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第98話 首脳陣の苦悩

 夜も遅い王城。

 隣国の視察団が入国して以来、宰相のウィルフリード・サントスは連日残業続きだ。


 神の聖石によって守られてきたフランネル王国は、特にこの数十年は戦もなく平和で豊かな国だ。しかし今は以前とは違う。数ヶ月前には突然聖石が曇り始め、原因不明のそれは国を揺るがす問題でもあり、常に彼は頭を悩ませていた。


 おまけに、1週間前に強引にやってきた隣国エネループ王国の視察団だ。しかも聖女が勝手に、聖女の離宮にエネループ王国の第二王子を滞在させたことから始まり、問題ばかりである。

 あちらの希望で組んだ視察には第二王子はほぼ同行せず、聖女が第二王子を連れ回している状態だ。

 護衛という名目の監視役を押し切って、王城の立ち入り禁止区域に立ち入ろうとしたり、王城の図書室奥に厳重に管理されている王族のみの特別閲覧室に立ち入ろうとしたり、今日などは聖石が曇って以来立ち入り禁止にしている王都の教会に強引に入ろうとしたり、幸いにも今の所は未然に防げているものの、問題が発生してばかりである。隣国の失態にできないのは聖女が先導しているせいだ。

 入国直後から行方をくらました視察団の一部は未だ見つかっていない。

 おかげで、宰相ウィルフリードは頭が痛い状態が続いているのである。


 しかし、今夜はそろそろ屋敷に戻ろうかと思っていたウィルフリードに、特務室長のエリック・スタンリーより喫緊の問題について面会の申し入れがあったのは半刻ほど前のことだ。

 おまけに、まるでタイミングを計ったかのように、騎士団総長のバローム・ライハートからも同様にだ。

 二人の申し入れを受けた直後、ウィルフリードの眉間に皺が刻まれたことは言うまでもない。




「まずは悪く無いご報告からです。 ローベに派遣している調査員より、ポーションでは無いけれど、傷に塗ると傷が治る薬のようなものを見つけたと報告がありました」


 宰相執務室で3人が顔を合わせると、挨拶もそこそこに、エリック・スタインが報告を始めた。


「ほう。それはどのような物なのだ?」


「はい、ローベの平民の営む宿で作っているそうです。 薬草から抽出した成分を、そこでは元々は女性用の美容に関する商品として売り出したものだということで、“ラベンダー水”“ラベンダー美容液”という商品だと聞いています」


「ラベンダー? それは何だ? それが、傷に効くのか?」


「はい。調査員が偶然にも領主に同行してその品物を確かめたそうでして、やけどの跡が治ったり、騎士の古い傷やつけたばかりの切り傷なども数秒で治ったと報告がありました。 これは試してみないとわかりませんが、東部地域を中心に広がっていた体調不良の者たちに試してみることはできないかと打診が来ております」


「平民の宿で作っているものにそのような効果が見込めるとは、にわかには信じがたいな。 治癒薬院で作っているポーションと同じような効果があるとは…しかし、領主立会いで確認済みか。 試してみるように指示してくれ」


「承知しました。 次の報告ですが………ローベで呪術具が発見されました」


 前の報告の後、一旦言葉を切ったエリックが、大きく息を吸うと、そういった。


「何だって?」


「ローベの街で、呪術具が見つかったそうです」


 ウィルフリードは思わずそれを聞き返し、騎士団総長のバロームは眉をしかめる。


「呪術具?」


「はい。 報告は先ほどと同じく、ローベの街に調査に行っている調査員のアーロン・スタインとミカエル・ワーグナー小隊長からです。 本日、ローベの街の聖女の山へ向かったところ、山の麓の茂みの中で呪術具を発見したと報告がありました」


 エリックは、ウィルフリードにそう告げると、言葉を続ける。


「見つかった呪術具は4つ。いずれも赤い手の平ほどの大きさの石のようなもので、その表面には薄く魔法陣が刻まれていたと。 幸い、いずれも作動しておらず、恐らく解呪されていると思われるとの報告です」


「何だって…」


 同じ言葉が無意識にウィルフリードの口をついて出る。



 呪術具は特殊だが、時折出回ることがある。とはいえ、今の時代に出回る呪術具といえば、ほとんどのものは見せかけだけで効力の無いものだ。

 しかし、“赤い艶のある石のようなもの”となると話は別である。なぜならそれは、200年前までに封じられていたはずの黒魔術を用いたもので、その中でも最も禁忌とされるものだからだ。

 この200年の間には2度ほど、どこで手に入れたのか “赤い艶のある石のような” その呪術具が発見されたことがあった。恐らく、封じられる前に作られていたものを、何かしらの形で手に入れていたのだろう。

 その2度のうち、1つは160年ほど前のこと。そしてもう1つは今から12年前。 某公爵家の子息宛の贈り物に紛れていたものである。

 幸い、公爵家当主に呪術具についての知識があり被害は出ずに済んだが、それを機会にして国内の貴族や闇組織などを徹底的に洗い出し強制捜査を行ない、様々な膿を出すこととなった。 しかしその時、黒魔術の呪術具は発見されなかったのだ。



「調査員は無事だったのか? アーロンは君の弟だろう?」


「はい。幸い、アーロンもワーグナー小隊長も被害はなかったと聞いています」


「発動しなかった…いや、解呪していたと?」


「騎士団では呪術具の類の知識を持っている。恐らく、ワーグナーが判断したのだろう」


 同席している騎士団総長のバローム・ライハートが代わりに答えた。


「はい、騎士団総長の仰る通りです。 ワーグナー小隊長に呪術具の知識があり、発見された呪術具のタイプは石状のものの表面に薄く陣が刻まれたもので、恐らく魔核ではないかと報告がありました。 また、現在、治癒薬院本院より内々に2名の癒薬師がローベを調査訪問中で、本日は聖女の山に同行していたということでした。 その癒薬師も呪術具についての知識を持っており、発見された呪術具はその大きさから見ても、触った瞬間から発動するはずで、魔力を奪われたり、精神を操られたり、体調に著しい変化が現れたりするものと思われるようです。 しかし、触ったアーロンには何の変化もなかったということでした」


「「触ったのか!?」」


「ええ、アーロン調査員は呪術具に関する知識がなかったため、茂みの中にある赤い石のようなものを思わず拾ってしまったようです。 申し訳ありません」


「…いや、君の弟が無事で何よりだったよ。 そういえば昔、騎士団で赤の呪術具について知らされた際に赤の呪術具は『思わず触ってしまうものなのだ』と聞いたな…だから呪術具なのだと」


「呪術具についての知識はいたずらに広げるとその影響が計り知れないため伏せていた。が…しかし、今後は調査員には呪術具についての知識を事前に与えておく必要があるな」


「ああ、ウィルフリード。それがいい」


「それで、その呪術具ですが、調査員に同行していた癒薬師も確認し、すでに解呪されていると思われるということでした。 今回仕掛けられたのが聖女の山でしたから、仕掛けられた時にすでに解呪されていたのではないかと」


「なるほど。ローベの領主には報告しているのか?」


「いえ、それが、ローベの領主は本日この時間になってもまだ公館へ戻っていないそうです。 確か、近隣都市で相次いで発見された“偽造硬貨対策”のための会議が本日だったかと。 周辺領主が西部のリスバンに集まっていたはずですから、恐らくそれに出席していたのではないかと」


「ああ、あれも今日だったか…」


「アーロンの話では、この時間まで領主が戻らなかったため、明日朝一で面会を申し入れることになっているということでした。 領主代理には事態について報告を知れているため、恐らく魔導師の手配も本日行い、明日は聖女の山に呪術具の探索に出ることになるということです」


「わかった。 しかし、これは他の都市にも伝えておくべきか」


「被害が出ないうちに対策は必要かと」


「それにしても、聖女の山に呪術具とは……それに、なぜローベに?」


「ローベはこの国の交易の拠点で外国からの出入りも多いですが…最近で言えば、唯一瘴気の影響を受けていない街ですね。それと、これも最近ですが光の柱が立ったと報告がありましたが…」


「関連を考えられないことはないが、しかし…そう考えるとするならば、瘴気問題は人為的なものだという答えに行き着くな」


「一体、誰がこのようなことを…」


「問題が積み上がる一方だな」


 バロームの言葉に、執務室が静まり返った。




「ところで、バローム総長からの喫緊のお話とは?」


「ああ、これも良くない話だ。 東部、北部を中心に再び魔物が凶暴化し始めた。 以前よりもさらに凶暴化しているようで、各地で討伐に苦戦している。 早速、待機させていた騎士団を派遣し、討伐に当たっている」


「今度は魔物ですか」


 宰相のウィルフリードがこめかみを押さえながら大きなため息を吐く。


「以前よりも凶暴化といいますと?」


「まず、出てくる魔物の大きさが、通常の倍ほどまで大きくなっているそうだ。 以前と同様にどの魔物も目の色が通常と違い赤いらしい。 体が大きくなったのに比例して魔力も増えているようで、討伐にかかる人員もこれまでの倍で対応しなくては手に負えないほどだと聞いている」


「なるほど。数はどうですか?」


「それが、数も増えているらしい。 森の奥の方から街道まで出てきて人を襲っているため、今騎士団と地元の傭兵を調査にやっている」


「騎士団の応援の方は継続しても問題なさそうですか?」


「ああ、まだ増やせるし今は問題ない。 しかし、」


 バロームが一旦言葉を切る。


「しかし、もし今後、さらに凶暴化魔物の数が増えた場合…例えば、魔物が大量発生すると仮定すると危険だ」


「魔物の大量発生…スタンピードですか…」


「ああ、各地域には事前にそれなりに準備をさせておく必要がある。 発生する場所にもよるが、スタンピードが発生してから街まで到着するには早くて2~3日かかるだろう。 各地で騎馬の偵察部隊を組んで毎日報告させて応援が出せるようにしている」


「複数個所で同時に発生する可能性は?」


「残念だが、無いとは言い切れないな。数カ所であればなんとかなるだろう。 しかし、もしも国全域で同時に発生すれば対策の取りようが無いかもしれない。 最悪の場合は…国が滅びる」


 バロームの言葉に、執務室に重く沈黙が広がった。


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