19話 あたいによる、あたいのための、あたいの食欲の失敗
「お袋、ごめんよ……」
あたいの名前はわんたん。種族はミノタウロスだ。あたい、腹が減ってたんだけど……誰も通らないし、食べるモンもなかなか見付からなくて困ってた。
そんな時に人が、こっちに向かって歩いて来るのが見えたんだ。最初はソイツらを襲って喰っちまおうって考えて近寄ってったんだが、あたいが近付いたらソイツらも近寄ってきやがった。
獰猛で知られるミノタウロスに近寄って来るなんざ、普通の旅人じゃ考えらんないよ。
そんでもってソイツらは更に、あたいに餌もくれたのさ。こうなったらコイツらと一緒にいるしかないよな?あたいだってミノタウロスの端くれ、襲うつもりが餌付けされた上に名付けまでされちまったら、恩を仇で返すなんて事はしたくねぇモン。
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結局の所、魚特有の生臭さに俺は負けた。だからその臭いに勝つ為に俺は研究に研究を重ねた。って言うとなんかカッコいいだろ?
そして、行き詰まっていた。ま、料理出来無ぇんだから当然だよな……。
「よし、準備出来たか?」
「うん、大丈夫だよ、まま」 / 「ママ、こっちも大丈夫」
ってな訳で、俺達は加工した切り身を持って、旅に出る事にした。旅だからな?夜逃げじゃねぇからな……間違えんなよ?
ちなみに行き先は王都だ。行き詰まっちまったから、何かいい発見があれば……って感じだ。で、王都に行くなら、女王サマが前に切り身を持って来いって言ってたから、ついでに持って行く事にしたのさ。
今回の旅なんだが、まぁ、実験も兼ねてる。女王サマに献上する為の切り身は全て加工したんだが、その中には青魚のも混じってるのさ。
まぁ、青魚は別にして入れてあるから、混じってるって言ってもごちゃまぜになってる訳じゃねぇぞ。
なんせ前にゲットした青魚の切り身はダンジョンから出ると腐ってたから、加工した切り身が腐るかどうかの実験ってヤツだ。
献上品を持って行くのと同時に実験も兼ねてる一石二鳥だから、俺って頭いいだろ?
で、それは大成功だった。生の切り身は腐ったが、加工した切り身は腐らなかったのさ。
そう考えると、ダンジョンに家を建てたのは正解だったって事だ。だってそうだろ?じゃなかったら、青魚の切り身は全部捨てるか、モンスターに襲われるのを覚悟でダンジョン内で加工する必要がある。
そうしたら、鰹一本で出汁を取る事になるからな……。
——そう言えば、鰹は一本釣りだっけか?いや意味が違うな。俺は空気が読めるから、余計な事は言わねぇ。
そして約1週間振りくらい……か?ダンジョン内は時計も無ぇし、お天道様が昇らねぇから日付け感覚が狂っちまって正確には「ちょっと分からない振り」に、俺達は公爵家の家に戻った。
んでもって、帰って早々に驚いた事がいくつもあった。
「マシマシ!これ、一体どうしたんだ?」
「母さんお帰り。これ?うん、普通に育てただけだよ?」
「えっと、俺達がダンジョンに入ってた1週間くらいで、こんなに野菜が?」
そう、先ず驚いたのは収穫済の野菜がマシマシの小屋から溢れてた事だ。それに種類も増えてた。
俺の記憶から再現した野菜にしちゃ種類が豊富過ぎると思ったが、一回俺を食べると一個の記憶とは言ってなかったから、まぁ、アリっちゃアリか……な?
だが、1週間で野菜が収穫出来るなんて想像してなかったから、俺は凄げぇ驚いたし、豚骨と白湯は目を輝かせていた。
野菜ハブの効果は折り紙付きだから、そりゃこんだけあれば目が輝くよな。
ところで折り紙付いてるとなんか良い事があんのかな?そんな事はまぁ、どうでもいいか……。
その後で俺は自分の部屋に戻った訳だが、部屋に戻ったら戻ったで驚いた訳さ。
「こ、こ、これはッ!昆布じゃねぇかッ!」
「うん。母さんが欲しいかなって。でも、この植物は畑に植えても育たないから、どうすればいいか聞きたくて部屋に置いておいたんだけど、乾いてカピカピになっちゃった」
「いや、マシマシ。コイツはコレが正解だ。コイツは畑に植えても増やせ無ぇけど、この世界じゃ育てられ無ぇから仕方が無ぇ。でも、コイツはこうやって使うのが正解だ」
「そう?それなら良かった。乾いてカピカピだから捨てちゃおうかとも思ったんだけど、本当に捨てなくて良かった」
「なぁ、マシマシ、この昆布ってたくさん作れるのか?」
「うんッ!オドがあればいくらでも作れるよ?」
「そっか……それじゃあ、俺達がダンジョンに入ってる間に、マシマシはこっちで、この乾燥させた昆布を作るのは出来るか?」
「うん大丈夫!出来るよ」
鰹出汁は現状で上手くいってねぇが、昆布出汁はなんとか目処が付いた瞬間だった。
「ママ、部屋の中に置いてあるこれはなぁに?」
「こ、これは……椎茸じゃねぇか!これもマシマシが作ったのか?」
「ううん。違うよ。それは植物じゃないから、わーが作った物じゃなくて、小屋に置いといた薪から勝手に生えて来たの。生えて来てから調べたけど、毒とかはないから食べられるかなって」
「椎茸って植物じゃ無ぇんだ?でも、そうしたらコレも作れるか?」
「これはシイタケって言うの?このシイタケの餌が薪なら、薪を置いておけば増えると思う。それで、増えたらこれも乾燥させるの?」
「そうだな、腐っちまったら食えねぇから、乾燥させれば平気な筈だ」
こうして俺は椎茸もゲット出来た訳だ。前にテレビで椎茸からも出汁が出るって言ってた気がすっから、昆布出汁に続いて椎茸出汁も獲得した事になる。
これで二出汁ゲットだ。えっと……出汁を煮出すのと、二つの出汁を掛けたんだけど、ちゃんと伝わってるよな?
こうして、家に帰ってびっくり仰天も束の間、俺達は早々に王都を目指して行った。帰って来てから、おっさんや母豚には特に挨拶もしてねぇが、そこら辺を気にする俺じゃない。時間は有効に活用しなきゃならねぇからな!
そして、出汁素材ゲットの功労者のマシマシにも、ちゃんと一緒に王都に行くかどうかを聞いたんだが、御庭番の仕事があるから一緒に付いては来なかった。
そう考えると、俺にべったりな豚骨や白湯と比べて親離れしてるなって感心してみたんだが、歩いて付いて来ないだけだってのは後々知る事になった訳さ。
まぁ、自由自在蔓があるなら、わざわざ歩かなくても平気って事なんだろうが、そもそもそんなに伸びるなんて、それこそ驚きでしか無ぇよ……。
まぁ、そんなこんなで俺達は王都に向かった訳で……王都で無事に女王サマに会えて、加工した切り身を渡せた訳で……そしてそれを大絶賛された訳で……って感じで、そこら辺はすっ飛ばさせてもらう。
だって、おばさんと会って話した事を聞かせても詰まらねぇだろ?時間の有効活用ってヤツだ。
だから、王都に行って収穫出来た話しをするよ。
先ずは、王都で収穫した物の1つ目が、燻製の方法だ。そう、煙で燻して保存食にするアレだ。
俺はそれを切り身に試してみたくなったのさ。干物を煮ても生臭さが煮汁に出たから、だったらその生臭さを消す方法として、燻製はアリなんじゃねぇかって思ったのさ。
ってか、一回煮た魚を燻製にするってのもアリなんじゃねぇかな?一回煮れば生臭さがある程度落ちて、それを更に燻製にすれば、生臭さは気にならなくなるんじゃねぇかって考えた訳だ。
——燻製にはそんな可能性を感じた俺だった。
そして、収穫2つ目が牛だ。そう、牛なんだよ。もービックリしたぜ……牛だけにな。
でも、豚骨と白湯は、アレは牛じゃねぇってツッコミを入れて来たのさ。そもそも牛ってなんだ?ってな……。
だがまぁその牛なんだが、王都からの帰り道で拾ったのさ。近くに牧場があったりする訳でも無ぇし、首輪してた訳でも無ぇから飼い牛じゃ無ぇって事だよな?だから野良牛だ。
野良牛なら連れて帰っても犯罪にならねぇよな?ってな訳で、俺はその野良牛を確保した訳さ。
なんでかって?そりゃ牛骨スープを作る為に決まってるだろ?豚骨スープは諦めたし、鶏ガラスープも諦めた。
だったら残ってるのは牛骨スープしか無いって事だ。そして野良牛がいるなら牛骨スープを作る絶好の素材ってヤツだろ?
まぁ、野良牛は俺を見るなり近寄って来たから確保はラクだったぜ。ついでに、王都で旅のお供に買った食料もあげたら尚更懐きやがった。
二人はなんか焦ってる感じでオロオロしてたけど、野生の牛に驚いていただけかな?まぁ、俺としては、牛が雑食だって事に驚いたけどな。
普通に干し肉とかモリモリ食ってたし、草食動物ってのはデマだったって訳だ。
——で、懐くとやっぱり愛着が湧いちまう。愛着が湧くと本当に牛骨スープを作れるのか悩ましい所だよな……。
「ね、ねぇ、まま……本当に大丈夫なの?」
「ん?何がだ?コイツ、ただの牛だろ?そこまで凶暴じゃねぇし、なんの問題があんだ?」
「ママ、ウシってなぁに?でもそれはウシじゃなくて……ミノタウロスの幼体だよ?」
「ミノ……?そうかコイツ、ミノムシなのか?って、そぉじゃねぇ。いやいや、だってさどう見ても虫に見える訳無ぇし、ただの牛だって」
「母さん、ミノタウロスは凶暴性が高く、人を襲って食べる事もあるんだよ。だから、姉さん達は心配してるんじゃないかな?」
「へぇ、そうなのか?でも、コイツは人懐っこくて良い子じゃねぇか。おーよしよし。ほら、干し肉だ。もっと食え食え」
俺はミノなんとかって言われても分からねぇ。俺に分かる「ミノ」はムシとモンタ……あとは焼き肉の部位くれぇだ!だから二人の心配を余所にそのまま家に連れて帰る事にしたのさ。
でもって、王都からの帰り道、野宿だったって事もあって俺は疲れてたんだろうな。要するにな……俺は寝惚けながら、コイツに名付けしちまったようだ。
こうして俺は、牛骨スープも諦める事になったのさ……。
で、結局、進化した腹減り牛は朝も早い内から食欲を抑えられなくなって、俺を食べ始めた訳だ。
いや、でもよ俺達は野宿してるんだぜ?だから外で食べられるなんて俺は想像してなかったし、豚骨も白湯も流石に外では我慢してくれてたから俺は安心してた。
だけどさ、この牛は野良牛だったからか、野生の本能に忠実だったみてぇだな。
結局その食欲に俺は、完全に失神するまで食べられちまった訳だ……。でもよ、流石に外で色んな体液を垂らしながら失神してると、色々と色んな意味でヤベぇってのは分かるよな?
で、そんな状況から救ってくれたのはマシマシだった。
ま、要するに粘膜摂取ってヤツだ。懐かしのファイト一発だな!
だけれども、処女喪失の傷みってヤツは感じなかったって訳さ。まぁそりゃそうだよな……だって俺は失神してたんだから。
「お袋、ごめんよ……食べ過ぎた。あたい、お腹が空くとなりふり構わず食べちまうんだ」
俺はイキ過ぎてソド切れを起こして失神してたが、マシマシのお陰で直ぐに目覚めると、俺の視界には今にも泣き出しそうな元牛がいたって訳だ。
ちなみに豚骨と白湯は俺の大音量の喘ぎ声で飛び起きたらしい。そんでもってイキ過ぎて失神してる俺が変なヤツらに襲われないように、野宿してた場所から人気の無い場所に移動させてくれた上で、近くに誰も近寄らないように見張っててくれたらしい。
その場所で俺は処女喪失に至ったらしい……ぜ。まぁ、目覚めた後で感じた事は、お腹の中がちょっとジンジンするけど、痛みは無ぇから血が出るってのはやっぱり都市伝説だったのかもなって事だけだった。
それにしても初めての経験にしちゃあっさりしてたが、俺的には「まぁ、いっか」てな具合だった。それは痛みを感じなかったから……なんだけどな。
でももしも俺がコイツと話す事があったら、なんて言えばいいか分からねぇよ……。
女の子にとって、初めてが失神中でしたなんてのは、多分だけどショックだろうしな……。
「お袋、本当に大丈夫か?オド切れさせるまで貰っちまったから、ちゃんと休んでないと」
「大丈夫だ。マシマシに分けてもらったから」
「ましまっし?あぁ、あの植物の蔓の事?」
「そうだ。マシマシの事は家に帰ったらちゃんと紹介してやるよ。それと豚骨と白湯は先に紹介しとくけど、お前のお姉ちゃん達だから、ちゃんと言う事を聞いて仲良くするんだぞ!」
「お姉ちゃん?あぁ、あたいより、先に名付けられてるって事だね。分かった。お袋の言う通りにするよ。それで、あたいの姉ちゃんは三人なのかい?」
「そうだな。一番上が豚骨。二番目が白湯。三番目がマシマシだ」
「お袋は、ハーフオークだよな?さっき見たけど、一番上の姉ちゃんがレッドオークで、二番目の姉ちゃんが、コカトリスってのは分かった。三番目の姉ちゃんは、何の種族だ?」
「わーは、アウラウネだよ。よろしく、わんたん」
「そっか、アウラウネの姉ちゃん、宜しく。それと、お袋にオドを分けてくれてあんがとな」
「ワンタン……?あぁ、俺、寝惚けてたからそんな名前を付けちまったのか……。なぁ、他の名前がいいか?」
「あたいは、わんたんって名前が気に入ったよ!ところで、このわんたんって、なんなんだ?」
「ワンタンってのはな、小麦粉で……あっ!そうだ、俺は大事な事を忘れてたぜ」
こうして俺は、ミノ……ムシだかモンタだか言う牛娘にワンタンの説明をしようとして、重大な事を思い出しちまったのさ。




