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1話 1つ目の食材は2つ目があるツバメが作った巣

挿絵(By みてみん)



「俺は一体……ここはどこだ?」


 俺の名前は山形次郎、41歳。至って思い込みの激しいサラリーマンだ。いや、サラリーマン()()()



-・-・-・-・-・-・-



 ある日のある時、会社から疲れて帰って来た俺は、面倒臭そうに晩御飯の用意をしてくれた妻に対して、お礼を言うでもなくテレビを見ながら一人で飯にしてたワケだ。

 ちなみに子供はまだ小さくて、とっくに寝かし付けられているし、妻は子供と晩御飯を食べるらしいから一人晩飯(ボッチ飯)は当たり前の事だ。



「さぁて、テレビでなんか面白い番組はやってねぇかな?」


 俺はリモコンで次々とサーフィンし、見たい番組を直感で探していった。新聞を取ってないからテレビ欄なんて無いし、リモコンに付いてる「番組表」なんてボタンは触ったりしない。

 感性が全てだ。物事全て考えるモンじゃない、感じるモンらしいからな。それこそソウルを感じられればそれが正解なのさ。



ぱたんッ


 どうやら、妻は寝たらしい。何も言わずにふらっとキッチンからいなくなり、寝室のドアが閉まる音がそれを教えてくれた。

 これで何の気兼ねもなくテレビに夢中になれる、俺のハッピータイムが来たって訳だ。



 そうして暫くサーフィンしてた俺だが、見たい番組が見付かったからサーフィンするのを止めてハッピータイムを満喫する事にした。だがそれは俺の脳髄に衝撃と言う名の電撃を奔らせていったのさ。




 次の日、俺は会社を辞めた。テレビに感化され、テレビでやっていたモノを実際にやってみたくなったからだ。

 会社を辞めると上司に言った時、「あっそ」と一言だけ返って来ただけだったから、俺は戦力に見られてなかったのかもしれない。まぁ、戦力に見られていてもブラックな会社はいずれ辞める気マンマンだったし、あっさり辞められてラッキーだった。その程度にしか感じなかった。


 ちなみにその日は早々に帰ってから、会社を辞めた事を妻に告げた。

 そしてその翌日、俺がやりたい事の準備の為に出掛けている間に妻は緑色の紙に化けて、子供とどこか旅に出たそうだ。

 置き手紙にそう書いてあったから間違いない。どこに行ったのかは知らない。手紙には書いてなかったから、どこかで元気に暮らす事にしたんだろう。

 妻とは恋愛結婚だったが……って、そんな話しはとうでもいいからこの際、どこかに放り投げておく。




 さて、こんな俺だが、今はどこにいるかって?そりゃ勿論、決まってるさ。

 ここはインド東部のベンガル湾に浮かぶ島。アンダマン諸島ってヤツだ。そして、その断崖絶壁に張り付いているのが俺だ……って言っても見えねぇよな?だから今は大自然の雄大さでも拝んでいってくれや。



「あっ」


 俺は巫山戯ていた訳じゃあないが、足を滑らせてそのまま海に叩き付けられ、そのまま海の藻屑になっちまった。

 結局、ジャワアナツバメの巣には手が届かず、何の収穫もないまま俺は意識を失う事になる。海に落ちた衝撃は痛いなんてモンじゃねぇし、二度と御免だとしか言えない。

 今思えば、なんで命綱を付けずに断崖絶壁を降りれると思ったのか正直分からねぇし、思い込みってすげぇなって思う。だから、良い子は絶対に真似したらダメだぞ!思い込みが激しい俺だからこそ「出来る」と思っちまったが、普通は絶対に無理だって思い直してくれよな!

 約束だからな!



 でもさ、なんでそうなったかと言えば、現地人のおっちゃんがよく分かんない言葉で話してたから、金を巻き上げられたら困ると思うじゃんか?だから俺は「No No」って言ってやったのさ。

 そしたら「Go」って言われたから、ちゃんとジャワアナツバメの巣まで軽く行けると思ってたんだよね。

 ま、途中で足を滑らせた訳だからしゃーねぇよな。目も当てらんねぇってのはこの事さ。結局は、目じゃなくて全身から海に叩きつけられた訳だが……やっぱり、しゃーねぇもんはしゃーねぇよ。



 ところで、なんでアンダマン諸島にいたかと言うとだな、ジャワアナツバメの巣が欲しかったからだ。‒‒いや、だからその巣を使って、最高にコラーゲンたっぷりのラーメンスープを作るつもりだったのさ。




「俺は一体……ここはどこだ?俺は海に叩き付けられて……そうだ、ツバメの巣!しゃあねぇ、もっかい取りに行くか。今度は命綱もちゃんと身に着けて慎重に行けば絶対に取れるよな?いや、取れるに決まってる。俺は出来る子だからな」


きょろきょろ


「ってか、それにしても、ここはどこだ?海に落ちた俺がなんでこんな、周りに海が無ぇ所にいるんだ?そもそも、ここは……どこだ?」


 目が覚めた俺はまだ寝呆けている頭で考えながら、あの断崖絶壁に向かって歩いていく事にした。流石に日本からわざわざアンダマン諸島までやって来たのに、ラーメンスープの材料が手に入らないまま帰る訳にはいかないし、そのまま次の目的地に向かう訳にもいかないのは分かってもらえるよな?




 それにしてもなんでツバメの巣をラーメンスープにしようと思ったかって言うとだな、ただの直感だ。俺の至高な感性が、最高のラーメンを作るのにツバメの巣が必要だって告げていたんだ。それだけだ。

 俺のソウルが感じたんだからそれで正しいんだ。


 そんでもってツバメの巣が取れたら次はフランスのプロヴァンスに行くつもりだった。どうやらプロヴァンスには最高に鼻がいい豚がいるらしい。

 だからその豚の骨……即ち豚骨を使って、植物のコラーゲンと動物のコラーゲン……その二つを煮込んで煮込んで、これでもかってくらい煮込んで混じり合わせる。

 さらにはその最高に鼻がいい豚が取った、香り立つトリュフを混ぜれば俺が考える究極のラーメンスープが完成すると、俺の本能が言っているんだ。

 だから俺はなんとしてでもツバメの巣を取らなきゃならない。それこそが、俺の宿願なんだよ。分かってくれるよな?



「それにしても、あの断崖絶壁ってこっちであってんのかな?ってか、よく考えたら俺の身体って意外と丈夫だったんだな?あの高さから落ちて、怪我一つしてねぇなんて思わなかった。まぁ、背負ってたバックパックとかはどっかに行っちまったけど……」


ざっざっ


「って、アレ?俺の手って、こんなに小さかったっけか?」


 俺は何かに気付いてしまった。どう考えても視界が可怪しい。今日のさっきまで見えてた高さよりも大分低い。バックパックを失ったから、自分の顔を見られる物は何一つ持ってないけど、自分が見える範囲で、見る事が出来る俺の身体は随分と小さくなっていた……ように感じる。


 俺は急に不安になって来ていた。だから俺は自分の身体を触って見る事にしたのさ。ってか、そもそも着ているこの服はなんだ?こんなひらひらしてる服なんて買った記憶も無ぇし、間違っても妻の服な訳がない。

 そもそも妻はスカートなんて履かなかったしな。


 それに俺がそんな服を着たい訳も理由も無ぇ。だって俺、女装の趣味なんかねぇしさ。

 いや、待てよ?なんだ、この膨らみ……は?



「あぁ、もういいや。そんな事よりも、今はツバメの巣の方が先決だ。荷物も失くしたから、パスポートも再発行してもらわないといけねぇだろうし、モタモタしてたら予約したホテルもキャンセルされちまう」


 こうして俺は行き当たりばったりで、あの断崖絶壁がある筈だと、直感が告げる方に向かって走って行く事にしたんだ。

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