第56話 やどり木亭の大改装2(※模様替え)
「マリーちゃん、模様替えするんだって?人手がいるんじゃないのかい?」
マリーが商談用部屋の増室のため、アパルトマンの作業場で客室の図面を見ながらぶつぶつ呟いていたところ、内職チームのマーサさんが声をかけてきた。
「マーサさん、そうなんです!よくご存知ですね?」
「さっき執務室にスリッパと繕い物の納品に行ったらオリバー支配人がそう言ってたんだよ。家具を運んだりするんだろう?力仕事なら、その辺の男衆を引っ張ってくるから遠慮なく言いなよ!」
「わぁ!ありがとうございます!助かります!お言葉に甘えて、早速お願いしてもいいですか?」
「あははは、任せときな。ちょっとそこいらに声かけてくるから待ってておくれよ」
そういうと、マーサさんはアパルトマン一階にある作業場から出て行った。
マーサさんはやどり木亭が立て直しを試み始めた当初から内職チームに関わってくれているご近所さんだ。
面倒見が良く、きっぷの良い性格で、やどり木亭の内職チームや作業場にやってくる子供たちだけでなく、ご近所でも慕われている。
近所の男衆のほとんどは、幼い頃から多感でやんちゃな年頃まで、そして中には家庭を持った今でも、何かとマーサさんに面倒を見られているそうで、皆頭が上がらないらしい。
マリーは、作業を手伝ってくれる人たちがわかりやすいように、家具の入れ替えを紙に書き出していくことにした。
[宿の一階客室から移動させるもの]
一人部屋ベッド×1→アパルトマン2階 1LDK空室へ
二人部屋ベッド×2→アパルトマン2階 2LDK空室へ
[アパルトマン一階作業場から移動させるもの]
ローテーブル×1 → 宿1階の一人部屋へ
長ソファ×1 → 宿1階の一人部屋へ
ダイニングテーブル×1 → 宿1階のニ人部屋へ
椅子×4 → 宿1階のニ人部屋へ
客室の一人部屋に元々あった小さな丸テーブルは商談部屋に残すことにした。クロスをかけて何か飾ってもいいし、商品の展示にも使えそうだ。
そして肝心の応接セットは、一人掛けのソファが二つあったので、アパルトマンの作業場から長ソファとローテーブルを移すことにする。
客室の二人部屋は、ベッドルームとリビングルームの二部屋が続きになっている。
リビングルームにはローテーブルとソファセットがあるため、そのまま使うことにする。
ベッドを運び出したベッドルームには、作業場の隅に追いやって使っていなかったダイニングテーブルと椅子を移すのだ。
「ふふふふ!どうだ。これぞ有効活用というものぞ!」
マリーは謎のテンションで部屋の見取り図に家具の配置も記載していく。
あとは実際に配置してみて調整すればいいだろう。
10分もするとマーサさんが戻ってきて、一時間後に近所の建設現場で仕事中の作業員5〜6名が手伝いに来てくれることになったと伝えてくれた。
「あ、早速今日来てもらえるんですか? すごい!ありがとうございます!でも、建設現場でお仕事中なのに、来ていただいても大丈夫なんでしょうか?」
「いいのいいの。現場責任者も来るからね。それに、あの子ら二つ返事で手伝うって言ってるんだからいいのさ。マリーちゃんの気にすることじゃないよ! ただ、そうだね。できれば何かお腹に溜まるものでも用意してやってくれるかい?」
「もちろんです!トーマス料理長にお願いして、持ち帰れるようなサンドイッチを作ってもらってきます!」
ありがたいことだけれども、本当にいいのだろうか。いったいどんな交渉を…と若干心配になるけれど、こうなったら気持ちよく手伝ってもらい、しっかりお礼をしようと思うマリーだった。
とりあえず、サンドイッチは多めに用意してもらうことにした。
「嬢ちゃん、手伝いに来たぞー」
一時間後に6人の作業員たちがアパルトマンの作業場へやってきた。
服の上からでもムキムキと盛り上がった筋肉が逞しい男性陣だ。見るからに頼もしい。
「皆さん、お仕事中にすみません!どうもありがとうございます!よろしくお願いします!」
「いいってことよ!で、俺たちは何をすればいいんだ?家具を運ぶって聞いちゃあいるが」
「あんたたち、ありがとうね。よろしく頼むよ!」
「おわっ、マーサさん!わかってるよ!」
いかつい男たちはやはりマーサさんに頭が上がらないようである。
「では、説明させていただきます! 宿の1階の客室と、ここの1階と2階の家具の入れ替えをお願いしたいです!こちらに書いているのが、どこから何を運び出して、どこに持って行くかの一覧で、こちらは移動した先での配置図です」
「あー、こりゃあわかりやすくていいや。嬢ちゃん、まだ小さいのに偉いねぇ!」
「えへへへ。ありがとうございます!えーっと、この作業場からはあそこのローテーブルとダイニングテーブルと椅子4脚を運び出します。
あのー、ここの2階の運び込む部屋は家具があまりないので、先に客室からベッドを運び出してもらってこっちに持ってきてもらうのがいいでしょうか?
先に2階の部屋と動線確認されますか?」
「お、嬢ちゃん、わかってるねー!じゃあこの部屋の家具はわかったから、2階の部屋を見せてもらえるか?」
「わかりました!ではご案内します!」
まるでカルガモの親子のように、小柄なマリーの後ろにいかつい男たちがゾロゾロとついて歩く。
「ふむ…ここの階段と廊下なら、吹き抜けだから問題なく運べそうだな」
「部屋の入り口も中も、これだけ幅と高さがありゃあ問題ねぇだろ」
「ああ、これなら大丈夫だ」
「よかった!ありがとうございます!」
問題なく運べそうで一安心である。
「なら早速運ぶか!」
「宿の1階は、この時間なら部屋の前に家具を置いても大丈夫ですが、こっちから行く時、何か持って行きますか?」
「おーそうだなー。じゃまず様子見で椅子でも持ってっか」
ダイニングテーブルの椅子は、厚手の布張りでエレガントな猫脚が特徴で、割としっかりした作りのものだ。マリーが触ってもピクリとも動かないくらいどっしり重かったはずなのに、男たちはヒョイっと軽々と持っていく。
「皆さん、力持ちなんですね〜〜!」
「わはははは!嬢ちゃん!こんなもんじゃ力持ちの部類にゃ入れねぇぞ?」
「そうだぞ!俺たちゃ、嬢ちゃんくらいの子供なら、両腕に一人ずつぶら下げても平気だぞ?」
おお!それはもしや、力持ちを絵に描いたようなアレだろうか。実は腕へのぶら下がりは、前世から通して未経験のマリーにとって密かな憧れであった。
「なんなら、今ぶら下げても平気だぞ?」
魅力的な申し出に、「ぜひ!」と言いそうになるマリーだったが、セルジュが見たら後でかなりいじけて面倒なことになりそうなので遠慮した。
「ありがとうございます!でも、この後重いものをたくさん運んでいただくので、またの機会にぜひお願いします!」
「いつでも声かけな!それにしても、嬢ちゃんは大人やなぁ」
「嬢ちゃんいくつだ?」
「12歳です!」
「へぇ!今年洗礼だったのか。それにしては少し小せえけど、頭はだいぶしっかりしてんな!」
「うちの娘と同い年か。見えねえなぁ。話してると、まるで大人みてぇだしな」
「やどり木亭も、安泰ってこったな!」
わいわい話しているうちに宿に到着だ。
中に入るときは他のお客様もいるので声を小さくしてくれたりと、いかつい男衆は気配りも万全だった。
そして、恐ろしいことに、ものの30分も掛からないうちに、家具の入れ替えや配置は完璧に終了してしまった。
力持ち、万歳だ。
「す…すごい…!!まさか、こんなに早くに終わるなんて!!」
「まあ、こんな仕事なら俺たちの得意分野だからな。手が必要ならいつでも声掛けてくれ。この程度、お安い御用だぞ!」
「わぁーー!ありがとうございます!あ、そうだ、ちょっと待っててください!」
マリーは用意していたお礼を取りに行った。
お礼は、一人3〜4個は食べられる量のサンドイッチと、売り出したばかりのラベンダー水と美容液、ラベンダーのサシェだ。
「皆さん、今日はありがとうございました!これは気持ちですが、お手伝いいただいたお礼です!」
「おお!うまそうなサンドイッチだな!俺たちゃいつでも食えるタイプだから、大歓迎だぞ。ありがとよ!」
「それから、この二種類の瓶とサシェはうちの宿から売り出したばかりの新商品です!説明書きもありますので、後でお読みください」
「あ、そりゃもしかして、ポーション並みにやたら効果のあるって言うあれじゃないのか?」
「ポーション?」
「そうそう!うちのカミさんたちが大騒ぎしてたぞ。シミやシワが目立たなくなったって。それに鍛冶屋の親父がカミさんが持ってるそれを使ったら、火傷が治ったんだってよ!」
「へえ?そりゃすげえ!そんな大したもんもらっていいのかい?」
「もちろんです!うちの商品でのお礼になっちゃって申し訳ありませんが、ぜひ使ってください!今日はありがとうございました!」
男衆が引き上げて行ったのはまもなく夕刻に差し掛かろうと言う時間だった。
これなら早速明日からでも、お客様に使ってもらえるではないか。
「めちゃくちゃ捗ったなぁ!本当助かったー。あ、そうだ!昨日時間貸しの問い合わせがあったけど、空いてなくてお断りしたお客様たちに後で声をかけてみよう!」
予想を遥かに超えて順調に終わった家具のお引っ越しに、大満足のマリーだった。




