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第4話 2冊のルルブ

 黒川詩音は、鞄から何かを取り出した。それは2冊の本だった。文庫本サイズの本で、紙のブックカバーがしてあって何の本かは分からない。


 緊張している俺に、黒川詩音はその2冊の本を手渡した。


「次の土曜日までに、その本を読んで基本的なことを理解しておいてちょうだい」


「えッ!? こ、これは何の本なんだ?」


 訳が分からず俺は聞き返した。しかし、その質問に彼女は背を向けて答える。


「くわしいことは、また金曜日の放課後に伝えるわ。いいわね? 必ず読んでおくのよ!」


 そう言い残して黒川詩音は足早に去って行った。教室には、呆然と立ち尽くす俺が一人だけポツンと残された。


 てっきり金銭などを要求されるかと思ったら…… 本を読んでおけとは。


 いったい何の本だろう?


 不審に思って、俺は手渡された本のタイトルを確認する。1冊目は「ウォーリアー&ウィザードRPG」と書かれている。2冊目のタイトルは「ガンワールドRPG」だった。


 RPG?


 ゲームなどでよく目にする言葉だ。2冊ともそのRPGという単語が共通してある。


 ヤバい薬とか爆弾の作り方といった本ではないようだ。少し安心する。しかし、やや拍子抜けした気分だ。


 とりあえず、俺は帰宅することにした。



 夕食を済ませて自室に戻ると勉強机の前に腰掛けた。机の上に、黒川詩音から渡された本を広げてみる。


 どうも小説のたぐいではないようだ。これはTRPG。いわゆるテーブルトークRPGのルールブックと呼ばれる物だった。


 テーブルトークRPGというのは、文字通り人間同士がテーブルを囲んでトーク(会話)することで遊ぶRPGのことである。


 RPGと聞けば、普通コンピューターゲームのことを思い浮かべるが。パソコンなどのコンピューターが家庭に普及される以前は、紙とダイス(サイコロ)を使って人々はRPGをしていたのだ。


 コンピューターの代わりに、ゲームマスターと呼ばれる人間がシナリオなどを用意して。プレイヤーの人間は、ゲームマスターと会話しながらダンジョンなどを冒険するのだ。


 モンスターとの戦いなどは、攻撃の判定などをダイスを振って行う。原初のRPGとは、そういう物だったらしい。


 ちなみに、RPG。すなわち、ロール・プレイング・ゲームとは…… 役割ロールを演じる(プレイ)ゲームなのである。


 例えば「戦士」や「魔法使い」。そういった役割を演じて遊ぶゲーム。まあ、つまり小さな女の子がよく遊ぶ、おままごとみたいなものだ。あれも「父親」や「母親」といった役割を演じるだろ?



 しかし、黒川詩音はなぜそんなTRPGのルールブックなんか俺に渡したのだろう? しかも2冊も。


 TRPGで遊ぶのは、どちらかと言えばオタクとかゲーム好きのグループの人間だと思う。仮にも時代の最先端を生きているバリバリのギャルとは縁が無さそうな物だが。


 謎は深まるばかりだ……


 だが、黒川詩音に読めと言われた以上をこれを読まない訳にはいかない。


 俺は、1冊目の「ウォーリアー&ウィザードRPG」のルールブックから読むことにした。


 「ウォーリアー&ウィザードRPG」は、いわゆる剣と魔法の世界。つまり、オーソドックスなファンタジーの世界を舞台にしたTRPGのようだ。


 世界観の設定や魔法の説明などが細かく記載されている。他にもアイテムやモンスターの種類や設定など…… 正直、読んでいてもいまいちピンと来ない。


 俺は、TRPGはやったことがない。そりゃそうだ。一緒に遊ぶ友達すらいないのだから当然だ。


「はぁー」


 深いため息をついてから2冊目の本を広げた。2冊目は「ガンワールドRPG」というやはりTRPGのルールブックだ。


 しかし、先ほどの「ウォーリアー&ウィザードRPG」とはおもむきがだいぶ異なる。こちらの「ガンワールドRPG」は近代的な銃器を取り扱ったゲームのようだ。


 世界観もほとんど現代に近く、実在する銃の性能などが書かれている。人間同士が銃でドンパチする内容のゲームのようだ。



 俺がよく読むライトノベルなどの小説と違って、ルールブックにはストーリー性はない。色々なルールが書かれているだけで、あまり興味のない俺にとっては読むのは少し苦痛であった。


 しかし、黒川詩音の命令に逆らうことはできない。


 俺は、言われたとおりその2冊の本を読むことにした。今日は、水曜日だから指定された土曜日まではあと3日ある。


 読んでいて面白いものではないが、普段から本を読んでいる俺には十分可能なことだった。



 そして、金曜日の放課後になった――――


 俺は、黒川詩音に言われたとおり教室に残っていた。教室に俺だけになったのを見計らってか、例によって黒川詩音が1人で現れる。


「灰谷。例の本はちゃんと読んだでしょうね?」


 黒川詩音は、冷静な口調で聞いてくる。俺は、小さく頷いた。


「あ、ああ。読んだよ。2冊とも。でも、何でこんな本を読ませるんだ?」


 その質問に黒川詩音は何も答えなかった。代わりに、1枚の紙を俺に手渡してくる。A4サイズの白い紙だ。


 よく見ると地図のようだ。駅から目的地の場所が書かれている。


「これは…… 何の地図だ?」


「あたしの家の住所よ。明日の午前10時に来てちょうだい。次の命令はそれだけよ。それじゃあ」


 そう言い残して黒川詩音はその場を去ろうとする。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! いきなり家に来てくれって…… 何を?」


 俺は、彼女の背中に呼び止めようと声をかけるが。彼女が振り返ることはなかった。


 そして、誰もいない静かな教室に。俺一人がポツンと取り残されたのだった。



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