第35話 アレク様とルイ様
誤字脱字のご報告恐れ入ります!
ありがとうございます!!
「お祭り?」
「そう。毎年開催してる商工会のお祭りだよ。去年までやどり木亭は参加できてなかったから、僕の天使は…ああ!僕の天使は、天使だけじゃなくて聖女でもあったよね!そうなんだ、去年までうちは参加していなかったから、天使で聖女なマリーは知らないかも知れないな。今年の参加どうしたい?」
父セルジュから祭りについて話を聞くマリーは、ヘーゼルナッツ色の髪にラピスラズリの瞳をした12歳。
実は聖女なのだが本人は無自覚で、本人が無自覚であるゆえに、周囲にもその事実を知る者は誰もいない。
父セルジュと母マリアンヌは近所でも評判の仲良し夫婦であり、子供のマリーから見ても大変な美男美女なのだが、残念ながらマリーはあまり似ていない。
といっても決して不細工な訳ではなく顔は大変整っていて、なんというか、マリーは子供ならではのふわっとした可愛らしさはないけれど、おそらく、成長するにつれて美人になるタイプなハズである。たぶん、きっと。
そのマリーは異世界転生者だ。人並みに神社やパワースポットを訪れるのが好きな、しごく平凡なOLだった。
(ついうっかり、マリーが神に祈りを捧げようと柏手を打ってしまったりするのはそれが原因なのである)
前世のマリーはあれほどブームになっていた“異世界転生”関連の話題に触れる機会に恵まれず、ゆえに、それらの知識が全く無い。だからいわゆる“チート”だって知らない。せっかく聖女という高いスペックを持っているのに、大変にもったいないことである。
最近になって時折遭遇するようになったちょっぴり不思議な体験や魔法関連のファンタジーな出来事については、魔法があるこの世界ならではのもので、先日訪れた“薬草の聖地”(※マリーの中では異世界パワースポットとして認識されている)の影響だと信じて疑わないのである。
マリーが「異世界転生ブーム」を欠片程でも知っていれば、せめて光の柱が立った時くらいは「あれ?これってもしかして異世界転生で何かあるヤツ?」的な疑問くらいは抱いたかもしれないのに……遺憾である。
そんなマリーが前世の記憶を思い出したのは数ヶ月前のことだ。以来、潰れかかっていた実家の宿を、両親と皆んなで一緒に地道な営業で順調に立て直しつつあるところである。
食堂の給仕に制服を取り入れたことで食堂は爆発的に人気が出たため、しばらくの間は行列ができたりしたが、肝心の宿泊はあと一歩だ。
しかしながら、制服効果のおかげで宿の知名度は上がり、なんと“働いてみたい憧れの職場”と言われるまでになったやどり木亭である。
そんなマリーの目下の心配事は、両親の『マリーは聖女だね!』発言だ。
つい先日、マリーのサシェ作りの考えを聞いた両親が『マリーは僕らの天使だと思ってたけれど、実は聖女様だったんだね!』と、根拠のない“聖女”発言をしてしまった。
いやどうしてしかし、根拠のないソレは図らずも大正解だったわけなのだが、両親のソレはいわゆる親馬鹿120%のアレであって、マリーが真実聖女であることを見抜いた発言ではもちろんない。(しかしながら、紛れもない事実なのであるが)
とはいえ、まだ「天使」と呼びたい気持ちも強いらしく、いちいち先ほどのように『僕の天使は…ああ!僕の天使は、天使だけじゃなくて、聖女になったんだったね!』と言い直すところが若干面倒くさいと思っているマリーである。
そして、そんな親馬鹿な父と母(特に父)がよそで“うちのマリーは天使じゃなくて、聖女だったの!”的なことを口走ってしまうのではないかと心配なのだ。
マリーとてこの国の聖女様については知っている。大層高貴な御身分のご令嬢が選ばれるもので、聖なる力という素晴らしい力を持ち、神に代わって崇め奉られるような存在らしい。
そんな尊き存在である聖女様の名前を出すなんて、「聖女を騙るとは不届き千万!不敬罪に処す!」とか「聖女を騙るなど即刻処刑である!」などと厄介なことになりそうではないか。前世OLとして極力リスク回避をしてきたマリーとしては絶対に避けたいのである。それに、そもそもめちゃくちゃ恥ずかしいのだ。
しかし、反応すると嬉しいのか、セルジュはさらに続けてくるのでできるだけ頑張ってスルーするマリーだった。
「へ、へえ!参加してみたいけど、どんなことするの?」
「商工会に所属している商店や食堂が広場や各店の前で出店をしたりするんだよ。出店で販売するものは、食べ物でも飲み物でも品物でもなんでもいいんだ。さすがに普段食べ物を扱っていないお店は、許可を取る必要があるけど、うちには食堂もあるから何を出しても問題ないよ」
「じゃあ、参加する方向で、皆んなで話して決めてもいい?」
「もちろんだよ。マリーのやりたいようにやっていいから、どんな出店にするか考えたら聞かせてね。僕の天使で聖女のマリー!」
「わ、わかった!パパありがとう!…でもその呼び方は、ちょっと恥ずかしいな?」
「あはは、相変わらずシャイだな!すぐに慣れるから大丈夫さ」
たまらずに、もじもじしながら異議を唱えてみたもののセルジュは軽くそれを流し、マリーをぎゅっと抱きしめて出かけて行った。
「…う、うん、まあ仕方ないか……。よーし、みんなでお祭りをどうするか考えるよ!みんなに伝えに行こう!」
なるほど、こういう日常によってマリーの切り替えの早さは培われているらしい。
そうしてマリーがやってきた食堂は、つい2日前に新しい給仕を迎えて新体制になったばかりだ。
ヘレナちゃん、ミラちゃん、メリナちゃんは飛び抜けた美人!というわけではないけれど三者三様に可愛らしく、若さ溢れる笑顔で早速お客様に歓迎されている。三人が“独身”というのも、素敵な出会いを夢見る青年にはポイントが高いようだ。
うむ。大いに青春を楽しむがよい、と思うマリーである。
一方のクレアさん、ルイーザさんはというと…
「「「「きゃーー!アレク様〜〜〜〜!」」」」
「「「「ルイ様、こっち向いて〜〜〜〜〜!!」」」」
なんと執事風制服で勤務を始めて3日目にして、クレアさんのことを「アレク様」、ルイーザさんのことを「ルイ様」と呼ぶ、いわゆる親衛隊が誕生していた。
名前を呼ばれたクレアさんはお客様の方を向き、ばちこーん!と片目をつぶってウィンクし、ルイーザさんは流し目だ。
「「「「「「「「「「「きゃあああああああああああ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」
大変な騒ぎである。
なんでも、制服が制服に変わった初日、二人が制服姿でご近所に挨拶に行ったらしい。
『うちの食堂に新しいメンバーが入りました。私たちも引き続き給仕してますのでよろしくお願いします』その効果が早速現れているというわけだ。
(嵐の予感が的中しちゃったよ!)
あまりの熱気に圧倒されるマリーである。
「エ、エマさん、お疲れ様です!今日もすごいですね」
「おかげさまでねー。ほんとにあの二人ったら!しかも味を占めちゃったのか、日に日に男っぷりがあがってるのよ」
今日も平常運転で変わらなエマさんに安心するマリーだだた。
なんでも、
本物の男性ではないので色々と心配する必要もないし、何なら思い切って手に触れたりしても破廉恥にもならない。
その辺りの本物の男性にはない、きめ細やかな気配りや優しさにキュンとくる。
何ならその辺の本物の男性よりも立ち居振る舞いや仕草がかっこいい。
まるで物語から抜けだした王子様のようだ。
単純にキャーキャー言える。
などなどの理由からあっという間にこの人気ぶりなのだそうだ。
クレアさんもルイーザさんも悪ノリ…大変ノリノリだ。
「やあ、ハニー。今日も笑顔が可愛いね!今日も来てくれてありがとう」
「僕の可愛い小鳥さんは何か心配事でも?よければ僕に聞かせて欲しいな」
「おや、僕のお姫様は前髪を切ったのかい?よく似合ってるよ」
「僕の子猫ちゃん、今日は何を注文する?」
「今日のスイーツが甘くて美味しい?それは良かった。でも、君の唇の方がきっと甘くて美味しいよ」
(ク、クレアさんも、ルイーザさんも、いったいどこでそんなセリフを…!いや、いいんだけど!いいんだけども!)
ノリノリで甘々なセリフを甘く投げかける二人と、それにうっとりするお客様のおかげで、これまでは客足の少なかったカフェタイムが大繁盛だ。ありがたいことである。
「あ、あま…」
つい呟くマリーと、甘々なセリフを吐く二人を見て大笑いするエマさんだ。
「あははは!あーーー、もうほんとによくやるわよね、あの二人!まあ、お客様は喜んでくださってるからいいんだけど、あの二人にあんな特技があったなんて。それより、あんなセリフ、どこで覚えてきたんだか」
激しく同感するマリーだった。
「それで、マリーちゃん、何かあった?」
「あ、そうでした。今度ある商工会のお祭りにやどり木亭も出店しようかと考えてるんです。それで、皆さんのご意見を伺いたいんです。出店するかどうか、また、出店する場合、どんなことがしたいのかを給仕チームで話していただけますか?明日参加できるメンバーで話し合いたいと思ってますのでよろしくお願いします!あ、トーマス料理長にもお伝えしています!」
「わかったわ!みんなに聞いとくから、任せといて!」
「ありがとうございます!」
「「「「「「「「きゃああああああああ〜〜〜〜〜〜〜」」」」」」」」
(嵐の予感はしたけれど、この反応は想定外だったよ!コレ、この先どうなるんだろう?)
そんな二人の会話の向こう側では、アレク様とルイ様の給仕とファンサによって、再び黄色い悲鳴が上がるのだった。




