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【1】プロローグないし騎士団への入団

「異民族は排斥され、異端は焼かれ、背教者は四肢を切られた。そうして、神に祈る自由すらも奪われたのが、この世界だ」


「…………」


「だからね、僕たちにとって信仰とは、ただの神頼みじゃないんだ。

 神を信じることこそが、その人の人生を左右する力となるんだよ。その人が生きる理由になるし、死ぬ理由にもなる。

 そして、信仰によって救われる人がいるなら、信仰で破滅していく人もいる。

 それが、残念ながら、この世界の理なんだ」


「……」


 俺は、ただ黙って聞いていることしかできなかった。あいつ、アルフォンスの話はあまりにもスケールが大きくて、俺なんかには理解できないもののように思えたからだ。


「でもね、僕はこう思うよ。

 神なんてものは、結局のところいないんじゃないかなってさ。

 いるとしたら、それは僕ら自身の心の中にしかいないんだろうな」


「……自分の中に?」


「うん。だからね、君は君らしく生きればいいと思うよ。

 たとえ、君の生き方や考え方が、周りの人間と違おうとも、それでいいじゃないか。だって、君は君自身なんだから。君がしたいようにすればいいんだよ」


「俺自身が、したいように……」


「そうだよ。それに、もし誰かに何か言われたとしても気にすることないさ。そんな奴らは放っとけばいい」


「いや、お前が言うか!?」


 あまりに自分勝手な発言に思わず突っ込んでしまった。


 すると、アルフォンスは悪びれもなく笑った。


「あははっ! まぁ、とにかく君は自由に生きた方がいいよってことだよ! それじゃあ、僕はそろそろ行くね。また明日、会えるといいね!」


 そう言って、アルフォンスは去って行った。全く、嵐のような男だった。


 しかし、彼と話していて不思議と悪い気はしなかった。


 むしろ、彼の言葉のおかげで少しだけ気が楽になったような感じさえした。


(ありがとうな、アルフォンス)


 俺は、彼に感謝しながら眠りについた。



…………………………。


「おい、聞いたか? 例の話」


「ああ、なんでもあの件の『黒猫』が騎士団に首席で入団したらしいぜ」


「マジかよ!? あんなに弱そうな女のガキがどうして……」


 廊下を歩いている時、騎士たちの話が聞こえてきた。

 どうやら、『黒猫』というのはクロエのことを指しているようだ。

 俺とクロエが騎士団に志願してからというもの、彼女は王都ではちょっとした有名人になっていた。

 彼女が白昼堂々と王都の大通りのど真ん中、かつ公衆の面前で盗賊を捕まえたという偉業はかなりの脚色をされ、街中にあっという間に広がったのだ。

 さらに、先日の入団試験で首席で突破したこともあり、彼女の知名度はさらに上がっていた。


 そのため、今では彼女を知らない者は騎士団にはいないくらいにまでなっていた。


(まさか、こんなことになるとはな……。クロエが有名になったせいで、俺も余計に目立つようになったし……。これじゃあますます悪い意味で目立ってしまうな)


 俺はただ、ため息をつくしかなかった。


 すると、噂話をしていた先輩の騎士たちがこちらに向かってきた。


「よう! 新入りたち!」


「こいつらが俺たちの後輩か?」


「はへぇー! まだ青いガキじゃねえか!」


「お前らもすぐに先輩になれるさ! 頑張れよ!」


 彼らはそう言いながら去っていった。


「ちっ、面倒くせぇな……」


 俺は舌打ちをした。


 しかし、彼らの気持ちも分からなくはなかった。

 なぜなら、俺自身も同じようなことを考えていたからだ。


 正直、今の状況はかなり居心地が悪いものだった。

 周囲からの視線はもちろん、最近では陰口まで言われるようになっていたからだ。


「おい!あれ見ろよ」「ああ、『白狼』だ」


 俺を見てひそひそと話している声が聞こえる。なるべく気にしないようにしていたが、それでもやはり嫌なものは嫌だ。

 だが、それも仕方ないことだと割り切るしかない。

 クロエが目立ってしまった以上、彼女と行動を共にしている俺にも必然的に注目が集まるわけだから。


(それにしても……)


 俺は改めてクロエのことをよく見てみた。

 確かに見た目は美少女といっても過言ではないほど整っていると思う。

 剣術も体術も並の騎士よりは上であるのは、先日の試験が示している。

 ただ、性格に関してはあまり良いとは言えないかもしれない。

 少なくとも俺に対してはそうだし、他人に対してもどこか上から目線な態度をとっていることが多いように感じる。

 まぁ、これはあくまでも俺から見た印象に過ぎないのだが……。


 とにかく、そんな彼女がなぜ俺なんかと騎士団に入ったのか、未だに謎である。


「……なに?」


 俺が見ていることに気づいたクロエが不機嫌そうな顔で言った。


「いや……別に何でもない」


「ふぅん」


 俺が答えると、クロエは再び歩き始めた。

そして、俺もそれについていくようにして歩いていった。







「ここが私たちの部屋ね」


 しばらく歩くと、ある部屋の前までたどり着いた。

 どうやらこの部屋が俺とクロエに与えられた部屋らしい。


「荷物を置いてくるから少し待ってて」


 クロエはそう言うなり、部屋に入ろうとした。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 俺は慌てて呼び止めた。


「何?」


「その前に、一つ確認しておきたいことがあるんだ」


「なによ? 急に改まって」


「……本当に、俺がここにいてもいいのか?」


「どういう意味よ?」


「いや、だから、男女同じ部屋は倫理的問題……そもそも俺がクロエと一緒にいても迷惑になるんじゃないかと思って……」


 俺が言うと、クロエは大きくため息をついた。


「バカじゃないの?……そんなこと気にする必要なんてないわよ。

 ……私だってあなたがいてくれた方が助かるし」


「本当か?」


「ええ」


「でも、俺のせいでクロエの評判が悪くなるかもしれないし……」


「そんなこと気にしないでいいわよ」


「でも、他の騎士たちから変な目で見られてるのは事実だろ」


「別に構わないわ」


「いや、でも……」


「しつこい!」


「痛っ!?」


 クロエは突然俺にチョップを食らわせてきた。


「いいから黙りなさい! あんまりうるさいと、もう二度と口をきかないからね!」


「す、すいません……」


 俺は素直に謝った。これ以上何か言うと本気で怒らせてしまうと思ったからだ。


「まったく……ほら、早く中に入るわよ!」


 そう言って、クロエはさっさと部屋に入ってしまった。

 俺は、仕方なく現実を受け入れその後に続いて入って行った。

 個人的には男女別室であって欲しかったのだが。




「おお、意外と広いな」


部屋に足を踏み入れた俺は思わず呟いた。


「当たり前よ。ここは一応二人部屋なんだから」


「へぇー」


 どうやら、クロエの言葉通り、ここには二つのベッドが置かれているようだ。


「とりあえず、荷物を置きましょうか。重いし」


 クロエはそう言いながら、自分のバッグを開けて中身を取り出した。

 俺もそれに倣うように、荷解きをしていく。


「よし、これで全部かな……」


 数分後、全ての荷物を出し終えた俺達は、改めてお互いの顔を見た。

 すると、クロエはなぜか恥ずかしそうな表情を浮かべた。


「な、なんだよ……人の顔をジロジロ見て……」


「べ、別になんでもないわよ……。それより、これからよろしくお願いするわ。

 えっと……シルヴァンさん?」


「ああ、こちらこそよろしく頼む。クロエ様」


俺がふざけるように言うと、クロエは不機嫌そうな顔になった。


「なにそれ? 馬鹿にしてるの?」


「いや、ただからかっただけだ」


 俺は苦笑しながら答えた。


「まぁ、別に呼び方なんて何でもいいけれど……」


 クロエもそう言いながら、小さくため息をつく。


「そういえば、クロエは何で騎士団に入ったんだ?」


 俺はふと気になって尋ねた。


「どうしてそんなことを訊くのよ?」


「いや、単純に興味があったからだよ。まぁ、俺も人のことを言える立場じゃないが」


「ふぅん……」


 クロエはしばらく考え込むような仕草をした。


「……まあ、強いて言えば、憧れだったからかしら」


「憧れ?」


「うん」


「どんな風に?」


「それは……内緒」


クロエはそう言うなり、プイッとそっぽを向いてしまった。


「なんなんだよ……」


俺は戸惑うしかなかった。


「……ところで、あなたはどうなの? 騎士団に入った理由とかあるわけ?」


クロエが尋ねてくる。


「俺か……」


まさか自分に質問が返ってくるとは思わなかったため、少し驚いたが、俺は素直に答えることにした。


「そうだな……。まぁ、クロエと同じようなものだと思う」


「……ふぅん」


 クロエは納得していないようだったが、それ以上追及してくることはなかった。


 それからしばらくの間、お互いに会話を交わすこともなく沈黙の時間が流れた。

 だが不思議と居心地の悪さを感じることはなく、むしろどこか落ち着くような感覚すらあった。


(何だろうな……この感じ)


 俺はふとそんなことを考えたが、すぐに考えるのをやめた。

 考えたって分かるはずがないと思ったからだ。

 ただ一つだけ確かなことは、今の状況が決して悪いものではないということだけだった。


「よし、こんなところだろ……」


 俺は荷物整理を終えて一息ついた。


「これで……こっちも終わったわ」


クロエもちょうど片付けが終わったらしい。


「お疲れ様。じゃあ、さっそくだけど……」


 クロエは部屋の隅に置いてある椅子に腰掛けた。


「あなたも座ったら?」


「え? いや、でも……」


「いいから座りなさい」


「わ、分かったよ……」


 俺は仕方なくクロエの隣にあるもう一つの椅子に腰かけた。


「それで、話ってなんだよ?」


 俺が尋ねると、クロエは真剣な眼差しで俺のことを見て言った。


「私たちがどう呼ばれてるか、さすがに知らないわけないでしょ?」


「と言いますと?」


「『黒猫』と『白狼』、あの盗賊の事件以降、新聞辺りが勝手に名前をつけたんだろうけど。それはどうでもいいわ。

 シルヴァン、あの事件について私に話してないことがあるわよね」


 クロエが真面目な視線で自分の目をじっくりと見つめる。その視線には剣のような鋭さと氷のような冷たさを感じる。

 まるで喉元にナイフを突き立てられているような感覚さえ感じる。


「話してないことなんて何も無いし、騎士団にも全て報告したはずだが」


「私、嘘は嫌いよ『白狼』さん?」


「その呼び名、結構気にしてるんだけどな……」


 確かに、この事件を扱う騎士団にも、クロエにも言っていない事実はある。

 ただ、これは俺が選んだ沈黙と言う選択。


 彼女にはこれ以上何も考えて欲しくない。

人物説明は次回に持ち込ませてください

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