第2話 「推し」登場
しん、と静寂が場を支配する。
その中で、私は素早く頭を回転させる。ここは、洞窟だ。最初に襲撃を受けた夜、その時にウィンは……脇腹に怪我をして、生死の境を彷徨って、今、目覚めたところなんだ。
状況は分かった。じゃあ次。
次。次はどんな展開だっけ。
そうだ、『皇太子セディアの長い話』だ。第七章だ。書いたのはずいぶん前だから、内容はともかく細かい動作や台詞がうろ覚えだ。
でも、『長い話』は確かこの翌日だから、この日はなんだっけ。あ、彼を助けた理由を聞かれるんだ。ウィンの体調が回復してきたから彼は尋ねに来るわけで、てことは、私の次の動きは……。
コンマ何秒かで結論に達し、私はゆっくり身を起こした。
ウィンは『徐ろに上体を起こした』はずだ。
「起き上がれるの?」
おお、話が進んだ。筋書き通りのウィンの言動を取れば、筋書き通りに話が進むのだろうか。
「大丈夫、みたい」
「大地が、ウィンに力を与えたのです」
別の方向から、落ち着いた声がした。今度はシルヴィーだ!
間近に見ると、煌めく銀髪は神秘的なまでに美しい。いつも伏せられた長い睫毛。面長な輪郭にまっすぐな鼻筋。
うーん、ミステリアス美人。狙い通り。
「そうか、よかった」
シルヴィーに見とれる私の横で、ロディが胸を撫で下ろした。
えーと、次はなんだっけ。
「目が覚めたか」
どっきん、と心臓が跳ねた。
そうだ、目の前の台詞に必死で忘れていたけど、次はこの人のターンなのだ。
私の横で、フローラが立ち上がった。そう、彼女は自分が盾になって、彼から私を守ろうとしてたんだっけ。
「持ってろ」
再び、彼の声が響く。
どうしようもなく鼓動が速くなる。
いや、無理無理むりむり!
声だけで無理なのに顔を合わすとか無理すぎる。
ここが自宅のベッドなら脚バタバタごろんごろんして変な声出てしまうくらい無理。
だって。
だって彼は、セディアは、わたしの夢なんだ。