第11話 リベンジ!
友よ…… 力を貸してくれ……
俺は、2個のダイスを机の上に転がした。
その出目は、6と6! 見事6のゾロ目だった。
「よし! 俺のスキル『盗む』は成功だ! ゴブリンから拳銃を奪い取るぜ! そして、盗賊は『盗む』が成功した場合、そのまま攻撃に移ることができる!」
「な、何ですって!?」
黒川詩音は、驚愕した顔で目を見開いている。その目に、俺は『ウォーリアー&ウィザード』のルールブックを見せつけた。
「ちゃんとこのルールブックに書いてあるぜ! 俺が攻撃するのは、もう1匹のゴブリンだ。そう。まだ拳銃を持ってる方のな!」
盗賊ショウは、ゴブリンから拳銃を奪い取り、さらに別のゴブリンへと攻撃する。もちろん盗み取った拳銃。ベレッタM92Aを使ってだ。
「ふッ! 攻撃は命中だ。ダメージは48点! 銃を持ったゴブリンに48点のダメージだッ!」
「そ、そんな……!?」
唖然とした表情の黒川詩音。彼女は想定していなかったようだ。拳銃を奪われて攻撃されるという事態を。自分がファンタジーの世界に銃を登場させたのに、そのリスクを考えていなかったのだ。
銃撃を受けてゴブリンは倒れる。残るは、目の前にいる銃を盗まれた哀れなゴブリンのみ。素手のゴブリンなど恐くも何ともない。
最後のあがきで、ゴブリンは素手で反撃してくるが。わずかなダメージである。
次のターン。盗賊ショウは、目の前にいるゴブリンも銃で撃ち殺した。これで1階にいるゴブリンは全滅だ。
「そ、そんな…… あたしのゴブリンたちが……」
「ああ。そういえば、もう1匹いたよなあ。2階にスナイパーライフルを持ったゴブリンが」
盗賊ショウは、2階へと上がる階段を見つけるとツカツカと歩いていく。手には奪い取った拳銃を持っている。
2階へ上がるとスナイパーライフルを持ったゴブリンと戦闘になる。しかし、素早さはこちらの方が早い。先手を取るとゴブリンを拳銃で撃ち殺した。スナイパーライフルを持ったゴブリンは、あっけなく倒れる。
こうして、教会にいる全てのゴブリンは倒れた。つまり、ゲームクリアである。
「そんな…… あたしのシナリオが…… まさか……」
呆然とした表情のまま固まっている黒川詩音。俺は、その隙に脱いだ服を素早く着る。服を着ながら黒川詩音に言い放った。
「TRPGに勝ち負けがあるのかは知らないが。敢えて言わせてもらうぜ! 黒川! 俺の勝ちだ!」
そう言うと俺は立ち上がった。もうこれ以上、彼女のゲームにつき合うのはごめんである。
俺は、固まったまま動かない黒川詩音を部屋に残してその場を立ち去った。
「やれやれ。ひどい目にあったぜ……」
マンションの外に出ると大きく息を吸い込む。外の空気が気持ちいい。
一時はどうなることかと思った。危うく全裸にされかけたが。何とかそれは免れることができた。
「でも、ちょっと楽しかったかもな…… いや、そんな訳ないか」
久しぶりに誰かと一緒に遊んだような気がする。だが、すぐに思い直した。あれはゲームと呼べるようなものではない。
黒川詩音が本気でゲームクリエイターを目指しているのかは分からないが。あんな理不尽なクソみたいなシナリオを作っている限り。彼女がその夢を叶えることはないだろう。早く目を覚まして欲しいものだ。
そう思いながら、俺は自分の家へと帰って行った。
月曜日の朝――――
教室へと入る。月曜日というのは憂鬱な気分になる。土曜日にあった出来事などすっかり忘れてしまったかのように。
しかし、ひとりぼっちだった俺の学校生活に少し異変があった。
勉強ができるグループに所属している清楚系美少女。あの白崎麗奈が、俺に話かてくるようになったのだ。
人形のように長くて黒い綺麗な髪をなびかせて。朝から爽やかな表情の白崎麗奈。
「おはよ。灰谷君」
「あ、ああ。お、おはよ!」
俺は、ぎこちない挨拶を返す。月曜の憂鬱な気分などどこかへ吹き飛んでいった。胸の鼓動が高鳴る。
「灰谷君っていつも本を読んでるよね? どんな本を読んでるの?」
俺の顔を覗き込むようにして白崎麗奈は言った。俺は、慌てて返事をする。
「いや、別に…… 普通のラ…… いや文学小説だよ!」
ライトノベルと言いそうになって慌てて修正する。
「へえ。私も文学小説が好きなの! 面白い本があったら教えてよ。じゃあね!」
いい匂いを残して白崎麗奈は去って行った。彼女に話しかけられたひと時、俺は小さな幸福感を感じていた。
だが、すぐに悪寒が走る。何か嫌な視線を感じる。
ハッと振り向くと、こちらをジッと見つめる視線に気がついた。
黒川詩音だ……
黒川詩音は、俺を睨みつけるような目で見ていた。だが、すぐにそっぽを向いて視線を外した。
何なのだろう?
彼女の要求には答えた。一緒にTRPGをやってあげたのだ。もう俺には用がないはずだ。
しかし、昼休みに黒川詩音は1人で俺の元にやって来ると、俺にしか聞こえないように言った。
「次の土曜日。午前10時に、またあたしの家に来なさい! こないだの続きをやるわよ!」
それだけ言って去って行く。
あきらめていない。あの女は、まだあきらめていないのだ……
俺は、戦々恐々として身震いした。




