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第70話 侯爵夫妻のご来店2

本日2話目の投稿です。(日付が変わってすぐの投稿 第69話と、この第70話です)

「侯爵家にお邪魔するなんてとんでもない!」と即お断りするつもりだったのに、「王国では珍しい茶や菓子」「宿の皆にもお土産」という言葉にあっさりと釣られて、即刻「諾」と回答してしまったマリーである。


(ハッ! お断りするつもりだったのに! くっ…貴族って怖い!)


「まあ、嬉しいわ! ねえ、いつならご都合が良くって?」


(侯爵家なんて恐れ多くて行けるわけないよ〜。粗相だらけで、不敬罪がいくつあっても足りないよ! よし、こうなったら“先延ばし作戦”だよ!!)


 “先延ばし作戦”とは、訪問予定を誤魔化し誤魔化ししながら、なし崩し的にフェードアウトして無かったことにしてしまおう!という作戦である。


「おい、そう急かすな。間もなく祭りがあるのだから、やどり木亭も忙しいだろう?…そうだな、祭りの2日後はどうだ? 祭りでうちの屋敷にも各国から出入りの商会が来るからね。その日ならきっと、各国からの珍しいものも色々と集まっているだろう」


「そうだわ! 今回、南国の商会が“ショコラ”を持って来ると言っていたわね。最近アルスター王国で人気なのですって!」


「ショコラ、ですか?」


 もしかしてそれは、チョコレートのことだろうか?

 マリーが前世の記憶を思い出して以来、密かに「食べたい!食べたい!」と思い続けていたチョコレートのことだろうか?

 マリーは前世、かなりヘビーなチョコレート愛好者だった。「チョコレート大好き♡」で、毎日欠かさずに食べていたのに、今世ではどこを見てもチョコレートらしきものはなく、思い浮かべると食べたくなってしまうため、できるだけ考えないようにしていたのである。


「あの、それは、茶色というか、黒っぽくて甘い、ショコラでしょうか?」


「あら! マリーちゃんはショコラのことまでよくご存知ね。そうよ、お口の中でとろける美味しさなのですって! うふふ。マリーちゃんがうちの屋敷に来てくれる時には必ず用意しておくわね! お祭りの2日後でよろしい?」


 思いがけず出てきたチョコレートの情報に、ここに侯爵夫妻がいなければ喜びのあまり小躍りでもしそうなマリーだ。


「はい!大丈夫です! お招き、ありがとうございます!!」


(ハッ! 先延ばしにして、こっそりフェードアウトして無かったことにするつもりだったのに“はい”って言っちゃった!! わたしが大好きなチョコレートで釣るなんて! くっ…!貴族って怖い!)


 言いがかりも甚だしいマリーである。

 侯爵夫妻にとっては、マリーを家に呼んで孫と会わせたい、そのうち結婚させてでも本当に孫にしたいと言う下心はあるものの、ただマリーを喜ばせたいだけだ。

 怖いのは、フェードアウトするつもりが、自分の好きなものにつられて即決で快諾してしまう、マリーのチョロさである…。



 マリーがあっけなく決まってしまった公爵邸訪問での粗相を想像して一人で悶絶していると、夫妻のテーブルに、給仕のクレア…アレク様がやってきた。


「失礼いたします。お飲み物のお代わりはいかがですか?」


 世の女性たちのハートを撃ち抜く甘いマスクと微笑みに流れるような仕草、相変わらずの執事風男装姿のアレクである。


「あら、あなた! お名前はなんとおっしゃるの?」


「アレクと申します」


 左胸に手を当てて軽くお辞儀をする姿が、今日もキラキラしいイケメン振りである。


「「「きゃーーーーー!!!!」」」

「アレク様〜〜〜!」


 その様子を遠巻きに眺めていた他の席のお客様たちから押さえきれない小さな悲鳴が上がる。すると、悲鳴を上げたお客様たちを見て、ばちこーん!とウィンクするものだから、再びの悲鳴である。


「「「「「「きゃあああーーーー!!!!」」」」」」



「まあ! 噂以上にすごい人気なのね!」


 黄色い歓声に驚く侯爵夫妻だ。


「もうお一方いらっしゃるのでしょう?」


「はい、おります。今お呼びいたします」


 アレクはそう言うとカウンターの方を振り返り、指をパチンと鳴らす。

 カウンターにいたルイーザ…ルイ様がそれに気づいてアレクの方を見ると、にっこり笑ってやって来た。

 やってきたルイ様に、アレク様が顔を寄せて耳打ちすると、ルイ様が微笑みながら夫妻へ挨拶する。


「「「「「「きゃあああーーーー!!!!」」」」」」

「ち、近いわ!!」

「ふ、ふたりが、尊い…っ!」

「ああ、私、もう無理…!!」


 悲鳴の上書きである。

 しかし、これもカフェタイムの通常営業だ。



「初めまして、ルイと申します。本日はようこそお越しくださいました」


 何をするにも、いちいちカッコいい二人である。

 マリーが男だったら、ちょっぴり文句を言いたくなるかもしれない。



「まあ! 本当にすごい人気だわ!!」

「そうだな…」


侯爵様はちょっぴり複雑そうな表情だ。



「実は、二人は勤務を始めて3日目には親衛隊ができたんですよ」


 マリーが侯爵夫妻に説明をすると、夫人が「ふふふ」と口元を押さえる。


「ええ、知っているわよ! うちの使用人達の間でも噂になっているもの。それに、実際にお会いしてみると思っていた以上に素敵だもの。人気があるのも納得だわ! マリーちゃんもお二人も、最近流行っている小説をご存知? “薔薇の星騎士”というお話でね?ーーー」



「薔薇の星騎士」とは、つい最近ローべで話題になったばかりの無名の作家・アナレインの大人気の小説だ。


 とある王国に“薔薇の騎士団”という王室直属の騎士団がある。その騎士団は剣技を極めた実力のある騎士だけが入団を認められる、騎士であれば誰もが憧れる栄誉ある騎士団だ。

 その騎士団を目指して切磋琢磨する騎士学園の学生騎士たちの中に、長身で美しい長い黒髪の美丈夫であるアレックスと、金髪で中性的な美しさのルイスという騎士学生がいた。

 同い年の二人は学園の寮でも同室で、共に薔薇の騎士団を目指す。が、実はルイスは、女性でありながら、家の事情で性別を男性と偽り学園に通っているのだ。

 二人は毎日の厳しい鍛錬に耐え、騎士団を目指すうちに、ひょんなことからアレックスがルイスを意識し始めるようになってしまい、アレックスは、考えもしなかった男性同士の道ならぬ恋だとひどく悩む。一方のルイスも、友として過ごすうちに、アレックスに恋心を持つようになり、女性であることを明かせないために悩む。

 その後、二人は無事に“薔薇の騎士団”へ合格。見事星騎士になり、二人はお互いへの想いを胸に秘めながら、友として共にいるのだが、そこにアレックスに恋をする王女が加わり、本人の気持ちを無視して、アレックスを自分の婚約者にしようと強引に迫るのだ。

 そんな中、隣国との戦が勃発。王族を守るために別々に任務についた二人は、お互いを思う気持ちを隠しながら離れ離れになってしまい…


 という物語である。

 この話が、ローベで爆発的な人気となり、次いで王都から国中に広がり、今や近隣諸国からも本の注文が相次いでいるのだという。


「ふふふ。このお話はね、あなた方二人をモデルにしているという噂なのよ! 名前もとても似ているし髪色も同じでしょう?それに、こうして二人に会ったら、本の挿絵に描かれている主人公の二人と、あなた方二人がとてもよく似ていることがわかったわ! あら、こうはしていられないわね! アマモール伯爵夫人やタイトルノー伯爵夫人、ああ、王都のステリジオン侯爵夫人とモーリス公爵夫人とサントス侯爵夫人にもお教えしなくてはならないわ!! あぁ、あの方々にもお教えすべきね!!」


 何やら夫人のスイッチが入ってしまったようで、公爵やら侯爵やら伯爵やら、次から次に高位貴族の家名が出てきている。

 それにしても、マリーの知らないうちに、やどり木亭のキラキラしい二人の王子様は物語の主人公になっていたらしい。


「今度、私のお友達を連れてくるわね! きっと皆さま、とても喜ばれるわ!!!」


 もしかして、お友達とは、先ほど名前が出てきた公爵やら侯爵やら伯爵やらのご夫人のことだろうか…このような庶民の宿の食堂に華々しいご夫人方が来られるなど、本当にいいのだろうか……侯爵邸への訪問といい、食堂へご来店してくださるのかもしれない高位貴族のご夫人方といい、一庶民のマリーにとっては手に余るほどだ。


 待ち受けるそれらを想像して、ちょっぴり胃が痛くなる…否、大変にありがたく思うマリーだった。

 そんな少し先の未来を想像してマリーが現実逃避したくなっていると、突然、宿の表がざわつき出した。


「あら? あなた、何かあったのかしら?」


すると、侯爵の従者が一人小走りでやってきた。


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