異世界転移(1)
――異世界転生なんていいものではないだろう。
勇者だの魔法だのと言っているが、そんなものがあろうがなかろうがあんな見知らぬ世界で活躍し英雄になれるわけがないのである。
俺――風峰 陽人は、そんなことを考えながら下校している最中だった。
学校での成績は普通、特別運動ができるわけでもなく、顔がいいわけでもなく、何か特技があるわけでもない・・・。
そんな男が例え異世界転生を果たしたとしても、何かできるとは思えない。
精々一般冒険者として過ごし、名が売れることもなくひっそりと死ぬのがオチだろう。
――などと格好つけて言うものの、異世界には憧れている。
ああ、俺がラノベ主人公のように活躍できれば――などと思ってしまうのも仕方がないことだろう。
そんなどうでもいいことを一人で考えながら帰宅中の、のどかな休日の昼下がり。
さっさと買ってきたゲームをエクストラハードモードクリアまで進めないと・・・
と思ったら何か家のあたりが騒がしいような。しかも、上空に見えているのは・・・黒煙?
え、もしやこれは・・・
予想通り家が燃えて、大騒ぎになっていた。
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「ちょ、どうなってるんですか!?」
俺は慌てて家の前に泊められた消防車の近くにいた隊員と思わしき人に聞いてみた。
「あ!もしかして、ここの息子さん・・・陽人君かい!?」
「は、はい。僕が陽人ですが・・・」
そう答えると、その人はよかった、と呟き、何か連絡をして、話しかけてきた。
「いや、この家が火事になってしまったみたいでね。出火原因は不明で、ここの住人は、その・・・言いづらいんだが、君意外と連絡がつかないんだ・・・」
「・・・は?」
家が燃えて・・・家族全員・・・行方不明?
今日は休日だから、両親も兄も家にいたはずだ。
ということは家族全員・・・
「俺はこれからどうなってしまうんだ・・・」
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ドコダココハ?
確か家が燃えて、家族が全員死んで・・・あれ?
うーん、なんか頭が痛い・・・。
俺が気づいたら居たのは、なんか真っ白い空間。
そうとしか言いようがない。あるのは俺が倒れていた白い台だけ・・・。
「おお、目が覚めたか」
なんて思っていたら、後ろから声がかけられた。
それは、上半身裸で、筋肉質な大男。
しかし、背中から生えている大きな翼によって、普通の人でないことは一目でわかる。
「あの、ここはどこ?あなたは誰?」
「ここは『白の間』。そしてワシは、ヴァレリ――ヴァレリ・モトスだ」
「白の間?」
「白の間ってのは、この世界に来た奴が辿り着く部屋の呼び名だ。まあ、言ってしまえばここはただのカッコいい名前がついただけの何もない部屋だよ」
ちょっと待て、今この人なんて言った。
「この世界に来た奴って・・・?」
俺は、思ったことをそのまま聞いてみた。
「言葉通りさ。お前は、この世界に、地球から来たのさ。お前らが言うところの、異世界ってやつだな」
は?
つまり、俺は・・・
「異世界転移したああああ!?」