裁き
コルネが正式に神獣の世話役に任命されたのは、会議から二日後のことだった。小さいが個人部屋も与えられて、月々の給金も全額母に送金されることになった。ひとまずは安心だ。
何よりも嬉しいのは月に一度、神獣への貢物として王宮から使者が訪れることだ。貢物の受け取りには世話役も立ち会う。宮廷で仕えているアルトの様子を伺えるかもしれない。
さっそくコルネは弟と母にそれぞれ手紙をしたためた。封をした手紙を出そうと部屋を出たところでライナス司教と遭遇する。バートレット大司祭派の司教だ。無礼だと因縁をつけられてはたまらない。コルネはことさら丁寧に黙礼した。
「話せないのだったな」
ライナス司教は鼻を鳴らした。
「すべては至聖神アニスの御心だ。お前の声を神が奪われたのも必ず意味がある」
その点についてはコルネも同感だ。おかげで侮辱されても余計なことを言わずに済む。
「母の罪かそれとも父の罪か、いずれにせよお前は穢れた罪の子だ。神はお前を罰することで赦そうとされている。謹んで罰を受けるといい」
それは嘘だ。アニス神は公平に人間を裁いてはくれない。少なくとも、この世界では。
もしも神が悪い者を罰し、良い者を救ってくださるというのなら、九人もの罪のない人が殺されるのを黙って見ているはずがない。
「何か言いたいことでもあるのか」
「お許しいただけるのでしたら一つだけ」
許可を得たので低い声が苦言を呈した。
「別のものに罪を着せるのなら、相手のことをよく観察してからにしたほうがよろしいかと」
コルネではなく、ハイウェルが。一部始終を見ていたのだろう。反射的に振り向いたライナス司教に、ハイウェルは「失礼」とおざなりに断ってから手を伸ばした。
「な、何を」
我に返って抵抗するも遅い。ハイウェルはライナス司教の懐から短剣を取り出した。
「これが凶器ですか」
特徴的な短剣だった。刃の部分が波打っていて炎を思わせる。この刃で切れば、肉を引き裂き傷口が抉れたようになるだろう。さも獣に襲われたように見せかけられるーーそれがただの獣だったのなら。
「最初におかしいと思ったのは遺体の傷口です」
取り上げた短剣をハイウェルは手で弄んだ。
「最初の犠牲者は下働きの者でした。目撃した修道士の話によれば、供物を運んだ際、神獣が突如飛びかかり爪で首を一閃。私も確認しましたが素人目にも綺麗な傷口でした。まるで鋭い刃物で切られたかのよう……おそらく当の本人は自分が殺されたことに気づく間もなく死んだでしょう」
一撃で熊を倒した神獣だ。人間、それも軍人でもない聖職者なぞ赤子同然だ。爪の一閃で事足りる。
「ところが、三人目の被害者辺りから傷口が非常に醜くなりました。酷い時には顔も原形を留めていないほどに潰されていました。執拗に滅多刺しにしたのでしょうね、神獣に殺されたと見せかけるために」
ライナス司教の顔から血の気がひいた。