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第49話 アーロン、ローベの街へ2

 この所の瘴気による一連の業務に加えて、北部では瘴気の影響を受けた患者の様子を見てきたばかりだったこともあり、自分がまだどこか張り詰めたままだったことに気づいたアーロンは、思わず「ふぅ」と息を吐いた。


 すると、向かいの席に座っているワーグナー小隊長がテーブルにことりと測定器を置く。数値は依然と0を指したままだ。


「それにしても、ローべに差し掛かった辺りからずっと変わりませんね」


 以前の調査の際も、その後もローべだけはずっと瘴気が測定されなかったというのは、やはり間違いないことなのだろう。実際に今朝方から何度確認しても数値は変わらない。これから先はまだわからないけれど。


「ええ。私は、いつもより身体も軽いような気がします」


「アーロン殿もですか?私もなのです」


「もしかすると、普段、王都にいる時は気づかないだけで、瘴気の影響を受けていたのかもしれませんね。それで瘴気が0のところに来たから体が軽く感じるのかもしれません」


「それはあり得ますね」


「やはり、聖女の山の影響なのでしょうか…」


「そうかもしれませんし、他にも何かあるのかもしれない。いずれにしても、今日はこの後早速、例の山へ行ってみますか」


「そうしたいと思います。…小隊長からあの山のことを伺っていましたが、まさか実際に訪れることになるとは思いもしませんでした」


「はははは、私もですよ」


 アーロンたちは食事を終えると、再び出店を覗きながら聞き込みを続ける。そのうち石畳の道を馬車が走る音がいくつも聞こえてきた。



「ダンナ、馬車が来たみてえだぞ」


「ああ、そうですね。ありがとうございます」


「ダンナ方はいつまでローべにいるんだい?」


「まだ決まっていませんが、数日は滞在する予定です」



 そう話している間にも、桟橋の手前の道の両側に馬車が順に停まっていく。

 一方の数台は貸し馬車で、一方はローべの街中までの送り馬車だ。中に一つ、幌に大きく絵が描かれた荷馬車がやってきた。絵の描かれた幌馬車など珍しい。アーロンは思わず店主に尋ねた。



「あの幌馬車は何です?」


「あれは“やどり木亭”って宿が出してる宿専用の送迎馬車だよ。宿の泊り客をここまで送ってきて、港に着いた客を乗せて帰るってわけだ」


「へえ、それは便利ですね」


「ああ。あの馬車ができてから、あの宿はわりと人気が出てきたらしいぞ。えらく顔のいい御者がいてな。お、そういやダンナたちは宿は決まってるのかい?」


「ええ、そうなんです」


アーロンたちは公館に宿泊だ。


「そりゃいい、ゆっくりしていきな」


「ありがとうございます」


 出店の店主とそんな風に話していた時だ。


「失礼!」


 突然、ワーグナー小隊長がそう言うや否や、馬車の方へ走りだした。



「団長!!ニコラス団長ではありませんか!?」


「…ミカエルか?ああ、ずいぶんと久しぶりだな」



 アーロンが店主に尋ねたばかりの“幌馬車”の御者台にいる男が、どうやら、ワーグナー小隊長の知り合いのようである。


(そういえば、ワーグナー小隊長の名前はミカエルだった。がっちりと鍛え上げられた体型の小隊長とは少しイメージが違うけれど)


そんな大変失礼なことを思ってしまっていたアーロンだった。



「団長!皆、団長のことをお探ししたんですよ!!突然騎士団をお辞めになり、ご実家にも何も告げられずに家を出られたと伺いました。私たちがどれだけ心配したか!!ライハート総長…兄君も大変心配しておられます!!」


「もう団長じゃない。それに、騎士団はちゃんと引き継ぎは済ませてあったし、家にも旅に出ると伝えたんだがな…」


「そういうことではありません!!!」


 これまでアーロンが見てきたワーグナー小隊長は常に冷静に振る舞う人だった。しかし、今はまるで別人のようだ。


「せっかく騎士団を辞められる口実ができたから辞めただけさ。悪いな、今、宿のお客様の送迎中なんだ」


 そういうとニコラスと呼ばれた御者はひらりと御者台から飛び降り、乗客の対応を始める。次の出航に向けて他の馬車からも乗客が船に集まりだし、積荷も集められ始め、あたりは一気に慌しくなってきた。



「小隊長、お知り合いなのですね」


「ええ、私の上司…いえ、元上司で恩人なのです。まさかローべにいらしたとは…」


 何か訳ありなのだろうとアーロンも察する。しかし、今の港の様子では話などできそうもない。送迎馬車と言っていたので、この後はおそらく宿に戻るのだろう。


「小隊長、大丈夫ですよ。あの幌馬車は“やどり木亭”という宿専用の送迎馬車と言っていましたから、後で宿を尋ねましょう。我々はこの街に数日滞在するのですし、ちゃんと話もできますよ」


「…そうですね…ああ、アーロン殿、みっともなく取り乱してしまい失礼しました」


「いえ、そういうことは誰にでもあることですから。それにお探ししていた方であればなおさらです。どうかお気になさらずに」


「ありがとうございます。…では、我々は貸し馬車で聖女の山へ向かいましょう」


「はい」



 アーロンたちは、豊かな髭を蓄えた翁が御者を務める貸し馬車を借りて、聖女の山へ向かうことにする。

「わしは護衛はできませんが、よろしいかな?」と確認されたので、問題ないと答えた。馬車の御者は軽い護衛を兼ねて依頼されることが多いらしく、馬好きな翁はそれでも良いと言われた場合だけ馬車を走らせているらしい。「馬も時々走らせてやらんと可哀想でな」と言っていた。



「ダンナ方は王都からお越しですかね?」


「はい。王都からですが、よくお分かりになりましたね?」


「そりゃあまあ、この仕事も長いですからな。だいたいのお客様は見て話せば見当がつくものさね。ダンナ方もこの間の光のことでお見えになられたので?」


「ええ、そうです。やはりこのお話は、この辺りでは皆さんがご存知ですか?」


「そりゃあ、そうさね。山が光るなんざそうあることじゃないからね。みんな驚いて最初は大騒ぎで…やれ天変地異だの、戦だのって騒いでたが、そのうちにだいぶ騒ぎも落ち着いきましたわ」


「山が光るなんてすごいことですよね。これまでにもあったのでしょうか」


「いや、わしが生きてるうちにはありませんでしたぞ。どんなに耄碌しても、さすがに忘れられませんからな」


翁が「ふぉっふぉっふぉっ」と笑う。


「ご主人はご覧になったのですか?」


「ああ、あれは、この辺りの者はさすがに誰でも気づいたでしょう。はじめに、今まで経験したことがないような、大きな音というか振動が“ズン”っときましてな。何かと思って見上げたら、山から太い光の柱が空の上の方までまっすぐ上がってたというわけですわ。いやぁ、驚いたのなんの。ふぉっふぉっふぉっ。あれは、よほど遠くにいても気づくし、目に入ったでしょうなあ」


「なるほど、そんな感じだったのですね」


「ああ、光の柱はしばらく消えませんでな。消えたかと思ったら、今度は空から青い光の粒が降ってきたんですわ。ふぉっふぉっふぉっ。この歳になって、まだ驚くことがあるとは思いませんでしたな」


「青い光の粒ですか?」


「そうさね。天から光が、見渡す限りに降ってくるのですぞ。あれは、これまで見たこともない、美しい景色でしたな」


「そんなことがあったのですか!」


「そうですぞ。おまけに、光を浴びた者たちは皆、『なんだか身体の調子がいい』などと言い出しましてなぁ」


「…それは、すごいことですね」


 それが本当なら、奇跡のようなすごい話だ。アーロンとワーグナー小隊長は思わず顔を見合わせた。



マリーが気になっていたニコラスさんの素性Σ(๑°ㅁ°๑)!?

マリー案件です(・ω・)ノ



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