第36話 お祭り会議
3週間後に開催されるローベ商工会主催の祭りは毎年恒例のもので3日間にわたって行われる。第二の王都として栄えるローベの街の名品や特産品を求めて国内外から商人や観光客が訪れ、もちろん、地元民も一緒になって楽しむらしい。いわば見本市に一般のお客様も参加できる形だ。
「コホン!これより、ローベ商工会主催のお祭りへの参加について、会議を始めます!」
ぱちぱちぱちぱち(拍手)
本日も和やかな光景の広がるやどり木亭である。
会議のメンバーは、セルジュ、宿泊部門よりオリバー支配人、厨房よりトーマス料理長、研究開発よりジェニー、給仕チームよりエマ、そしてマリーだ。
「まずはお祭りへの参加の可否についてです!事前に各部署でお話をしていただきましたが、お祭りの参加に賛成な部署は挙手をお願いします!」
「「「「はい!賛成です!」」」」
全員が賛成だ。
「挙手をありがとうございます!では、お祭りへの参加については異議なく可決されました。ということで、やどり木亭としてお祭りに参加します!!次に、何を出店するかですが…その前に、オリバー支配人はこのお祭りにいつもご参加されていたそうですので、お話を伺いたいと思います!」
「マリーさん、ありがとうございます。私の実家の商会でも毎年この祭りに参加していました。各商会は今後取引したい商品を探しに来ます。すでに流通している商品でも、今まで取引していなかった品物で気に入ったものがあれば、新たに取引を申し入れることもあります。
また、その年に初めて出品された品物の中から今後売れ筋になりそうな魅力的な品物をいち早く見つけて取引を結ぶことができれば商会にとっては御の字です。さらには、例えばですが、品物によっては私の国での販売窓口を私の実家の商会一本にしてもらうよう交渉したりですとか、そういうこともあるわけです」
「「「「「へえ〜〜!」」」」」
「お祭りは3日間ありますので、商人は1日目と2日目で取引したいと思う品物を探して回ります。そして目星をつけた品物を見つけると3日目に商談ができるよう申し入れるのです。もちろん、商談当日に契約を完了しなくても問題はありません。ただ、例えば先ほどの窓口を一本に独占したい場合など、他との条件の比較をされないよう“今契約を交わせばこの条件で”などのメリットを提示したりすることもあります。
とはいえ、人気のある品物には幾つかの商会から取引が申し込まれることが多いですので、各商会から提示された内容を吟味して、後日回答することもできます」
「「「「「ほお〜〜!」」」」」
「一般の観光客や地元のお客様も、もちろん自由に会場を回って買い物をしたり、食べたり飲んだりもできます。普段は商会を通さないと買えないような品物も、この日に出店されているものであれば一般のお客様でも直接購入することもできるので、人気のお祭りなんですよ」
「「「「「へえ〜〜」」」」」
「一応、商会間の慣例としては、一般のお客様と出店者側に配慮して、商談は3日と祭りの終了以降ということになっています」
「「「「「なるほど〜〜」」」」」
3日目に商談をというのは、1日目と2日目は一般のお客様と出店側に配慮して慣例として定着しているのだろいう。毎年恒例のことなので一般のお客様にも定着していて、祭りに行くなら1日目と2日目が良いと広まっているらしい。もちろん、3日目でも一般のお客様が買い物ができないわけではないそうだ。
「「「「「ほおーーーーー」」」」」
さすがに毎年参加していたこともあるオリバー支配人だ。商会側の考えなども知ることができて大変参考になった。
「となると、商会と契約できるような商品がいいのかな?」
「この日は契約だけということもあれば、実際に商品を大量に購入する商会もあるっていうことだな」
「ええ、そうです。その日に商人側との条件に合意し、在庫も揃っていて、双方共に対応できる場合は、その日に販売してしまっても問題ありません。」
「ということは、祭り当日の在庫数は気にしなくてもいいということですね」
「となると、うちが売りに出せるものは…」
「食べ物関係なら、日持ちするようなものよね」
「食べ物以外の方がいいかしら?最近、注文が増えているラベンダーのサシェとか?」
「スリッパも、地味ながらに一定数の注文が続いていますね」
そうなのだ。あれ以来話題には出ていないけれど、室内でも土足文化のこの国では室内履きの習慣がなかったため、部屋で体験したお客様は「部屋で寛ぐには最高だ」とすっかりスリッパの虜で、家族の分をまとめ買いしたり、お土産用に購入したりで地味に販売が続いている。
「ラベンダーのサシェもスリッパもある程度在庫分も確保できていますし、まだ3週間あるので数については問題ないと思います!」
売れ行きが好調なこともあり、孤児院の子供達と内職チームのメンバーも「作れるうちに作ってストックしておく!」と燃えているため、どちらも在庫は十分だ。もちろん、この先の3週間でさらに増やせる。
「うーん、取引もですけど…うちは品物の販売で利益を出さなければいけない、というわけではないですよね?もちろん、収益が上がることはありがたいことですけど。今回の出店の、やどり木亭の最終目標は何にしますか?」
「確かにそうだね」
「そうね。私はやっぱり、お客様にやどり木亭のものでお客様に喜んでほしいわ」
「そうですね。喜んで、笑顔になってもらえたら嬉しいですね」
「やどり木亭の当初の目標と同じく、お客様に喜んでいただく、ということなのではないでしょうか」
「それならやはり、祭り期間はお客様が楽しめるように、食べ物や飲み物などを提供するのが良いと思います。それに加えて、持ち帰りできるサシェやスリッパを品物として販売すれば、一般のお客様も商人の方もどちらにも購入していただけますし!」
「そうだね!じゃあ、厨房からはサンドイッチだ!2〜3種類くらいに絞って販売するのはどうかな?」
「いいと思います!他の店には無い商品ですし」
そうなのだ。前世ではポピュラーだったサンドイッチだが、この街では見たことが無い。ただオリバー支配人に聞いたところ、遠い異国で似たような食べ物はあるらしいが。
「わたしはローストビーフと粒マスタードのサンドイッチが好きです!」
薬草採取の時にトーマス料理長が作ってくれた、少し厚めにスライスされたローストビーフと柔らかいレタス、粒マスタードのサンドイッチで、その後、お弁当の人気メニューになっている。
思わず真っ先に自分の好みのサンドイッチを言ってしまうのは、子ども割合多めのマリーである。
「ああ、あれうまいよな!」
「「私も好きだわ!」」
「私も好きですね!」
「僕も好きだな」
「あと、海老とアボカドのサンドイッチと、香草チキンのサンドイッチも!」
エビとアボカドのサンドイッチはボイルした海老、スライスしたアボカドを重ねてオーロラソースで仕上げたものだ。
香草チキンのサンドイッチは、やどり木亭の薬草園のハーブでつくったハーブソルトとニンニクを塗り込んで、1〜2時間ほど置いて味をなじませた鶏肉の表面に薄く薄力粉を降り、オリーブオイルでこんがりと焼き上げたチキンのサンドイッチだ。表面はパリッと、中はジューシーなチキンとの旨味と香草のハーモニーが絶妙なのである。どちらも葉物野菜の緑が入って彩りも味も良い人気のサンドイッチである。
「ああ、あれもうまいよな!!」
「「私もあれも好きだわ!!」」
「私もあれも好きですね!!」
「僕もあれ好きだな!」
「ああ、実は厨房でも何を出すか検討した時、この3つのサンドイッチが候補に上がったんだ。ということで、厨房からはローストビーフ、海老とアボカド、香草チキンの3種類のサンドイッチを用意しよう!」
「「「「「賛成!!」」」」」
「飲み物はどうしますか?」
「そうだわ!冷たいハーブティーはどうかしら?最近カフェタイムで人気があるのよ!」
「レモングラスのハーブティーですよね?いいと思います!」
レモングラスのハーブティーに少しハチミツを加え、ミントの葉を飾ったハーブティーだ。爽やかな香りとハチミツのほんのりした甘さが好評なのだ。
「再利用できる割れないグラスがありますから、それを使って販売するのが良いのではないでしょうか。飲み終わったグラスは会場内の専用ボックスに入れれば商工会が回収して洗浄して再加工することもできますし」
ガラスでもプラスチックでもない、割れなくて使用後は継続して使えるけれど、いらなくなれば洗浄して再加工も容易にできるこの世界独自の便利な素材でできたグラスだ。エコである。
「「「「「いいですね」」」」」
「じゃあ、これも決定だね」
「それから、ラベンダーのサシェとスリッパはどうする?」
「そうですね…宿泊のお客様からの評判もとても良いですし、せっかくなので、どちらも販売しましょう!」
やどり木亭では薬草の名前は、マリーが慣れ親しんだ前世の名称で呼んでいる。
なんでもオリバー支配人によると、とても薬草は貴重なのでお料理やお茶にしたり、サシェにしていることがわかったら手に入れたい人たちの騒ぎになってもおかしくないらしい。普通の薬草であればまだいいけれど、マリーが“薬草の聖地”から採取してきて庭の薬草園で育てているハーブはかなり貴重で異例らしいので、ここで手に入れられることが知られると面倒なことになるかもしれないと言われたのだ。
しかし幸いなことは、ほとんどの人たちは薬やポーションに加工されたものしか見たことがないため、実物を見てもそれが何かわからないということだろう。
なので、この世界では知られていないラベンダーという呼び名にした。他の薬草類もそういう理由で、マリーの前世のハーブの名前で呼ぶことになっている。
実は、そんなに貴重なのであれば薬草をどこかへ提供するなり、販売するなりした方が良いのではないかとマリーは考えたこともあるのだけれど、治癒院などでは安定して使用できているのでその辺りは問題がないらしい。
「よし!じゃあ決まりだな!」
「他には何かあるかな?」
「あるわ!!」
ジェニーがすっくと立ち上がる。
「ついにできたの!」
きりりとした表情でそう告げるジェニーの手には、小さな小瓶が2つ握られていた。




