10話 嘘八百並べ奉るだけの隠し味
「ママ?寝たの?」
わちきの名前は、ぱいたん。コカトリスの幼体……。
ママを初めて見たから、ママがママ。ママ以外にママの側にべったりな豚がいるけど、ママはわちきのもの。
ママは、わちきのものだもの。——絶対に誰にもあげない。
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結局、その日のうちに白湯は進化しなかった。起きているうちに進化したら、豚骨の時みたいに白湯も全裸だと考えたからだ。
そうしたら直ぐに服を着せようと思ってたんだけど、俺が起きている内に進化の過程は見る事が出来なかった。まぁ、その前に直ぐに服を着せようって考えてても、白湯が着られる服があるかどうかは別問題だから、この際は放っておく。
「わちき、お腹空いた。ママ、起きて。お腹空いた。もう朝だからご飯ちょうだい」
「んんん……まだ暗いよ?朝じゃないよ……流石に俺は眠いから、まだ寝かせて……Zzz」
「チっ」
「まま、起きて!朝だよ?うちお腹空いたよ?ご飯ちょうだい」
「んぁ?豚骨?夜中にお腹空いたって言ってなかったか?……Zzz」
「えっ?うち、夜中に起きてないよ?だからお腹空いたお腹空いたお腹空いたーーッ。いいもんいいもん。勝手にままを食べるもん」
ずるッ
ずりゅッ
ぬぎぬぎ
ばるんッ
「えへへ、いただきまぁす」
ぺろッ
「あれ?ままの味がいつもと違う気がする……どうしたんだろ?あれ?なんか、うちのお尻がもぞもぞするけど……って、あれ?あれれ?うわぁッ!」
「うわぁッ!豚骨どうした?!」
「まま、ぱいたんが、ぱいたんがッ」
「白湯がどうした?ん?あぁ、無事に進化したみてぇだな」
と、ゆー訳で、俺の足元にいて豚骨の柔らかそうなお尻に踏まれながらも、なにやら満足そうな顔で眠る白湯の姿がそこにあった。それだけ聞くと、お尻に踏まれて満足してる、変態おっさんみてぇな感じがするが、そうじゃねぇ。
ちなみに、そんな満足そうな白湯とは対象的に、豚骨の顔は不満そうだった。
何回も言うが、白湯は豚骨のお尻で踏まれて満足そうにしてる訳じゃ無ぇからな?間違えんなよ?
「ねぇ、まま……大丈夫?」
「ん?何がだ?」
「ままの味が違かったから……オドが回復してないのかなって?」
「ママの味って、俺はミルクの飴かなんかか?」
「アメ?アメってなぁに?」
「いや、そりゃどうでもいいが。ってか、今日は全然感じなかったけど、腹減ってないのか?いつもならもっとガッツいて来るのに」
「ううん、違うの。いつも通りに、ままを食べようと思ったんだけど、舐めたらいつもと味が違かったの」
「味が違う?いや、そんな事言われても、俺は何もしてねぇし、そもそもエドだかオドだかを感じられんからなぁ……」
「まま、お腹空いたよぉ」
流石にまだ朝が早過ぎるから、使用人達を起こして食事を作ってもらうのも可哀想だし、かと言って今日のお弁当を先に食べさせる訳にはいかねぇ。
だけど、豚骨には我慢……してもらう訳にはいかず、俺は腹ヘリで豚骨が暴れる前に自分を差し出す事にした訳さ。
俺ってばなんて献身的なんだろうな……。でも、決して俺が気持ち良くなりてぇからじゃねぇぞ?勘違いすんなよ!
「んっ、あぁッ……ん」
びくッびくくッ
「まま、ご馳走さま。ちょっと足りないけど、頑張ってくるね」
「あ……あぁ、頑張ってな。それにしても、新しい装備似合ってるな」
「えへへ。ありがと、まま。それじゃあ、行ってきまぁす」
ばたんッ
「さてと、豚骨が言ってた事が気になるな……おっとと、足がフラフラする。これがイド切れってヤツか?脱水症状みてぇなモンかな?」
俺は足元がフラつきながら、豚骨に脱がされ、散らかってベッドから落ちていた服を集めて着た訳だが、そんな中でいつもなら4回くらいイかしてくる食欲旺盛な豚骨が、2回で終わらせて我慢した事は……やっぱり俺に何かが起きたと考えるべきだと確信していた。
こうなったら、考えるな感じろどころじゃ無ぇから、素直に考えるだけだよな。
「ま、変わった事と言えば……思い付くのは1つしか無ぇんだけどな」
「あ、ママおはよ」
「おはよ、白湯。よく寝られたか?」
「うん。よく寝れたよ?」
「そっか、それなら良かった。おっとそうだ、ちょっと待ってろ?着られそうな服を探してくるから」
「うん、分かった」
まぁ、全裸の白湯をそのままにしておく訳にもいかねぇから、服を探した訳で……丁度部屋の中にあったのが、豚骨がホルスタインになる前に着せてた服だった。
そのお下がりが白湯も着られそうだったから、白湯に着せる事にした。
ちなみに、やっぱり下着は無ぇ。下着ばっかしゃ、お下がりは嫌だと思うから仕方ねぇよな?
だからくれぐれも先に言っとくけど、俺にそんな変態チックな幼女趣味は無ぇから勘違いすんなよ?もう、何回も言ってるから、耳に蛸が生えて来そうだろ?ってか、耳に蛸が生えたらそれはそれで気持ち悪ぃよな……。
「豚臭ぇ(ぼそッ)」
「ん?何か言ったか白湯?」
「うぅん、なんでもないよ?それにしても、この服、凄っごく可愛いね。ありがとう、ママ」
「お下がりで申し訳無ぇが……気に入ってもらえたなら良かった」
俺はなんとなくだが、白湯がボソッと言った言葉が聞こえて来ていた。だが、一応そこは空気を読んだ。
そして、豚骨の時に子育てがラクとか吐かしやがった誰かを、思いっきし殴ってやりたい気持ちにさせたのは、こっからだった。
「ママ、お腹空いた」
「ママ、遊ぼ?」
「ママ、お腹空いた」
「ママ、遊ぼ?」
白湯は俺にべったりだった。要するに俺は俺の時間が取れなくなっていた。白湯が昼寝でもしてくれれば時間が取れると思ったんだが、一向に寝てくれる気配はねぇし、それこそどこに行くにしても付いてきた。
そこがキッチンだろうと、トイレだろうとお構い無しだ。流石にトイレの中で出してる最中に「遊ぼ?」って言われた時は、どうしようかと思ったぜ……はぁ。
まったく、どうやって遊ぶのか俺が教えて欲しいくらいだったが、流石にそんな事は言えねぇし聞けねぇよ。
これのどこを見て、子育てがラクなんて言えるよな?そもそも、人がトイレしてる姿をまじまじと見詰めてくるのってどうなのよ?
いや、小っちゃい時は何にでも興味を持つのは分かるが……それでもだ!こんなちっちゃい頃から変態滲みた興味持ってるとか、先が思いやられるぜ……。まったくもって本人に善悪の判断が付いてねぇのが、一番厄介だよ。
それに、トイレは水洗の洋式じゃねぇから、マジマジと見詰められると、流石にそれは俺でも恥ずかしいんだわ……。
白湯は終始ベッタリでそんな感じだったから、どんな手を使ってでも寝かそうと思ったぜ。
だから小さい子供を寝かし付ける際に、添い寝をすれば寝てくれるとテレビで言ってたのを思い出した俺は、白湯の背中をトントンしながら添い寝してみた。
だけどよ……寝たと思ってベッドから出ると目を開けてこっちを見てやがった。
もうね、そろりそろりと抜け出したのに、その一部始終をガン見してるとかどんなホラーだよ……って感じでしかなかったさ。要するに白湯は寝たフリしてた訳だ。
ネタなんて振らなくていいのに、困ったモンだぜ……。
そうこうしている内に、俺が夢の中に行っちまった訳だ。流石に夢の中まで付いて来るとは思わないだろ?
でもな、夢の中でも、白湯は俺にべったりで、それこそ鬼ごっこをしている気分だったよ……はぁ。
逃げても逃げても追い掛けて来るし、これが育児ノイローゼってヤツなのかな?テレビで言ってた気がするから、多分そうなんだろうな。
でも俺は寝てた時に夢に見たモノの記憶は残ってねぇから、起きたら気分爽快だったって事だ。だから、ノイローゼにはならねぇよ!
「ママ?寝たの?——チっ。自分だけ先に寝やがって。ま、それなら豚に食われる前に、わちきが食べるからいいけどさ。豚の分なんか、残しておいてやるもんか」
ずるッ
ずりゅッ
「えへへ、今朝も綺麗だと思ったけど、明るい所で見ると凄っごく綺麗だし形もいいし凄く美味しそう。じゅるる。それじゃ、いただきまぁす」
ぺろぺろ
俺は夢の中で、必死に鬼ごっこをしてた……気がする。俺が逃げる役で、白湯が鬼だ。だが、いつも必ず俺が捕まって、白湯に襲われちまうんだ。
これが夢じゃなくて現実だったら、凄ぇ悪夢だろうけど夢の中なのに、襲われると凄く気持ちいいんだよな。まぁ、子供と遊ぶ鬼ごっこが痛くても困るけど、気持ちいいってのもどうなのよ?
付け加えるなら性欲の塊の男子中学生とかじゃないんだからって思うけど、夢の中で幼女に襲われるってどうなんだ?しかも性的にだぜ?
俺は幼女趣味なんか無ぇって思ってるけど、こう何回も夢の中で幼女に襲われてると、実際俺の潜在意識的などこかで、そんな趣味があったんじゃ無ぇかって思っちまった程だ。
とかなんとか言ってても、起きたら全部忘れちまってんだけどな!
ぱちっ
「あぁ、俺が寝ちまってたか……あれ?白湯?」
俺は不意に目覚めた。部屋の窓から見える景色はオレンジ色に染まっていた。随分と長い昼寝をしちまったみてぇだ。
白湯は俺の足元で丸くなって寝ていた。それも気持ち良さそうに……だ。その寝顔が可愛く見えたのは、俺が幼女趣味じゃなくて、母性に目覚めたからだと思い……たい。
「あ……れ?立ちくらみ?全然回復してないのか……。こりゃちょっとヤベぇな。栄養補給出来ないと豚骨がご機嫌斜めになっちまうしな……」
こうして俺は自分の身体がどうなっているのかなんて気にする事なく、立ちくらみや目眩に襲われながらも、白湯が寝てる間に切り身の調理をする事にした。
もう少ししたら、豚骨が帰って来るだろう。そうしたら、一人の時間なんてある訳無ぇし、豚骨はあの図体で随分と甘えん坊な所があるから、労ってやるのも一苦労なんだ。
豚骨ホルスタインアイアンクローもあるしな……。流石にアレの破壊力は凄げぇと思うし、日本でも早々お目に掛かれない逸品……って言えるだろうな。おっと話しが逸れちまった。
まぁ、だから……なんだ。その為には、明日も朝早くから出て行く豚骨の弁当を先に作っておくに限るんだよ。なんか、俺が日本人だった頃はこんな日が来るなんて想像出来なかったけど、専業主婦ってのは、意外と忙しいモンなんだなって、改めて思い知らされたな……。
こんな苦労してたなんて、妻に悪ぃ事してたなって思ったりもしたが、まぁ今となってはそれどころじゃ無ぇから、考えないで行動あるのみってヤツだ。
それにコイツの身体の中にいる俺が妻に会えたとして……そんでもって「悪かったな」って言った所で、「は?何言ってんの?」ってなるのは目に見えてんだけど……。
「でもま、俺も母親には散々迷惑掛けてたからな……まぁ、うん。しゃーねぇっちゃしゃーねぇな。母親になって初めて知る母心ってね。男の俺が母親になるなんざ、夢にも思ってなかったが」
それから暫くの間は、今日と同じような日々の繰り返しだった。豚骨は満たされない腹のままダンジョンに行き、俺は時折やってくる目眩と格闘しながら白湯の隙を縫って調理に励んでいた。
俺はなんでこんなに回復しないのか不思議だったけど、原因はサッパリ分から無ぇから何も言わずにいる事しか出来なかった。
それに、そんな事をおっさんに相談する事も出来ないし……ってか、出来る訳も無ぇのは当然だよな?だってさ、おっさんに余計な勘繰りされても困るし、病院に連れて行かれて困るのも、俺だけだからな。
しかしそんな状況に転機が来たのは、ふとしたきっかけだった。
いつも通り朝早く目覚めた豚骨が、これまたいつも通りに俺を脱がそうとしたら、その日に限って俺は下だけ何も履いていなかったらしい。ちなみに、俺は履かない趣味は無ぇから、前もって言っておくぜ。
そしてその朝は、俺が寝る前に履いた筈のクレアの大人びたショーツと、パジャマのズボンがベッドの脇に落ちてたらしい。
ちなみに、俺はクレアのショーツしか下着を持って無ぇからそれを履いてるが、女物の下着ってやっぱり慣れねぇのな……。だから仕方無くだ。履かない主義じゃねぇから、女物の下着を履くか悩んだ挙句に大人びたショーツを選択しただけだ。
俺としてはボクサーの履き心地が懐かしいぜ。
と、言う訳で状況証拠から可能性は2つに絞られた訳だ。
1つ目の可能性は、俺が寝ている時に夢遊病みたいに勝手に服を脱いで下半身露出している可能性だ。その場合、俺は真性の変態と呼ばれる事になるだろう。
2つ目の可能性は、豚骨よりも早く、俺が誰かに食べられている可能性だ。その場合、犯人は一人しかいないのは明白だし、今までそれを悟られないようにしていたって事になる。
「で、白湯、なんでこんな事をしたんだ?」
「だって、お腹空いちゃうんだもん」
白湯は悪びれる様子もなく開き直っていた。俺的にはもうね、完全に開き直られると怒る気も失くなってた。
とは言ってもこのままじゃ、やりたい放題のワガママ娘になるのは見え見えなので躾は大事だよな?
「白湯、俺は一人しかいない。でも、俺は二人とも大事に思ってる。どちらかだけを特別扱いはしたくないんだ」
「まま……」
「白湯はまだ小さいんだから、ワガママを言うなとは言わないけど、白湯と豚骨は姉妹なんだ。姉妹は協力しなきゃ駄目だ」
「ママ……——チっ(ぼそッ)」
俺、良い事言ったよな?だから前半部分は二股がバレて苦し紛れに言い訳してる感じがするとか言うなよ……な?
だけどそんな俺の話しに豚骨はなんか全裸のまま感動してるけど、白湯はなんかボソボソ言ってるんだよなぁ。
どこかで教育間違えたかなぁ?まぁ、下半身露出したままの俺が言っても説得力無ぇのは分かるが……な。
「白湯、約束出来るか?二人で協力するって。出来ないなら……俺は怒る」
「わちきは怒られたくない。だからこれからは、とんこっつお姉ちゃんと協力して、ママを食べるね。そういう事だよね?」
「ふぁッ?!」
「あとそういう事ならわちきも、とんこっつお姉ちゃんと一緒にダンジョンに行ってみたい!それなら、ママのお手伝いも出来るって事だよね?」
「「ふぇっ?!」」
そんなこんなで話しは纏まった……んだが、これで纏まるほど簡単な問題じゃなかった訳なんだよ。はぁ……。
先ず調べてみたら、白湯は武器を装備出来なかった。それだけじゃなくて、装備品も制限があるらしい。要するに、装備出来るのは何やら特殊な装備だけになるらしく、それまではただの服1枚でダンジョンに入らなきゃならないって事だ。
豚骨が言う、お宝部屋で装備品をゲットするまでは、そのままの格好で闘うって事さ。豚骨の時みてぇに、前もって用意した胸当てとか鎧とかを着せられないんだから、危険だろ?
とは言っても最初から無碍に扱えば機嫌を損ねるのは分かっていたから、そもそも闘えるのかを豚骨に見てもらう事にした。
だから、要するに最初の階層でモンスターと闘って様子見をするって事に落ち着いたんだ。
「じゃあ、ぱいたん。この階の敵は強くないから、闘ってみて」
「はぁい、わちきもママの為に頑張る!」




