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第57話 やどり木亭の時間貸し部屋

「本当かい?それは助かるよ!!!」


「はい。早速、明日からご使用が可能です!前にご使用いただいたお部屋とは別のタイプで、同じくらいの大きさの部屋と、二間続きの広めのお部屋がありますが、どちらがご希望でしょう?」


「おお、なんと!神は我々に味方しているようだ!広めの部屋の方が良いと思っているんだが、ちなみに、部屋を見ることはできるかな?」


「もちろんです!よろしければこれからご案内させていただきます!」



 食堂はカフェタイムの営業中で、ロビーには相変わらず人気の執事服風の男装の麗人(※食堂の給仕)クレアとルイーザを呼ぶ黄色い声が響いている。


「ルイ様〜〜〜〜〜!!キャーーーーーー」

「きゃーー!アレク様〜〜〜〜!」

「ルイ様とアレク様が二人ともいらっしゃるわーーーー!!!」

「ああ、この光景を永遠に残せたらいいのに…!!!」


 メイド服給仕のヘレナちゃん、ミラちゃん、メリナちゃんも相変わらず人気だけれど、男性の皆さんが来るときには当然ながらこういう黄色い声が上がらないので、こういうことに夢中になる時の女性って元気だなあと思うマリーである。


(確かに、スマホとかカメラがあったらいいよね〜。私も撮りたいもの、いろいろあるなあ。これまで起こった不思議体験とかも動画に残せておけたら便利だし、食堂で作ってもらう美味しそうな料理とか、丹精込めて『えいっ!』と水やりしている薬草園の薬草とか、いろいろ写真に撮りたい。あとで見返すだけでも楽しいっていうか)


 黄色い声を聞いて、ふとそんなことを考えるマリーだった。



 模様替えの後すぐに宿泊の元見習い君たちと母マリアンヌと部屋を整えーーーそう、やどり木亭の宿泊部門と厨房の見習い君たちはこのほどめでたく見習いを卒業することができ、無事にひよこワッペンが外れたのである。彼らの喜びようと言ったらなかったーーーてからの、今である。



「おお!この部屋なら問題ない!いや、むしろ最高だよ。明日の商談先は異国の人だから、お互いの宿で話すにしても、品数も多いし、今回は先方の人数も多いもんだからどうしようかと思ってたんだ。助かった」


 今マリーたちがいるのは、宿の1階の模様替えしたばかりの2人用の元客室だ。応接セットの部屋とダイニングのセットの2部屋を案内したところ、ご要望にぴったりだったようである。



「ふふふ、よかったです!ただ、お部屋の広さが前のお部屋の倍以上なので、時間ごとの料金は5割増しになってしまうんですけど」


「それは当然だ。それに、ここの時間貸しはもともと格安じゃないか!」


やどり木亭の時間貸し部屋は元々お客様への宿の付加価値の一つとして考えたものなので、それだけで売り上げを立てることを目的にしていない。

そのため、良心価格設定なのだ。


「それと、このダイニングテーブルのお部屋には、食堂の定食をお運びすることができるんです!ただし、事前にお料理の予約もいただいていた場合に限りますが」


「なんだって!実は先方には、以前ここのカスレの話をしたんだよ。私の好物だからね。それ以来、先方もカスレに興味を持っていて、一度食べてみたいとおっしゃっていたんだ。よし、じゃあ明日は、最初は皆で昼食をとって、その後商談に入ることにしよう。できれば6名で食事をしたんだが、席に追加は可能かな?」


「はい、椅子があるのでご用意しておきますね!」


「お食事の際の給仕は、つきっきりが良いでしょうか?それとも、最初にお飲み物のご注文を伺って、お料理をご提供するだけにされますか?」


「つきっきりは必要ないよ。食事の最初の飲み物の注文と料理の給仕、食事の後、商談に入る際に飲み物の注文と給仕をやってもらえればそれで十分だよ」


「わかりました。お時間は13時からでご変更はないですか?」


「ああ、それでいい。本当に助かるよ。それにしても、やどり木亭さんの調度類はセンスがいいねえ。派手なわけじゃないけど上質な感じで嫌味がないし、前使った部屋も良かったけど、こっちの部屋もとてもいいよ」


「それはありがとうございます。先祖の遺してくれた年季の入ったものばかりですが、お気に召していただけて嬉しいです!」


「いやはや、ここも一時はどうなるかと思ったけど、最近は客も増えたようだしよかったねぇ。マリーちゃんも頑張ってるからなぁ」


「えへへへ。ありがとうございます!皆さんのおかげです!」


「わははは!マリーちゃんはしっかりしてるなぁ。本当に感心するよ」


 前世のOL時代から、一人でできることには限界があることをマリーは知っている。

 マリーのできることなど、思いつきを口にすることや誰かに何かをお願いすること、薬草の世話をするくらいだ。

 まして今は、洗礼式を終えたとはいえ、まだまだ子どもである。前世以上に、自分一人だけでは何もできない。

 マリーは足るを知る、12歳なのである。


「では、明日はお待ちしております!お部屋には、ご利用時間の1時間前からご入室可能ですのでフロントに声をおかけくださいね」


「1時間前はありがたいな。今回は紹介する品物が多いから、陳列するなら時間がかかりそうなんだ」


「ふふふふ、それはよかったです!では、その他何かあれば、フロントにお伝えくださいね!」


「ああ、ありがとう。そうと決まったら、私は先方へ知らせに行ってくるよ!!じゃあマリーちゃん、明日はよろしく!」



「じゃあ私は、オリバー支配人とトーマス料理長とエマさんに伝えないとね!」


 マリーは各所へ引き継ぎをしようと、フロントにちょうど支配人の姿が見えなかったので、まずは食堂へ向かうことにする。

 今はカフェタイムなので、料理長は比較的手が空いてるだろうし、エマさんも余裕があるはずだ。


「ふふふふ! 早速お客様にも喜んでもらえたし、時間貸し部屋も2部屋増えれば、お断りするのも減るよね! これで宿の株も爆上がりじゃない? ふふふふふふ」


 ちょっぴり怪しい子のように、一人にんまりしながら喜ぶマリーだった。


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