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第15話 クリティカルヒット

「何をするかと思えば…… 短剣で攻撃ですって? あははは。馬鹿じゃないの? 短剣なんかでゴールドドラゴンが倒せると思っているのかしら?」


 黒川詩音は、大きな声で笑った。嘲笑するような目で俺を見ている。


 しかし、俺はその視線を跳ねのけるように言った。


「倒せるさ。黒川。このゲームには、クリティカルヒットという概念がある」


 このゲーム『ウォーリアー&ウィザード』は、ダイスを振って6と6のゾロ目を出せば、様々な恩恵が受けられた。逆に1と1のゾロ目が出るとファンブルといってペナルティーとなるが。


 ダメージ判定の時に、6と6のゾロ目を出せばクリティカルヒットとなるのだ。


「クリティカルヒットを出せば、相手の防御力を無視して大きなダメージを与えられることができる。だが、それだけじゃない。クリティカルヒットを出した時、もう一度ダイスを振る事ができる。そして、その時に6と6のゾロ目を出せば、ダメージは2倍に加算する事ができる!」


「そうね。それがどうしたの? 短剣じゃあダメージが2倍になったところで、ゴールドドラゴンは倒せないわよ」


 まだ余裕の笑みを浮かべている黒川詩音。俺は、ルールブックを見せながら言った。


「いや、まだ続きがあるぜ。プレイヤーは、その後さらにダイスを振ることができる。そして、また6と6のゾロ目を出せば、ダメージは3倍となる。そして、さらにダイスを振ることができる」


 そう。このゲームのクリティカルヒットには、致命的な穴があった。


「つまり、6と6のゾロ目を出し続ければ、ダメージは2倍、3倍、4倍と無限に増えていくのさ。理論上は、攻撃力の低い短剣でもゴールドドラゴンを倒すことが可能だ。しかも一撃でな」


 俺の話を黙って聞いていた黒川詩音だが。吹き出すように笑った。


「ふふッ! あははは! 馬鹿じゃないの? 確かに、そのとおりだけど。そんなに都合よく6と6のゾロ目が出ると思ってるの? あはははは!」


「それは、やってみないと分からないぜ。じゃあ、ダメージ判定のダイスを振るぞ!」


 笑い続ける黒川詩音の前で、俺はダイスを振った。昔、友だちからもらったお守り代わりのダイスだ。


 ダイスの出目は、6と6。6ゾロだった。俺は、ニヤリと笑う。


「出目は6と6のゾロ目。クリティカルヒットが成立する」


 その時、黒川詩音の顔から笑みが消えた。


「なッ!? たまたまよ……」


「じゃあ、もう一度ダイスを振るぜ!」


 俺は、さらにダイスを振った。


 出目は、6と6のゾロ目だ。


「これで、ダメージは2倍だな。そして、さらにダイスを振る事ができる」


「な、何よッ!? そんな偶然……」


 徐々に青ざめた表情になる黒川詩音。俺は、さらにダイスを振る。


 出目は、やはり6と6のゾロ目。


「黒川。お前、おかしいと思わなかったか? 前回の冒険の時、俺は盗賊の『盗む』のスキルでゴブリンから拳銃を奪った。その時も6と6のゾロ目が出なければ成功しなかった」


「何よッ!? ま、まさか…… あんた。狙って6ゾロを出せるっていうの?」


 驚きの表情を隠せず、わなわなと震える黒川詩音。彼女の前で、俺はさらにダイスを振る。


 出目は、6と6のゾロ目だ。


 俺は、ダイスを手に取って話した。


「このダイスはな。昔、友達からもらったんだ。その頃、俺たちはこのダイスでよく遊んだものさ。TRPGなんて複雑なゲームじゃない。ダイスを振って、どちらが大きい数字を出せるか競うだけの単純な遊びだ」


 話しながら、俺はダイスを振る。言うまでもなく、ダイスの出目は6と6だった。


「俺は、練習したよ。何度も何度もこのダイスを振ってさ。その友達がいなくなってからも。何度も何度も練習した。家でも学校でもな」


 昔を思い出しながらダイスを振る。出目は6と6が続く。


「そ、そんな…… 嘘よ! そんなことできる訳……」


 狼狽し始める黒川詩音。クリティカルヒットのダメージは、すでに5倍まで膨れ上がっていた。


「このダイスを使えば、俺は6と6のゾロ目を自由に出せる。目を瞑っていてもな!」


 それからも、俺は6と6のゾロ目を連続で出し続けた。そして、ダメージは23倍まで雪だるま式に増えていく。


 俺のキャラクター盗賊ショウは、ゴールドドラゴンに短剣を突き刺した。ダメージ23倍のクリティカルヒットだ。


 「ギャアアアアーッ!」という悲鳴をゴールドドラゴンが上げたかどうかは分からない。


 しかし、スナイパーライフルでさえ倒せなかったゴールドドラゴンは、ただの短剣の一撃であっけなく倒れたのだった。


「俺の勝ちだな。黒川。つまり、お前の負けだ!」


 俺は、そう言うと脱いだ服を着始めた。黒川詩音は、しばらく固まっていたが。ハッと気づいたように我に返ると怒声を上げた。


「ダメよッ! こんなのイカサマだわッ! このゲームは無効よッ!」


 怒り狂ったように取り乱す彼女をなだめるように俺は言った。


「いいや。イカサマじゃない。俺は、お前にちゃんと許可をとってこのダイスを使った。それに、それがイカサマだと言うなら、お前はどうだ? レベル2の冒険者相手に、ゴールドドラゴンなんて絶対に勝てないモンスターを登場させてきた。お前のシナリオの方が、よっぽどイカサマみたいなもんだろう?」


「そ、それは……」


 彼女は、言葉を失って黙り込んだ。



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