表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/116

第76話 シモンズと薬草園

(コイツの女性嫌い…トラウマ、発動しないこともあるんだな)


 やどり木亭で夕食を済ませ、案内された部屋でようやく一息ついたところで、ダリルはそう思っていた。

 ダリルが知っている限り、シモンズが女性と普通に話をしている様子を見るのは初めてだった。 まだ少女とはいえ、ましてや手を握って話すなど、「お前、そんなことできたのか!」 と声を出しそうなくらい驚いたのだ。


(母君と姉君は平気だって言ってたし、そりゃそうか)


「シモンズ、お前さ、」


 ダリルは、そこまで言いかけて言葉を止める。

 少女とはいえ、無意識にでも女性と普通に接することができるのなら、このまま自然に接するのが良いのではないかと考えたのだ。そういう積み重ねで少しでも慣れていけば、女性嫌いやトラウマも解消するかもしれない。そうなれば本人も楽だろうと思ったのだ。

 とっさに話題を変えようと、さっき食べた宿の食堂の料理に使われていた薬草の話をする。


「あー、いや、さっきのあの料理って、薬草使ってたよな?」


「使っていたね。薬草を使った料理なんて初めてだったけど、美味しかったよね。それに、なんだか体が楽になった気がするよ」


 料理に使っている薬草は、マリーの聖女の力が込められている薬草園で収穫した薬草だ。普通の薬草よりも、効能が高いので体調が良いと感じるのも当然なのである。


「そうだよな。俺も疲れが取れた気がするよ。それにお前、顔色もだいぶ良くなったぞ!」


「ふふ。それはよかった」


 食事もして部屋に入り、やっと一息つけたような気持ちになったシモンズは、運河港からこの部屋に入るまでのあれこれを思い出す。

 やどり木亭に泊まれないかもしれないとなった時には愕然としてしまった。

 そのためだろうか、「あと少し頑張れば宿で疲れを癒せる…」と、随分前から張り詰めていた気持ちが途切れてしまったようで、もう立っているのもやっとという状態だったのだ。

 あの状態では、人が溢れるローベの街を歩くのも辛く、宿を探すのは難しかったに違いない。ダリルにも迷惑をかけることになっていただろう。


(マリーちゃんのおかげだな。まだ小さいのに、こんな風に機転を働かせてくれるなんて…前回のお弁当の時といい、助けてもらってばかりだ)


「それにしても、今夜はこの部屋に泊めてもらえて本当によかったよ。まさか祭りでこんなに人が多い時期だなんて思いもしなかったからな。助かった」


 シモンズがそんなことを考えていると、ダリルも同じことを考えていたようだ。


「ああ、本当に…。これまでもローベにはよく来ていたのに、僕は祭りの時期に来たことがなかったんだな。でも、本当によかったよ………こんな部屋まで用意してくれて、マリーちゃんには何かお礼をしないと」


「あの子がこの間話してたこの宿のお嬢さんなのか?」


「そうだよ。まだ12歳なんだけど、とても利発で元気が良くて可愛いよね。まだ小さいのにしっかりしてて、一生懸命なんだ。それに、なんというか清々しい女の子だろう? 」


 頬を緩めながらマリーの話をするシモンズに、ダリルはいつぞやの研究室での一幕を思い出していた。


(いつもはポーションしか口にしなかったシモンズが、宿の弁当なら食べられるからって、宿に無茶振りをして60個の弁当を注文したんだったか…マジックバックがあるからって、最終的に100個の弁当を作ってもらったんだったよな)


「お前、そう言えば、この間の弁当の礼とか、一応言っとけよ?きっと作るの大変だったぞ?」


「ああ、わかってるよ。ダリル、ありがとう!」


 シモンズがふにふにと微笑みながらそう答える。


「そういえばこの部屋、なんだ? なんていうか、空気が清々しい…?ああ、薬草の香りだな?」


「そうだね。どこから香りがしてるのかな……あ、これかな?」


 香りの元は、マリーがお部屋の確認の際に玄関とクローゼットに置いたラベンダーのサシェだ。

 きつ過ぎない程度の柔らかな香りが、心地よい空間を作っている。


「これはすごい…香りを嗅ぐだけで、身体の疲れが全て取れるよ。ほら」


 それはそうだ。

 しつこいようだが、ただでさえ、やどり木亭はマリーの聖女の力が満ちているため常に浄化されており、それが空気の清々しさや心地よさに繋がっている。

 それに加えて、マリーの聖女の力が込められている薬草を使ったサシェだ。それはもう、効果も何もかもが増し増しなのである。


「薬草を料理に使ったり、匂い袋にしてるってことは、マリーちゃんは山に行けたんだな。あれ?…これって…」


「え?何?山って、聖女の山のことか? “薬草の聖地”の?」


「ああ、この間来た時に色々話したんだ。そうしたらマリーちゃん、薬草とかポーションとかに興味があるみたいだったから教えてあげたんだよ。山のこと」


 そういえば、とシモンズはマリーが薬草やポーションの話、魔法の話にも興味津々で瞳をキラキラさせていたことを微笑ましく思い出し、頬が緩む。


「え?それであの子が、山に入れたって?!そんなことあるのか?!」


「うん、そうだね。なんとなく、もしかしたら行けるんじゃないかって思ったんだけど、やっぱり入れたんだな。だってこの薬草、“女神の恵み”だよね?」


「ええっ?! そ、そんなことあるのか?! 聖女の山だろ? 入れないのが普通じゃないか! それに、“女神の恵み”だって?!」


「そうなんだけど、ここに薬草があるってことは、多分行けたんだと思うよ。適性があったんだろうね」


 聖女の山に入れる人は少ない。その選別基準は今一はっきりしていないのだが、治癒薬院にはシモンズ以外にも入れる者はいる。しかし、それでもいつも入れるとは限らないらしく、入れたり入れなかったりする者は採取に影響があるため、他の採取地を自分で探しているのだ。シモンズは昔から安定して入れるため、毎回採取に来ているが。

 しかも、“女神の恵み”を採取できるなんて、よほどの強運の持ち主なのか。


「そんなことあるんだな……もしそうだとしても、お前がこの間ここに来てからもうすぐ二ヶ月くらいだろ? …ああそっか、地元だから、行こうと思えば頻繁に採取にも行けるよな。マジックバック無くても在庫には困らないしな」


「いや、マジックバックならこの間渡してある。予備があったから、使わないから良ければ使ってって渡したんだ」


「はぁ??? マジックバックを?! おまっ…それ…」


 マジックバックはそこそこかなり高価だ。治癒薬院では採取用に職員に貸与しているが、シモンズは公爵家だからマジックバックもいくつも所有している。その私物を渡したのだろうが、そんなものをひょいっと渡されたら普通はかなり驚いてしまい受け取りづらいだろう。もしかしたら相手がその価値をよくわかっていない可能性もあるにはあるが。


 しかし、シモンズはそのようなことには気にもとめずに話を続けていた。


「今日は聞けなかったけど、今度会ったら聞いてみようかな。山の話。あ、せっかくなら、山に一緒に行ってもいいよね? ダリル、君も一緒に行ってみようね?」


「ああ、行くよ」


 行けるかどうかなど、実際に行ってみればわかるのだから、今ここで推測しても無駄なことなのだ。それに、院長からの指令もある。入れるかどうかはわからないけれど、ダリルも一緒に行き、試してみることは大前提だ。


「そうだ、早速明日、マリーちゃんに予定を聞いてみることにするよ。いつも一人で行ってたから、誰かと一緒に行けるの、楽しみだなあ」




 そうして迎えた翌朝である。

 外からマリーと子供達の声が聞こえてきたため、早速聖女の山へ一緒に行かないかと声をかけようと、シモンズは庭に降りた。


 すると、昨夜、部屋に入った際には暗くて気づかなかったそこには、自分がいつも見慣れた薬草たちが茂っているではないか。決して、聖女の山以外では育たないと言われている薬草たちが、である。

 あまりにも立派な薬草園に驚いていたところ、さらに信じられないことが起きた。

 マリーが薬草全体にキラキラと輝く光を振り撒いたのである。



(こ、これは……)



 驚きのあまり、シモンズが固まっていたところ、今度は子供達が「精霊がいる」と騒ぎ出したのだ。


(今度は精霊だって?! 一体何が起きてるんだ?!)


 ローベで迎えた最初の朝。驚きの連続に立ち尽くすシモンズだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ