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第74話 シモンズ、やどり木亭へ

「ええ?! ど、どうしよう…!? えっと…ええっと、と、とりあえず、私も表に行きます!!」



 オリバー支配人と一緒にフロントに向かうと、確かに、そこにはいた。相変わらず、人間離れした美形(シモンズ)が。

そして、大変にわかりやすく項垂れていたのである。



「シ、シモンズさん!!」


 マリーは痛々しいシモンズの様子にたまらずに声をかける。


「…ああ! マリーちゃん…! こんばんは。久しぶりだね!」



 大変だ。大変である。

 マリーの、「面倒を見てあげなきゃいけない、かわいくて心配が尽きない弟分」であるシモンズが、大変である。


 力無く顔を上げたシモンズは、顔色も悪く、今にも消えてしまいそうなほど、儚く見えるではないか。


(うわぁぁっ…シシシシシモンズさんが、き、消えそう!!!)


 いや、人はそう簡単に消えない。

 しかし、ただでさえ、精霊か何かかと思ってしまうほど人間離れしていてる美形(シモンズ)が、顔色も悪く項垂れて、若干生気も感じられないという様子に、今にも消えてしまいそうだと本気で心配してしまうマリーだった。


「シ、シモンズさん! お久しぶりです…っていうか、どうしたんですか?! 大丈夫ですか?!」


「ああ、大丈夫だよ」


 力なくマリーに微笑みかける、その笑顔が痛々しい。


(大丈夫ですかって思わず聞いちゃったけど、全然大丈夫じゃないよね!! こんな状態って、どうしちゃったの?)


 以前宿に泊まった時も、確かに健康そうではなかったけれど、ここまでひどくはなかった。


「あーー、コイツ、ちょっと色々あって疲れが溜まっててね。トドメに、楽しみにしていたここ(やどり木亭)に泊まれないことがわかって、ちょっと落ち込んでるんだ」


「ダリル! そんなことを言って、マリーちゃんが気にしたらどうするんだ…!」


 ダリルと呼ばれたシモンズの隣にいる青年の言葉に、シモンズは項垂れながらも抗議する。


(そっか、お仕事大変だったんだね…それなのに、うちの宿に泊まれなくてさらに落ち込ませちゃったなんて!! ううう…辛い……。でも、こんなに疲弊してるのに、こっちのことを考えてくれるなんて…シモンズさんって、めちゃくちゃいい人…!!)


 マリーの中でシモンズに、「面倒を見てあげなきゃいけない、かわいくて心配が尽きない弟分」に加えて、「めちゃくちゃいい人認定」が加わった瞬間だ。


「あー、ごめんね、お嬢さん。そんなつもりじゃなかったんだけど。 シモンズ、そんなこと言ったってお前…そんなにわかりやすく落ち込んでおきながら…」


(どうしよう、なんとかしたいけど…)


 ダリルと呼ばれた青年は、シモンズのことを心配しているのだろう。マリーとしてもなんとかしたい気持ちは大きいのだ。でも部屋がないのはどうしようも無い。


「シモンズさん…大変申し訳無いんですけど…、明日からの祭りの影響で、今ローべはすごい人出で、うちの宿も数日前から満室なんです。祭りが終わってからもしばらく先まで…」


「うん、彼に聞いたよ。ごめんね、僕大人なのに、マリーちゃんに気を遣わせちゃって…残念だけど、大丈夫だよ。次回の予約時には、またよろしくね」


「じゃあ…」 と立ち去ろうとするこちらに向けた笑顔は、頼れる存在を無くして心細そうな…そう、まるで捨てられた仔犬のようではないか。(※注:マリー目線)


(ううううう〜〜、シモンズさんが、かわいそうな仔犬にしか見えないよ……ど、ど、どうすれば…!! 一階の部屋はもう時間貸し部屋になってて泊まれないし…ベットも運び出してアパルトマンに持って行っちゃったし…かといって、この時間に他の宿の手配も大変だよ。空いてるかわからないし…)


 普段のローべならまだしも、明日から祭りの始まるローべは人で溢れるほどだ。この時間から宿の手配がすんなりできるかどうか心配だ。もしかすると、この時期、冒険者はもいつもより少ないので冒険者用の雑魚寝の宿なら空いているかもしれない。

 でも、“うちの弟”的なシモンズをそんな雑魚寝の部屋に泊まらせるなんて、色々と心配だ。


(いっそのこと、うちの家に泊まってもらう…?)


 そう考えながら、マリーはハッとする。


「そそそそ、そうだ!! あの!!」




 *




「こちらです!」


 ガチャり、と鍵を開けて入ったのは、やどり木亭の寮でマリーの家もあるアパルトマン。その2階で、現在空室になっている2LDKの1部屋だ。

 つい先日、宿の1階の部屋からベッドを運び込んだばかりだし。ダイニングにはテーブルと椅子もあるし、隣室の研究室に作業スペースを作る際には、ソファやローテーブルなどをこちらの部屋へ移動した。

  やどり木亭は宿の内装も家具類も、1階に詰め込まれていた家具も、ご先祖様のおかげで大変にセンスが良い。おかげで、アパルトマン2階の2LDKの部屋も、落ち着いた調度類により、上質な空間になっているのである。

 おまけに、荷物を運び入れる前に部屋の掃除はしていたし、ベッドを運んだ際に配置まで整えていたので、すぐにでも生活できる状態なのだ。


(さすがわたし…っ! 準備万端! 先見の明?! いや、ある意味予知? 予知かな?)


 どんな時でも、どんな些細なことでも、自画自賛を忘れない。ちょっぴり斜め上をいくマリーである。



「マリーちゃん、気を遣わせちゃってごめんね? 僕らはとても助かるし嬉しいけれど、本当にいいの?」


「はい! 大丈夫です! ここは誰も使っていないのでご遠慮なく!」




 フロントでシモンズが項垂れて落ち込んでいた時、その場でオリバー支配人に相談して、マリーが二人に提案したのが、アパルトマンの部屋への宿泊だった。


 ただし、1部屋しか用意できないので一緒の部屋に泊まってもらわなくてはいけないこと、同じフロアは従業員の寮と宿の研究室になっているので、朝早くから夜まで人の出入りがあるし、3階はマリーの家と他の住人もいるので生活感もあること、1階は宿の作業場になっているので人の出入りがあること、、事前にプロの清掃が入っていないこと、などなどを伝えた上で 「それでもよければ」 とアパルトマンへの宿泊なら可能であることを提案したのだ。


 もちろん、シモンズは即答で宿泊を希望。ダリルも、シモンズがそれで復活できるなら何も問題ないため、めでたく、シモンズとダリルのやどり木亭のアパルトマンへの宿泊が決定したのである。


 それから、マリーは、夕食がまだだった二人には、先に食堂でゆっくり食事をしてもらうことにした。

  その間に、念のため部屋の状態の確認をして、空気の入れ替えをして、宿の部屋と同じようにアメニティを揃え、リネン類をセットし、ラベンダーのサシェを玄関とクローゼットに置いて部屋を整えた。一輪挿しで花も飾った。完璧だ。



 そして、空がとっぷりと濃紺色に変わった頃、食事を終えたシモンズとダリルに、二人が滞在するアパルトマンの部屋を案内している今である。



「ここがリビングとダイニングキッチンです。廊下の最初の扉が洗面室で、その中に、バス、トイレがそれぞれあります。 ベッドルームは廊下の奥の2部屋です」


「おお! 広いな! こんな立派な部屋を貸してもらっていいのかい?」


「はい! もちろんです! ここなら、他の予約が入るということもありませんし、シモンズさんとダリルさん専用です! 泊まりたい放題ですよ!」


「マリーちゃん…!ありがとう!」


 部屋も決まり食事も済ませたからか、シモンズは少し生気を取り戻したように見える。ダリルも安心したのだろう、目に見えてほっとしているようだ。

 そんなに喜んでもらえて、勝手に大事な弟(分)だと思っている、シモンズとその友人を窮地から救えたような気がしてマリーも一安心だ。


(うんうん、本当によかった!! 疲労困憊で訪れた旅先で、夜になっても宿が決まらないなんて、不安だったよね。 おまけに、疲れてお腹が空いてると余計に不安で心配になっちゃうもん。 シモンズさんがちょっと元気になってよかったよ!)


「お部屋の清掃やタオルやシーツなどのリネン類の交換などはどうされますか? 宿の方でももちろん承ることが可能ですけど、もしプライベートを重視されるのであれば言ってください! 一応、お部屋の方でもお洗濯はできるようになっています」


「いや、できれば清掃やリネン類の交換などは全てお願いしたいな」


「わかりました! では、必要な時に、この札をお部屋の外に掛けていただけますか? それと、お手数ですが、お部屋に入って良いタイミングなどは、念のためフロントまでお知らせいただけますか?」


 マリーが出したのは、「掃除してください」「リネン類の交換をしてください」「起こさないでください」 を知らせるためにドアノブにかける札だ。それに、ここは宿の中ではなくアパルトマンの2階なので、札だけではなく、念のために声もかけてくれるよう頼んでおく。


「わかったよ。マリーちゃん!本当にどうもありがとう!」


 捨てられた子犬のようだった顔が嘘のように、声と表情に生気が戻ったシモンズが、マリーの方に踏み出してグっと近づくと、マリーの両手を胸の前で握りしめ、キラキラした笑顔でマリーに礼を告げてくる。


(くっっ!!! 近い! シモンズさん、相変わらず距離感近いよ! おまけに元気になった途端に美形攻撃…!!)


「こちらこそ、うちの宿にお越しいただきありがとうございます! どうぞごゆっくりご滞在くださいね!」


 シモンズの美形攻撃に思わず体を後ろに引きそうになりながらも、必死で答えるマリーだ。


 美男美女の両親といい、やどり木亭の面々といい、かなり高めの顔面偏差値に囲まれているマリーは、美形には慣れている方だ。にも関わらず、シモンズのキラキラ笑顔の美形攻撃にはかなりのダメージを受けてしまう。その威力は、直視するのが厳しいほどである。


(くっ…美形って…!! でも、前世では美人は3日で飽きるって話だったよ…頑張って早くに慣れるぞ!! でも、シモンズさん、だいぶ元気になったみたいでよかった〜〜! )


 こうして、シモンズとダリルの、やどり木亭のアパルトマン滞在がスタートしたのである。


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