力
今なんて言ったこいつ?
え、何、これ魔王? 俺の冒険の最終目標の魔王? それが俺に協力しろって言ってるの? は?
意味が分からず混乱していると、それに気づいたのか自称魔王が声をかけてきた。
「まさか断るとは言わないだろうな?」
おいこいつ今の俺を気遣うとかじゃなくて圧かけてきたんだけど!
でも確かにこの圧倒的オーラ(物理)を前にして頼みを断ることなんてできるはずもない。
「い、いや断るもなにも何も状況が呑み込めないんですけど・・・」
「おお、断らないんだな? 協力してくれるんだな!?」
「は、はあ? まあ、僕にできることなら・・・」
「おお、それはよかった!」
そう言うと自称魔王はなんか伸びをして飲み物を飲みだしている。
いや急にリラックスしすぎだろ。
「いやー、そっちから言ってくれてありがとう! 手荒な真似をすることにならなくてよかったー」
いやなんか喋り方もめっちゃ砕けてるしていうかこの世界荒っぽい人が多すぎない?
てかそこまで気抜くならオーラも消してほしいんだけど・・・
「あの、なんか急に砕けた感じみたいなんですけど・・・」
「ああ、さっきのはお前に圧をかけてうなずかせるための偽装だからな。こっちが素だよ」
「いやめっちゃ誘導尋問じゃないですか」
「いやー、ごめんな? でもどうしても自分で言わせる必要があったから・・・」
「さっき言ってた荒っぽいことがどうこうの話ですか?」
「うーん、まあそれもあるんだが・・・まあその辺のことも含めて今からいろいろ説明するから!」
何か初対面の印象に反して結構親しみやすい人なんだな。オーラ以外は。
「すみません、もう圧かける必要がないなら、その体から出てるオーラも消していただけませんか?」
「・・・え?」
「・・・え?」
訪れる無言の時間。
「・・・オーラ、見えるの?」
「え、めっちゃ出てるじゃないですか」
「めっちゃ出てるの!?」
そう言うと自称魔王は動揺した様子で、隣にいる女性に何か耳打ちすると、女性はあらかじめ用意していたらしい鏡のようなものを取り出した。
「ちょっと、その鏡に姿映してみてくれる?」
「は、はい」
そうして鏡に映った俺は、目の前の自称魔王の比にならないほどの凄まじいオーラを放っていた。
「うわ、何これ!? 何なんですかこの鏡!?」
「これは、凄いな・・・見たことないぞこんな逸材・・・」
「え、ちょっと何なんですか? 何が起こってるんです?」
「・・・それも含めて、今から説明するよ」
そう言うとアルカとやらは俺を隣の部屋に案内して、二人きりになると口を開いた。
「お前、こことは別の世界から来たんだろ?」
「はい?」
やばい、絶対にばれるはずのない情報がすでにばれている!?
「ああ、大丈夫だよ。もうわかってるから、答えなくていいよ」
いや何も大丈夫じゃないんだけど。
確かにばれたからどうこうということはないのだが、なんか変なことされるんじゃないだろうかとか嫌な想像が頭に浮かんでくる。
「・・・なんで知ってるんですか?」
「えーっと、別の世界から人が来るなんてことが起こると、結構世界に歪みが生じるんだ。それが確認されたときから人が現れるのを待ってたからな。お前がこの世界に来た瞬間から見てたんだよ」
「はあ、何でそこまでして俺のことを?」
「ん? うーんと、別の世界から来た人は結構特殊な能力とかを持ってる人が多いからな」
「なるほど。でも、それなら俺と一緒に来た方を攫った方がよかったんじゃないですか? 何か周りの人凄い騒いでましたよ?」
「あー、あっちはめっちゃ目立ってたから・・・」
「それはまあ、そうですね・・・」
「で、そんなわけで、君は俺たちの役に立つ能力とか持ってるんじゃないかなーと思って攫わせてもらったわけ」
「いや、別に何もないと思いますけど・・・」
「それは、調べてみればわかること」
そう言うとアルカは巻物みたいな物を取り出した。
中を見たが、何も書かれていない。
するとアルカは針を渡してきて、
「ここに、血を一滴垂らしてみて」
と言った。
またさっきの鏡みたいな道具の類なんだろうか。
取り敢えず言われた通り指に針を刺して血を垂らしてみた。
すると何も書かれていなかった紙に文字が浮かび上がった。
「これは・・・」
「お前の魔法適正、特殊能力、魔力についてのデータだ」
「え、そんな簡単にわかるもの何ですか?」
「うん、うちの部下に優秀な魔道具職人がいてね、これとかさっきの鏡とかみたいな便利な物をいっぱい作ってくれてるんだ」
「はえー・・・。で、それによるとどういう結果が出てるんですか?」
「うん、まあそれぞれ説明するにはそれぞれがどういうものかを説明しないといけないんだけど・・・」
そう前置きすると、アルカは説明を始めた。
「まず、魔法の話ね。大前提としてこの世界には魔法があるんだけど、魔法には7つの種類があって、基本の5つと特殊の2つに分けられるんだ。基本の5つは火、水、地、空、風、特殊の2つは時間、空間って具合だ。で、一般的に魔法の素質を調べるときには水晶型の魔道具を使うんだけど、その時にいろんな色の光が出るから、一般的に色の数で使える魔法の種類が呼称されてるんだ。例えば君なら2色、君のお友達なら4色って感じにね」
なるほど、ギルドで言ってた2色使いってそういうことか。
「・・・え、てことは俺は2種類の魔法が使えるってことですか?」
「そういうこと。これって結構凄いことなんだぞ? 一般的に、この世界で生まれたときの人間は半々くらいの確率で魔法を持ってるか持ってないか決まるんだが、後からでも基本の1種類ならほとんどの人は覚えられるんだ。でも、2種類以上の魔法を使えるかのほとんどは生まれたときの運で決まってるから、それだけですでに凄いことなんだよ」
へー、俺にそんな潜在能力があるとは思えないし、これはヴァレリ氏のおかげかもな。
「で、また魔法の種類の話に戻るんだけど、基本の魔法はさっき言ったように後からでも覚えられるんだが、特殊の2つは後から覚えることができない。つまり魔法の数と同じで、完全に運なんだ」
そう言うと一拍おいてからアルカは切り出した。
「そして、ここからはお前の話。お前が使える2種類の魔法は、時間と空間だ」
「・・・え? それってさっき言ってた特殊の2つじゃ・・・?」
「そう、お前は2つの特殊魔法をどっちも使えるみたいなんだ」
「・・・それってどのくらい珍しいことなんですか?」
「俺が軽く引くレベル。今までそんな奴見たことも聞いたこともない」
すげ、魔法を使えるってだけで魔王を軽く引かせてるぞ俺。
「そんで、次に特殊能力の話。この世界には、魔法とはまた別の特殊能力を持ってる人もいるんだ。これもさっきの魔法と同じで持ってるかは完全に運。生まれた段階で全部決まってるんだ。そして君はそんな特殊能力も持ってるみたいだよ。その名も・・・『創造』」