第16話 スタッフロール
「そもそも、TRPGはゲームマスターとプレイヤーが勝負するものじゃない! 一緒に楽しむものなんだよッ! 何でそんなことが分からないんだ!?」
怒りに任せて、俺は黒川詩音に言い放った。弱みを握られていることも忘れて。
彼女は、目に涙を浮かべて言い返してくる。
「そんなこと分かってるわよッ! ……でも、分からないの。どうやったら他人を楽しませられるのか。だって、あたしはずっと一人だった。友達なんていないもの!」
その言葉に俺は首を傾げる。
「……何を言ってるんだ? 黒川。お前には友達がいっぱいいるじゃないか。いつも取り巻きに囲まれているじゃないか?」
「あれは上辺だけの付き合いよ。本当の友達なんてあの中にはいない! ただ、その場のノリと空気で会話しているだけ。誰も本当のあたしのことなんて分かってくれないわ!」
意外だった。クラスの頂点に立つギャルの黒川詩音が、こんな孤独を抱えていたなんて。
彼女は、涙を流しながら話し始めた。
「あたしは、ずっと一人だった。両親は仕事が忙しくて、家にほとんどいないわ。だから、ずっと一人でゲームをしていたの。学校では明るく振る舞ったわ。でも、ずっと一人だった……」
いや、本当のボッチの俺に言われても。心に刺さりすぎる。
「初めてコンピューターゲームのRPGをクリアした時。エンディングでスタッフロールが流れたの…… あたし、感動して思ったの。あたしもこんなゲームが作りたいって」
「じゃあ、将来ゲームクリエイターになりたいって言ってたのは…… 嘘じゃなかったのか?」
TRPGをする前に、黒川詩音は語っていた。ゲームクリエイターになりたいという将来の夢を。
彼女は、涙を流しながら黙って頷いた。
なんだか可哀想に思えてきた。ずっと一人だったのは、俺も同じだ。まあ、俺の場合は上辺だけの友達すらいなかったが。
俺は、後頭部を手で搔きながら。彼女から目を逸らす。だが、思い切って口を開いた。
「仕方ないな…… じゃあ、もう一度TRPGを一緒にやるか……?」
「……えッ!?」
黒川詩音は、驚きと戸惑いの表情を浮かべて俺を見る。
「でも…… 灰谷。あたしのこと怒ってるんじゃ……?」
「ああ。怒ってるさ! お前にも自分にもな。だから、俺が教えてやる! 本当のTRPGの楽しみ方をな!」
真っすぐな目で俺を見つめる彼女に、俺はそう言った。そして、その後にひとつ付け足す。
「でも、ふたつ条件がある。ひとつは、ゲームマスターは俺がやる。お前は、プレイヤーだ。いいな?」
「いいけど…… 灰谷。あんたTRPGのシナリオ作れるの?」
少し不安そうな顔をする黒川詩音。しかし、俺は胸を張って答えた。
「大丈夫だよ。どんだけ俺が本を読んでると思ってるんだ? TRPGのシナリオ作るなんて楽勝だ。少なくとも、お前よりはマシなシナリオが作れるさ」
実を言うと、小説を書くなどの創作活動を家でこっそりやっている。シナリオ作りにも少し興味があった。
黒川詩音は、いつの間にか泣き止んでいた。そして、少し微笑む。
「分かったわ。でも、二つ目の条件は……?」
うむ。ここは重要なところだ。俺は、腕を組んで答えた。
「ああ。二つ目の条件は……」
それから一か月後――――
俺は、学校では基本的には相変わらずボッチだった。清楚系秀才美少女の白崎麗奈が、たまに話しかけてくれるが。やっぱり群れるのは好きじゃない。ロンリーウルフと呼んでくれ。
しかし、今日みたいな週末は黒川詩音の部屋にいた。
ここも相変わらず女の子の部屋とは思えない。大きなデスクトップのパソコンとラノベと漫画ばかりの本棚。そして、小さなテーブルの上で。
「よーし! あたしの攻撃ね! ゴブリンを攻撃するわよ!」
楽しそうにダイスを振る黒川詩音。今はプレイヤーとして、俺の作ったシナリオを楽しんでいる。
「クリティカルヒットよ! やったわ! ゴブリンを倒したわ! 灰谷! 服を一枚脱ぎなさい!」
「最初に言っただろう! 服を脱ぐルールは無しだと!」
「うふふふ。冗談よ!」
彼女は、学校では見せない本当の笑顔を浮かべていた。
その顔を見ていたら、こういうのも悪くないなって…… 俺は、そう思った。
Fin




