らずに声掛けて、半殺しにされたヤツもいるって話しだ」
「まぁ、オレはそんな冒険者と絡む事なんてないだろうが、女と見りゃ声掛けて玉砕するお前と一緒にすんな!」
「お前だって、年がら年中女のケツばっか追い掛け回してるスケコマシじゃねぇか!オレと一緒にすんなッ!」
「「なんだとう!おい、表に出ろッ!ここいらで決着付けてやるッ!」」
「ねぇ、ぱいたん!新しい街が見えたよ!次のダンジョンは、この街の近くだったよね?」
「えぇ、姉さん。ダンジョンはこの街の東北東にあるらしいわ。でもって、ここのダンジョンは今まで攻略された事が無いくらい、難易度が高いそうよ?」
「そうなんだ?それは凄っごい楽しみだねッ!」
「難易度が高いのに楽しみなの?」
「だって、誰も攻略した事がないなら、女神像が残ってるかもしれないじゃない!」
「あぁ、なんだ……そういう事ね?でも、今まで攻略した47個のダンジョンは全部ハズレだったから、そろそろ女神像が出てくれると嬉しいわね」
「うんッ!絶対に手に入れて、ままに会おうねッ!」




