託宣
なんとなく嫌な予感はしていた。この世の終わりと言わんばかりに沈んだ表情のアミィ。いつになくよそよそしい司祭や司教達。おそらく神獣がらみのことだろうがーー今度は一体何だろう。
ハイウェルに呼び止められた時点で、コルネの予感は確信に変わる。人目を憚るようにしてハイウェルの執務室へ。司祭となったハイウェルには広い部屋が与えられていた。奥にどっかりと構える執務机。その手前にある椅子を勧められた。
「神獣の様子はどうだ」
どう、と訊ねられても何も変わらない。アコルの香りはお気に召しているようで、花が咲いている今の季節は毎日のように根元にやってきて昼寝をしている。そばにコルネがいようがお構いなしだ。
『本題に入れば?』
神獣のお目付役はハイウェルだ。コルネはただの下働き。下働きが知っていることくらいは把握している。
「あいにくこれが本題だ。神獣に変わったところはないか?」
コルネは首を横に振った。先日、郊外にオルカ〈黄泉の魔物〉が数体出現したがすぐさま察知した神獣が瞬く間に殲滅した。人嫌いは一向に治る気配がなくむしろ非常時以外は滅多に姿を表さなくなったが、問題はない。
「神獣はお前に懐いているな」
そうだろうか。世話役なので見かける機会は多いが別段慕われてはいない。仮にコルネ以外の誰かが世話役になったとしても神獣は変わらないだろう。たまにコルネに身体をすり寄せたり、腹を見せて寝そべったり、毛づくろいを始めたりもするが、それはコルネが、というよりもアコルの香りを気に入っているからだ。証拠に匂い袋をやると咥えてさっさといなくなってしまう。愛玩にはまるで向かない、気難しく偉大な猫だった。
『神獣に何かあったの?』
「これから何かあるらしい」
それはまたえらく曖昧な。ハイウェルらしからぬ物言いだ。彼がこういう言い方をする時は限られていた。
『託宣?』
至聖神アニスが不定期に下す託宣は、未来を予知したものだ。正確には未来に定められた運命を告げる。故に託宣は絶対とされている。
現在、至聖神殿でアニスの託宣を授かることができるのはアミィだけだ。アミィはアニエス〈聖別されたもの〉だ。それも希有な異能を持つアニエスだった。
「ご明察」
ハイウェルは深いため息をついた。呆れているのだ。
「端的に言えば、神獣はお前に殺されるらしい」
投げやりに告げられた言葉の意味を理解するのに数拍を要した。殺される。誰が、誰に。
『もう一度』
「偉大なるアニス神はアミィに託宣を下された。当代の神獣はナイトレイによって死に至ると」