第37話 ラベンダーの美容アイテム1
誤字脱字報告恐れ入りますm(_ _)m
ありがとうございます!!
現在、やどり木亭では、3週間後に開催されるローベ商工会主催の祭りへの出店についての会議の真っ最中だ。
メンバーはセルジュ、オリバー支配人、トーマス料理長、エマ、マリー、そして、たった今すっくと立ち上がったジェニーである
ジェニーは皆の前に小さな小瓶が二つ置く。
そう、ついにラベンダーを使った美容アイテムが完成したのである。
やどり木亭の薬草園はラベンダーの美容アイテム開発が決定してから、マリーが聖女の力をフルに発揮してスペースを増やし、同じく、聖女の力フルに発揮してどんどん栽培している。
最近は、「えいっっ!!」というだけで、すべてが完了するようになってきており、マリーは「“異世界のパワスポ効果”すごっ!」(※とマリーは思っている)と、その高性能ぶりに感心しているのだった。しかしこれは他でもない、マリーが聖なる力の扱いに慣れてきているという、ただそれだけのことである。
おかげで、初めの頃はあまりの収穫の頻度に驚いていた子供たちとやどり木亭の従業員達も、今ではすっかり「これはこういうものなんだ」と納得してしまった。
そう、環境と刷り込みは大切なのだ。
マリーとジェニーの試行錯誤の末(半分以上はジェニー)、美容アイテムに使うラベンダーは、穂先の柔らかな若々しい部分のみを使うことにした。それを、採ったばかりの新鮮なうちに蒸留するのだが、そこでジェニー渾身の一工夫を入れている。
アパルトマンの2階の部屋は、ジェニーが研究をしやすいように手を入れていて、今ではすっかり立派な研究室になっている。研究に使ういろんな機材や蒸留用のガラスの容器など、見ているだけでワクワクしてくるマリーだった。
「ついに、できたの!」
そう言ってジェニーが小瓶の一つを手に取り、蓋を開けたとたん、ふわりと部屋中にラベンダーの香りが広がった。
「まあ、いい香りね!」
「いいですね」
「癒されますね」
男女問わずに香りの評判も良い。
「これは男性でも女性でも使用が可能なラベンダー水よ。水とラベンダーだけでできているわ。どんな肌の状態の人でもこれを使っているうちに明らかに変化を感じられるはずよ!」
ジェニーの説明を聞くエマが大変に前のめりである。
「そして、こっちがラベンダーの美容液」
美容液の瓶は、ラベンダー水の半分ほどの大きさだ。
「美容に効く成分をラベンダー水よりも凝縮させているから、ラベンダー水以上に効能がわかりやすいわ。もちろん、強くなりすぎないように調整してるから直接肌につけても問題ないわ。どちらも安全検査、テストともに問題ないし、すぐにでも販売できるわよ!」
とジェニーが胸を張る。
ジェニーはあの情熱をそのまま研究と開発に注ぎ、マリーの意見を聞いたり、お互いにアイデアを出し合ったりしながら、あっという間にこの美容アイテムを作り上げたのである。
マリー一人だったら絶対に、美容アイテムを作るなど考えもしなかったし、実行しなかったことだった。
「あと…取扱注意なんだけど、これもあるわ」
最後にジェニーがポケットから取り出したのは、美容液の瓶の更に半部くらいの小さな瓶だ。
「これはラベンダーの精油よ。ラベンダーの成分がギュッとギュッと凝縮されているから、かなり成分が高くて、その代わり取れる量はわずかよ(…といってもマリーちゃんの薬草園なら、原料に困ることがないから全く問題じゃないんだけれど…)。精油は種類によっては直接肌につけるのは良くないけれど、これは直接つけても問題ないように一工夫してあるわ」
「これは、見てもらった方がわかりやすいですよね!」
マリーはそう言うとぐるりと周りを見回し、トーマス料理長の腕の火傷に目を留める。
「料理長、その腕の傷は火傷ですか?」
「ああ、そうだよ。恥ずかしいな。昨日うっかり火傷しちゃったんだ」
マリーが何をやろうとしているか気づいたジェニーが「私がやるわ!」といってマリーから精油の小瓶を取り上げる。
だって、マリーがトーマス料理長の腕に触ろうものなら、セルジュが大変うるさくなることが予想されて面倒だからだ。
「さあ、いい?よく見てて」
ジェニーがトーマス料理長の腕の火傷に精油をつけて2、3秒すると、7センチほどの長さで幅1センチほどあった赤茶色の火傷跡がすっと消えていったのだ。
「「「「…え??」」」」
「…すごいでしょう?このラベンダーの精油なら、今のようにまだ新しい傷であれば、だいたいその場で治るわ。もちろん傷の大きさや深さでその差はあるけれどね。もっとひどい傷だって何度か使えば治るわ」
「……これは、すごいですね…」
「…ええ!すごいです」
「す、すごいわ!!」
「ああ!マリー!!やっぱり僕のマリーは天使で聖女だ!!」
その場の皆が、今見たばかりの光景に驚いて呆然としている。
「…これは、ポーションのような効能ということになるのでしょうか」
一番に立ち直ったのはオリバー支配人だ。商会時代にはポーションなども扱ったことがあるのだろう。
「研究者時代にポーションも分析したことがあるけれど、その辺に出回っている普通のポーションよりは、この精油の方が上だと思うわ。ここだけの話だけど、マリーちゃんの薬草園はすごいのよ、異常なほどね。まあ、取扱注意というのは、そういうことよ」
なるほど、と皆が大きくうなずく中、思いがけないジェニーの言葉に、思わずマリーが聞き返す。
「異常ですか?」
「ええ、ありえないほど高品質だってこと」
「へえ〜〜〜〜〜!それはすごいですね!!やっぱりあそこの薬草ってすごいんですね!!それに、ジェニーさんもすごいです!こんなに素晴らしいものをこんな短期間で作ってしまうなんて!!」
まるで他人事のようなマリーの呑気な反応に、ジェニーが真顔になって呟く。
「…何が“すごい”かっていうと、きっとマリーちゃんが“すごい”っていう話になると思うんだけど…」
ぼそりと呟かれたその言葉に、隣に座っているオリバー支配人が頷いている。
「あ、ジェニーさんすみません。聞こえませんでした!」
「マリーちゃんが言ってた通り、本当にちょっと特殊な薬草だったわって言ったのよ!とにかく、これで美容アイテムは完成よ!」
ジェニーは研究者時代、流行病の研究とその対策のためにあらゆる薬草を調べ尽くした。
薬草の生育についてやその条件、薬草の品質、それぞれの成分やそれらの含有量、実際の効能だって、今でもきっちり頭に入っている。
ラベンダーについては、あまりにも貴重な薬草で、加工前の実物を見る機会がなかったため気づかなかったけれど、研究で調べていくうちに気づいた。これはあの、“女神の恵み”と呼ばれていた、あらゆるものに効能がある万能薬草だと。
それに気づいて改めて考えてみると、その“女神の恵み”がアパルトマンの庭に植わっているなんて、ありえないのである。これまでの人生で一番“信じられない”と思った出来事だった。
おまけに、マリーの薬草園に植わっている薬草類は、そのほとんどが、決して市場に出回ることはなく、治癒院などでのみ調達できて使用出来る薬草ばかりだったのである。
マリーはこの薬草を、知り合いから教えてもらった特別な場所で採取したと言っていた。マリーは知らないようだったが、そもそもこの手の特殊な薬草が採取できる場所に行けること自体が普通ではないのだ。
しかも、本来であれば生育地以外では決して繁殖しない薬草だ。
それにもかかわらず、それらの薬草が、マリーの薬草園では青々と葉を茂らせ、花を咲かせ、しかも採取すれば次の日にはまた元のようにしっかりと育っているのである。はっきり言って、異常である。
マリーはそれについて、『ちょっと特殊な場所で採取した薬草だから特別特典のようなもの』と言っていたけれど、そんなことはありえないし聞いたこともない。色々な文献を調べても載っていないのだ。
それに、初めの頃は『ハーブがよく育つように、ハーブが大きくなるように、ハーブの薬効が高まるように、お水をあげて!」』などと、不思議な呪文とも言えない言葉とともに水を降らせていたマリーだったが、最近は『えいっっ!!』だけで完了である。
おかしな呪文の時も思わず「は?」と声が出てしまったジェニーだったが、『えいっっ!!』と言われた時には思わず「はあ???」と声が出てしまったほどである。
(いやいやいや!!何なのよそれ?!『えいっっ!!』ってなに?!魔法じゃないわよね!?なのに、水が出た…?)
ちなみに、「はあ???」と出てしまったジェニーの言葉に対して、マリーは当然のようにこう言った。
『うふふふ、これ、魔法使いみたいでしょう?でもこれは魔法じゃないんですよ!特別な場所で取れた特別な薬草に付いている特別な効果?特典?みたいな、いわゆる特別仕様なんです。しかも、なんとお水は、薬草に必要な分量が自動で与えられるみたいなんですよね。試しに『えいっっ!!』でやってみたら、それでも大丈夫そうで。ものすごい高性能ですよね?』
(いやいやいやいやいや、違うでしょう!!その認識は絶対におかしいでしょう!!!)
もはや、「平民なのに」とか「魔力がないはずなのに」とか、そういうレベルの話ではないのだと叫びたくなる気持ちを、ジェニーはなんとか心の中にとどめたのだ。
一方、一緒に見ていたマリーの両親はというといつもの通り、完全に平常運転だった。
『本当に相変わらず不思議ね〜〜〜。だけどやっぱり光が当たるとキラキラして綺麗ね!マリーったら腕をあげたんじゃない?』
『ああ、そうさ。僕のマリーは天使で聖女だからな!』
(な…っ!そんな呑気な!これほどの非常事態と言ってもいいほどの状況なのに!!)
知らないということと思い込みというものは、そういうものなのである。
「ジェニーさんは本当にすごいです!!!」
(本当にすごいのは、おそらく、マリーちゃん、あなたよっ!!!)
キラキラした瞳でそう言ってくるマリーに心の中でつぶやくジェニーである。
しかし、明らかにマリーによると思われるこの異常な力については、ひとまず、ジェニーの心の奥にとどめておくことにする。だって、こんなことがオープンになったら、色々と、色々と、色々と想像したくないほど大変なことになりそうだ。
「この瓶も素敵ね!」
ジェニーがそんなんことを考えていると、エマが瓶を手に取り気をとりなおすように言った。
「そうでしょう?これはマリーちゃんが考えたのよ」
高価な香水瓶を思わせるような繊細で優美なデザインの瓶である。
ガラスの瓶も考えたが、落とすと割れてしまうため、こちらもやはりグラスと同じ割れない素材で作ってある。型を作ってしまえば量産も簡単だし、使用済みのものは洗浄して再加工も容易だ。
「ジェニー!素晴らしい開発をありがとう!そしてああ、マリー!僕のマリーは天使で聖女で、天才だよ!!」
「これは大変な人気アイテムになるでしょうね」
「なるわ!!!試作品でもなんでもいいから、私は今すぐにでも買いたいもの!!」
エマの目が真剣すぎて怖い。
「エマさん、うちのみんなの分はちゃんと試供品を用意していますので、後でお渡ししますね!」
「まああ!!嬉しいわ!!マリーちゃん、あなたって最高ね!!」
「そうだろう?僕のマリーは最高だよ!なんたって、天使で聖女だからね!」
「男性の使用感も聞きたいので、皆さんも使ってみて感想を教えてくださいね!」
「「「任せて」」」
和気藹々と盛り上がる一同を前に、ジェニーは思う。
(今になって思えば、オリバー支配人が薬草の名前を伏せておくようにアドバイスくれたことは正解だったわね。…もしかして、オリバー支配人はマリーちゃんのこと、何か知ってるのかしら?……っ!!も…もしかして、セルジュさんがいつも言ってる『僕のマリーは天使で聖女』って、ま、まさか本当のこと?!)
本当です。
いや、セルジュの言葉は“本当”ではないけれど、マリーは正しく、真実、“聖女”である。
……いや……、もしかしてセルジュの言葉は、本当に本当の、正しく、真実、マリーを“聖女”と思っての発言なのか…?
ちょっぴり天然な親馬鹿120%のセルジュの心中は計り知れないのである。




