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第16話 癒薬師からの要望2

 シモンズさんからの“お弁当60個”という要望を受け、勝手に使命感に燃えるマリーは厨房へ向かうことにする。


「オリバー支配人、ということで、ちょっと厨房に行ってきます」

 

 

 あの“制服フィーバー”の一件以来、ありがたいことに、やどり木亭はとても忙しい。

 食堂は変わらず満席が続いているし、今では宿泊も常時7〜8割が稼働している状態だ。


 人を雇わなくては!と慌てていたところに、親子代々で宿を利用してくれていたグレンジ商会の三男であるオリバーさんが来てくれた。


 グレンジ商会といえば、隣国アルスター王国で1位、2位を争う大商会だ。この国でも、王城や多くの高位貴族の屋敷に出入りしているという。


 オリバーさんは30代の後半くらい。深い灰緑の髪に琥珀色の瞳のイケメンだ。

 以前から商会の仕事の関係で定期的にやどり木亭に泊まってくれていた。

 マリーが幼い頃から訪れる度に親しく声をかけてくれていて、マリーにとっては、いつも隣国の美味しいお菓子をくれる優しいお兄さんだった。


 寂れていくやどり木亭を気にしてくれていたオリバーさんは、マリーがフロントや食堂によく出るようになった時もハラハラしながら見守ってくれていたらしい。

 そのうち宿の雰囲気が変わったのを感じるや、なぜか「やどり木亭で働かなければ」と思うようになったのだそうだ。


 予約もないのに、ある日いきなり宿を訪れて、オリバーさんは言った。

 

「実は、商会をやめてきました。ここで雇ってもらえないかなと思って。こんなことを突然申し出るのは非常識だとわかっていますので、もちろん断っていただいて構いません」

 

 なぜ大商会を辞めてまでやどり木亭に…と突然のことに驚いたものの、実家の商会も含めての長い付き合いだし、オリバーさんとの過去のやりとりで人柄もわかっている。仕事に対する姿勢にも良い印象しかない。

 そこで、2つ返事でお願いすることとなった。

 

 なぜ突然訪問したのか後に尋ねたところ、やどり木亭が断りやすくするための気遣いだったらしい。

 長い取引のある、隣国とはいえわりと大きな商会からの事前の打診となれば断りたくても断りにくいだろう。

 でも、いきなり訪問しての打診であれば「さすがにこんな突然のことじゃ…」など理由をつけて断りやすいだろうと思ったらしい。いい人だ。

 

 その後、手渡された商会長からの手紙には、

 『担当させていた大きな仕事もあったのに、突然商会を辞めると言い出して、仕事を成功させたらと条件を出したら1ヶ月で片付けられてしまった。

 もう親が口を出すような年でもないけれど、正直お手上だ。すまないが、愚息が迷惑をかける』

 というようなことが書かれていた。オリバーさん、うちに来るために頑張ってくれたんだね。

 

 オリバーさんの働きぶりは期待以上だった。

 商会で鍛え上げられてきただけあって、経営も経理もバッチリだし、王侯貴族の対応もできるだけあって、物腰も柔らかく接客も完璧だ。

 まだ働き出したばかりにもかかわらず、すでに宿泊部門は彼の采配で回っていると言っても過言ではない。




「ええ、お願いします。マリーちゃん、お話が終わったら休憩してくださいね」


 にっこりと微笑んだオリバーさんに送り出された。




「60個か…」


「はい、食堂の営業もあるから大変だと思うんですけど…その…シモンズさんとおっしゃるんですが、普段の食事はポーションだけらしいんです」


「え?」


「ええっと、シモンズさんという癒薬師さんからのご要望なんですけど、いつも食事は、自分で作ったポーションだけなのだそうです」


「はああ?ポーションが食事?」


「俺、そんなの無理だわー」

 隣でニコルがつぶやいている。


「ええ、それで、うちのお弁当なら食べたいから、もし可能であれば、というご要望なんです」


「…そんな話を聞いたら、作らないわけにはいかないだろう…」


 少し考えてトーマス料理長が口を開く。

 食堂の営業と同時進行で対応が可能か考えているのだろう。


「でも、保存はどうするんだい?魔道具か何かがあるの?」


「時間停止のあるマジックバックがあるので、保存は大丈夫です」


「そうか… 事前にマジックバックを借りられるだろうか?時間停止なら早めに作ることもできるから、それならおそらく対応できるよ」


「トーマス料理長!ありがとうございます!!」


(ですよね!ふふふ、わかっていましたよ!トーマス料理長ならやってくれるって!)


「シモンズさん、きっととっても喜びます!

 …あ、ちなみに、もし最大作るとしたら何個出来ますか?…その、一応ですね、増やせるのならば作っただけ購入したいらしくて…」


「…そうだな。この間入った見習い君たちのできることが増えてきたから…なんとか100個を目指してみるよ。それでいいかい?」


「かーーーーー!!100個だぁー?!燃えてきたぜ!!おーし、見てろよー!」


 ニコルもやる気だ。頼もしい。


「ありがとうございます!!お願いします!!」


 午後になって宿に戻ったシモンズさんに、お弁当の注文を承ることができること、ただそれには、今日からマジックバックを使わせてもらいたいこと、お弁当は60個は確実に、100個を目標で作るけれど、何個まで作れるかはできてみないとわからないことを伝える。


「わぁ!それは嬉しいな。ありがとう!数はもちろんできた数で構わないよ。

 たくさんできたものは全て購入させてもらうから。

 マリーちゃん、料理長さんへの依頼、がんばってくれたんでしょ?ありがとうね」


 一歩こちらに踏み出したシモンズさんに両手をヒシっと握りしめられ、感謝の気持ちを伝えられる。

 喜びのあまり距離感を忘れたのかな…近いよ、シモンズさん…。


「シモンズさん、念のためですが、何か食べられないものとかありますか?」


「食べられないもの?…うーんそうだな。もうしばらくポーション以外をほとんど口にしてなかったから覚えてないけど、多分無かったと思う」


(覚えてないんかい!そんなことってあるんだ…)


 そして、満面の笑みで「これをつかってね。予備がいくつかあるから、もし他に必要なら言って?」とマジックバックからマジックバックを取り出して渡してくれた。


「ありがとうございます。では使わせてもらいますね!」


「うん。よろしくね」


 そう言って部屋へ戻っていくシモンズさんを見送った。


「そういえば、シモンズさんの顔色少し良くなってた。お弁当のこと嬉しかったからかな。うふふ」




 シモンズさんの出発前夜、トーマス料理長からお弁当ができるとの知らせを受けて厨房へ行くと、調理台にズラリとお弁当が並んでいた。おお、壮観だ。


「ああ、マリーちゃん、今最後の分を作ってたとこだ。これで完成だよ」


「ありがとうございます!どれも美味しそう!」


「サンドイッチの具材は、玉子、チキン、ビーフ、ポーク、エビ、ツナ、サラダなどをメインに使って10種類を10個ずつだよ。一応、ケースの表にメインにした食材の名前だけは書いたけど、説明してあげてね」


 そういえばこの世界、食材とか色々、前世と同じだったリ、似ているものが多い。

 当たり前に生活をしていたので気づかなかったけれど、異世界なのに不思議だ。


「わ、細やかにありがとうございます!それに種類も数も、たくさん用意してくれてありがとうございます!」


 いくつか、中身を見せてもらったけれど、玉子サンドやローストビーフ的なもの、チキンもマスタードチキンや照り焼きチキン的なもの、ポテトサラダ的なもの色々あって、どれもとても美味しそうだ。

 うう…見てると食べたくなってくる。


「安心して、マリちゃんの分も作ってるよ」


「わぁ〜、すごい!嬉しいです!」


「今日のみんなの賄いだよ」と笑いながら教えてくれたので、顔に出ていたのかも知れない。


「シモンズさん、間違いなく喜んでくれると思います!明日の出発の際にお渡しします。料理長、みなさん、ありがとうございました!」


 やり遂げた感の漂う厨房の面々にお礼を伝える。


「またいつでも言ってね。僕らもこれだけ作れたのは良い自信になったよ。あ、でも、マジックバックがないお客様には今回みたいなのは難しいけどね」




 そして翌朝。

 お弁当の具材や種類を説明をし、100個入れたマジックバックをシモンズさんに無事にお渡しする。


「マリーちゃん、今回もお世話になりました。

 それにお弁当をたくさん、本当にありがとう!また二ヶ月後に!」


「こちらこそ、ありがとうございました。

 お弁当、忘れずに食べてくださいね!またのお戻りをお待ちしてます!」


 そう言って、シモンズさんは笑顔でやどり木亭を出発していった。到着時より少し顔色が良くなったように見えて安心だ。

 何せシモンズさんは、マリーが勝手に「面倒を見てあげなきゃいけない、かわいくて心配が尽きない弟分」に指名している。

 せめてお弁当くらいしか提供できないけれど、シモンズさんの健康はマリーにとって重要事項なのだ。


「次にシモンズさんが来た時に感想聞くの楽しみだなー。シモンズさんの顔色も良くなっていますように」


 いつものお祈りをすると、「よし、今日も頑張ろう!」とご機嫌に気合いを入れるマリーだった。


読んでいただき、ありがとうございます!

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