観察終了
ひとしきり神獣の日常生活を把握したところで、コルネは一度〈アニスの微睡〉を出ていった。水浴びはこまめにしたが一ヶ月近く風呂に入っていなかったので相当酷い臭いをしている。贅沢にも石鹸を使って身体を洗い、髪も洗い、ついでに服も洗い、支給された下働きのための灰色の服を着た。
報告と相談をしようとハイウェルを探していたら、祈祷を終えた一団に遭遇した。筆頭にはバートレット大司祭がいるので改革派だろう。下働きらしくコルネは廊下の端に控えて道を譲ったーーつもりだったのだが、祭服を身に纏ったアミィがこちらに気づく。
「無事だったのね!」
人目を憚らずアミィが抱きついてきたので、コルネは慌てて隠れる羽目になった。
「あ、ごめんなさい」
『侍祭になったの?』
アミィの服は以前よりも少し豪奢になっていた。
「つい一昨日ね。神獣には会えた?」
アミィは自身の出世よりも神獣に興味関心があるようだった。コルネはかいつまんで神獣に会えたことと思ったよりも大人しい様子を説明した。
『ハイウェルはどこ?』
「この時間なら、たぶん書架にいるんじゃないかしら」
研究好きが功を奏して整理を命じられているという。果たしてハイウェルは書架にいた。コルネを見るなり目を見張った。とはいえ、コルネが無事であることに驚いているわけではない。ハイウェルとは三日に一度は連絡を取っていた。リアの花や食糧、服などの必要な物資の調達、気になった点の調査もお願いしていたのだ。
「そのまま永住するのかと」
神獣と一緒にされて光栄に思えばいいのか無礼だと憤ればいいのかコルネは迷い、結果、流してやることにした。
『まだあった?』
「なんとかな。墓に入れる前でよかった」
ハイウェルは手にしていた書物を棚に戻した。
「それで、神獣は手懐けられたのか」
コルネは首を横に振った。元より期待していなかったのだろう。ハイウェルに落ち込むそぶりはなかった。
そばに寄っても警戒されなくなった。しかし餌もとい供物は食べようとしない。見向きもしない。コルネの手から神獣が餌を食べるのは夢のまた夢。
「被害者達も洗い直した。お前の言う通りだった。資料は俺の部屋に揃えてあるから確認するといい。あと、家畜の線だが麓の町と山の向こうもひと通り調べさせたが、神獣に襲われたという事例は一つもなかった」
『結論は?』
「お前と同じだ」ハイウェルはこともなげに付け足した「犯人の目星もついている」