表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/16

第3話 最初の要求

 次の日の朝――――


 昨夜は、ほとんど眠れなかった。これから黒川詩音に、どんな無茶な要求をされるのか? 不安でたまらなかった。


 現金を要求されるかもしれないので、一応財布にはいつもより多めにお金を入れている。しかし、これで足りるだろうか?


 ドキドキしながら教室に入る。そして、自分の席に座った。誰も「おはよう」の挨拶をしてくれない。いつもどおりの朝。そのはずだったが……


 異変が起こった。


 始業前のこの時間。白崎麗奈が俺の席にやって来たのである。


 綺麗な黒髪のロング。日本人形みたいに前髪を下ろし。控えめではあるが、目が大きくて清楚な美少女である。制服もきちんと着ていて、スカートも普通の長さだ。黒いハイソックスがキュートに感じる。


 白崎麗奈は、恥ずかしそうに視線を泳がせて、ぎこちなく俺に挨拶をしてきた。


「お、おはよう。灰谷君……」


 突然のことに俺はびっくりして動揺する。


「お、おお…… おは…… よ」


 動揺しすぎて上手く挨拶が返せない。しかし、何で白崎麗奈は突然俺に挨拶なんかしてきたんだ!?


 まさか、昨日の出来事を黒川詩音から聞いたのか? あの画像を見せられたのか!?


「あ、あの。灰谷君…… 昨日、私のハンカチ拾ってくれたんだってね? 黒川さんから聞いたの……」


 少し小さな声で白崎麗奈は、そう言って白いハンカチを取り出す。それを見て俺はドキッとする。


 やっぱり、黒川詩音から聞いているのだ! このままでは変質者扱いされてしまう!


「い、いや! そッ! それは……!」


 俺が慌てて弁明しようとすると、白崎麗奈は控えめにニコっと笑った。


「ありがとうね。灰谷君。このハンカチ。母からもらった大事な物だったの。お気に入りのハンカチだったんだ。拾ってくれて、ありがとうね」


 そう言うと、恥ずかしそうにうつむいて白崎麗奈は去って行った。俺は、ポカーンと口を開ける。


 ありがとう……?


 白崎麗奈の口から出たのは、確かに感謝の言葉だった。どういうことだろう? てっきり黒川詩音から、俺がハンカチを盗んだと聞かされていたんじゃないかと思ったが……


 俺は、チラリと黒川詩音の方を見た。


 黒川詩音は、周囲にいる同じようなギャルたちと会話している。こちらのことなど眼中にないようだ。



 1時限目の授業が始まった。


 俺は、まだ今朝の状況が飲み込めずにいた。授業が頭に入ってこない。黒川詩音と白崎麗奈の間に、何らかのやり取りがあったことは間違いない。しかし、白崎麗奈の反応を見る限り。今のところ俺にとって最悪の状況にはなっていないようだ。


 いや、それどころか。俺は白崎麗奈と初めて会話することができた。いつも遠くから眺めるだけの、高嶺の花だったあの白崎麗奈と……


 少しテンションが上がる。


 白崎麗奈に話しかけられた! この動物園みたいな教室の中で、君と俺だけは人間。そう。まるでアダムとイブのように。


 俺の中で疑問よりも白崎麗奈と話せた嬉しさの方が膨らんでいく。いつの間にか顔がにやけてしまう。



 そうこうしているうちに、1時限目の授業は終わった。


 俺は、まだ白崎麗奈と会話できた余韻に浸っていた。しかし、それはすぐに現実に引き戻されることになる。


 黒川詩音が、俺の元にやって来たのだ。相変わらず派手な髪型。シャツの胸元を開けて、短いスカートを履いたギャルのボス猿。


 黒川詩音は、俺の横をたまたま通りがかった風を装って、俺にだけ聞こえるようにボソッと言った。


「今日の放課後、残っていなさい。用があるわ」


 その言葉を残して去って行く。やはり昨日の出来事は夢ではない。これが現実なのだ。


 やがて、チャイムが鳴り2時限目の授業が始まる。


 さっきまで、白崎麗奈に話しかけられた嬉しさで高揚した気分は、すぐにどん底まで落ちた。放課後、あの黒川詩音からどんな要求をされるのか? 不安が胸にこみ上げてくる。



 そして、放課後――――


 俺は、黒川詩音の言いつけどおり教室に残っていた。誰もいない教室にポツンと居た。黒川詩音は、ギャルたちと一緒に下校したように見えたが。


 やがて、誰かが教室に入って来た。入口に視線を移すと。やはり、黒川詩音だった。彼女は、俺の方へと真っすぐ歩いてくる。


「偉いわね。言いつけどおり、ちゃんと残っていたわね。感心感心」


 いつものギャル風のイントネーションではなく。どこか冷めたような冷静な口調だった。それが、逆にいつもより不気味感じた。


「今朝、白崎と話してたでしょ? 彼女。なんて言ってた?」


 黒川詩音は、俺の目を真っすぐ見ながら尋ねてくる。今朝の事はしっかり見てたようだ。


「……ありがとうって言ってた。ハンカチを拾ってくれてありがとうって」


 俺は、事実を率直に答える。黒川詩音は、フッと鼻でっ笑った。


「そう。よかったわね。灰谷。あんた、白崎のことが好きなんでしょ?」


「なッ!?」


 黒川詩音の突然の言葉に、俺は動揺を隠せなかった。確かに、他の生徒に比べて白崎麗奈を特別な目で見ているのは確かだ。しかし、ストレートに好きっていう言葉で表現できる問題ではない。


「あんたさー時々、白崎のことチラチラ見てるでしょ。あたし知ってるんだからねー!」


 いきなりギャルのトーンに戻る黒川詩音。俺は、動揺しすぎて挙動不審なまま口を開く。


「い、いや! べべべ別に…… す、好きって訳じゃ……」


 俺の反応を見て、黒川詩音はまたフッと鼻で笑った。


「まあいいわ。それよりも昨日言ったわよね。あたしの言うことを何でも聞いてもらうって。さっそくだけど。あんたに命令があるわ」


 黒川詩音は、また冷静な口調に戻る。そして、俺の目をジッと見た。


 来た。いったい、どんな要求を突きつけられるのだろう?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ