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ナイトレイ

 荒唐無稽な話を聞くと人の思考は停止するらしい。コルネは開いた口が塞がらなかった。

 神獣が死ぬ。

 ナイトレイ、つまりはコルネかアルトによって死ぬ。だからアミィはアルトのことを訊いたのか。合点がいったところで何かが解決するわけでもなかった。

『神獣が、私を?』

「逆だ。お前が、神獣を死に至らしめるとおっしゃられたらしい」

『どうやって』

「俺が訊きたい。お前は、いやお前の弟かもしれんが、神獣をどうやって殺すんだ?」

 冗談のような質問だがハイウェルは大真面目だ。コルネは首を横に振った。そんなの、考えたこともなかった。

「会議ではお前を秘密裏に始末するか幽閉する案も出た。だが、託宣を受けたアミィ自身が猛反対したため全て却下。お前はアニス教徒ではないが、俺やサヘア大司教の元で忠実に職務を全うしている実績もあるからな。よほどのことがなければ抹殺も追放もされない」

 全て当人のコルネを置いて進められている。安心すればいいのか憤ればいいのか不安になればいいのか感謝すればいいのか反応に困る。

「しかし託宣が下された以上、捨て置くことはできない。ひとまずお前を神獣の世話役から外すことにした。〈アニスの微睡〉に近づくのも極力控えろ」

 世話役の職に多少の愛着はあっても固執するほどではない。コルネは素直に従うことにした。が、その前に確認しておかなければならないことがある。

『アルトは?』

 自分は遠ざける。ならば同じナイトレイの姓を持つアルトもそうして然るべきだ。

「アルト=クウォークには、神殿は一切関知しない」

 そんな馬鹿な。養子になったとはいえアルトもナイトレイだ。託宣に関係している。指摘しようとして、コルネは気づいた。

 アルトが養子であることを知っているのは王宮関係者だけだ。至聖神殿の人間で知っているのはコルネを除けば、ハイウェルとアミィだけ。アルトは見落とされているーーハイウェルは、アルトがナイトレイの姓だったことを伏せたのだ。

『何を企んでいる』

 ハイウェルを胸ぐらを掴んだ。空いた片手の指をハイウェルの眼前で動かし、問いかける。

『アルトに何をするつもりだ』

「何もしない」

 ハイウェルは悪びれもなく答えた。

「お前とは違ってアルト=クウォークは宮中の人間だ。我々と対立する王室派でもある。アニスの託宣だとなんだの言っても信じはしないだろう。それに、神殿が目を光らせていると気づかれたら、あぶり出せるものもあぶり出せな、」

 コルネは右足を思いっきり振り下ろした。床が軋んで悲鳴をあげる。ハイウェルは口を閉ざした。

『アルトが神獣に危害を加えようとするまで、手ぐすね引いて待とうってわけか』

 曲がりなりにも四年、ハイウェルの元で働いていた。この男の考えることなどお見通しだ。

 フェリス家を筆頭とした権門勢家は王室派と称し、人との戦に関与しない神獣およびアニス教に対して事あるごとに苦言を呈してきた。国に貢献できないのならば至聖神殿の特権を返上し、アニフィラの自治も辞めるべし、と。そしてアルトが養子となったクウォーク家もまた王室派だ。

 至聖神殿としては少しでも削いでおきたい勢力だ。アルトを罪に問うことができれば、クウォーク家および王室派に責を負わすことができれば。

 つまるところハイウェルは、神獣もアニスの託宣も利用することしか考えていなかったのだ。

『大した信仰心だ』

 ハイウェルはコルネを睥睨した。わずかに残っていた憐憫が消え、冷徹な光が宿る。

「自分と母親を捨てた弟がそんなに大切か」

 コルネは息を呑んだ。喉元を掴まれたような息苦しさを覚える。

「この四年間、一度でも弟からの便りはあったか? 母親が亡くなった時でさえも音信不通。先月は神獣への貢物を届ける際に王宮の医師も同行していたな。アルト=クウォーク医師もいたと俺は記憶しているが、感動の姉弟再会は果たせたのか?」

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