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昼休み

 寮食堂で昼食を手早く取った後、琥珀は西棟に向かった。職員室から離れた場所に位置する国語準備室は、休み時間には人気がなく、静かだった。

 周囲に人がいないことを確認してから、琥珀は扉をノックした。どうぞ、と声がしたのとほぼ同時に扉を開ける。身を滑り込ませるなり素早く扉を閉めた。

「早かったですね。昼食はちゃんと食べたんですか?」

「子ども扱いしないでよ」

 両壁は一面の本棚。奥にはパソコンデスク。準備室と呼びつつも事実上は有人の書斎だ。若手教師にあるまじき高待遇はひとえに有人が理事長の息子だからだ。夜光利勝は優秀な一人息子に自分の跡を継がせるべく邁進しているという。

「十五歳は立派な子どもです。この世界では」

 デスクの椅子に腰掛けた有人は、琥珀に隣の椅子をすすめた。 

「弟のくせに」

「前世の話を蒸し返さないでください。この世界では血の繋がりは全くない、他人です」

「年下のくせに」

「今は年上です。そしてあなたを教育する立場です」

 有人の返答は一々正論で、だからこそ腹が立つ。論破された琥珀は渋々すすめられた椅子に腰掛けた。

「転生して性格がだいぶ変わってない? 前はもっと優しかったような気がするんだけど」

「二十五年も生きていれば誰だって変わります。姉さんが変わらなさ過ぎなだけです」

 有人は呆れを隠そうともせずにため息をついた。生徒達の憧れの的『夜光先生』の面影はまるでない。

「それに、僕は少なくとも前世よりは親切なつもりですけど?」

 生まれ変わって他人になろうと年上の教師になろうと、前世は変わらない。

 有人はアルト=クウォークという名の少年で、コルネの弟だった。姉弟なのに姓が違うのは、アルトが養子になったからだ。幼い頃から勉学に秀でていたアルトは、代々文官を輩出しているクウォーク家に引き取られた。周囲の期待通り、いやそれ以上の実力を発揮したアルトは医官の試験に一発合格し、史上最年少の宮廷医官となった。

「まあ、たしかに宮廷に上がってからは疎遠になっていたけど」

 しかしアルトは毎月給金の中から少なくない額を仕送りしてくれた。神殿の下働きだったコルネの給金だけでは病弱な母と二人の生活を支えるのは苦しかったので、とても助かったことは今でも覚えている。

「本当にお人好しですね。呆れてモノも言えません」

「やっぱり冷たい……あの優しいアルトは一体どこへ」

「そんな弟は前世にも異世界にもいません。そんなことより、あの転校生は一体何なんです」

 こっちが聞きたい。

「見覚えのない顔だったね。転生者かな?」

「転生者にしては使命感が強過ぎます。神殺しの大罪人を捜すためにわざわざ死んで生まれ変わる必要はないでしょう。記憶を失うリスクもありますし、同じ世界に転生できる保証もない」

「だよねえ」

 琥珀は腕組みした。転生先は自分では選べない。少なくとも琥珀は、この世界の一般家庭の子に生まれたいと望んだ覚えはなかった。気づいた時、自分は宮野琥珀でコルネ=ナイトレイの記憶もおぼろげながら持っていた。

「おそらく何らかの方法でこちらの世界に転移したのでしょう」

「てんい?」

「世界間を行き来することです。神獣が持つレギア〈恩寵〉の力を使えば不可能ではないと考えます」

「そっか、レギアがあったね」

 何せ神獣を不老不死にして地上最強の生物たらしめる力の源だ。異世界への転移も可能だろう。

「そういえばさ」

 ここに来て琥珀は転校生の宣言で気になった点を思い出した。

「神獣って殺せるの?」

 幸助は『神獣殺し』と明言していた。比喩ではなく、不老不死にして地上最強の生物が殺されたと。

「何を今更」有人は眉を寄せた「あなたが毒殺したんでしょうが」

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