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ゆびきり

 口を噤んだ琥珀にこれ以上の尋問は無意味だと判断したのだろう。ちょうど下校のチャイムが鳴ったこともあり、田中は追及をやめた。

「続きは明日だ」

 決定事項のように告げる。高圧的な性格は転生しても変わらないらしい。抗議しても聞き入れてくれなさそうだった。

「そんな悠長で大丈夫でしょうか」

「今週中は、あいつらは動かない」

 田中は断言した。

「レギア〈恩寵〉の力をもってしても転移ができるのは半月に一度が限度。殺すにせよ、連れ戻すにせよ、本格的に動くのは帰還の直前だ」

 なるほど。頷きかけて琥珀はふと気になった。

「あいつら?」

「さっき追い詰められていただろうが」

「あいつ『ら』」

 複数形。佐藤幸助一人ではないのか。

「異世界にいきなり一人だけ放り込んで、あんな派手に活動させる奴があるか。陰で支援する者がいるはずだ」

 琥珀は「あ」と声を漏らした。佐藤幸助は琥珀が一人になるタイミングを見計らって声をかけてきた。最初から琥珀がコルネだと特定していたのだ。朝の自己紹介のわずかな時間で自分に気づくとは考えにくい。

「『支援者』がその佐藤とやらに情報を渡したんだろう。転移か転生かは知らんが少なくとも、連中の仲間はもう一人いる」

 宮野琥珀すなわちコルネ=ナイトレイとバレている。ということは自分と接近している夜光有人の存在に追手が気つくのも時間の問題だ。

(……マズい)

 有人を巻き込んでしまう。しばらくは彼の言う通り接触は控えよう。今さら遅いかもしれないが。

 琥珀が方針を固めている間に田中は二人分の湯飲みをシンクに運んだ。手伝いを申し出る暇もなくさっさと洗ってしまう。

「ご馳走様でした」

「待て」

 呼び止められる。お茶代でも請求されるのかと思いきや、田中は送ると申し出てきた。意外に心配りのできる用務員だった。が、やはり厚意に甘えることはできない。自分に関われば、田中もまた転生者だと追手に気づかれる可能性が高くなる。

(まあ、転校生を片手で投げ飛ばした時点でただの用務員だとは思われなくなっただろうけど)

 極力巻き込みたくない。これは自分がカタをつけなくてはならないことなのだ。

「寮は近いですし、まだ六時ですから」

 言外に大丈夫だと告げて、琥珀はお暇しようとした。

「では、また明日」

「琥珀」

 右の手を取られる。何をされるのかと身構える琥珀の小指に、田中は自分のそれを絡めた。

「明日の放課後。約束だぞ」

 ゆびきり。子供じみた仕草を、まるで大切な儀式であるかのように丁寧に執り行う。

 琥珀は息をのんだ。胸を緩く掴まれたような感覚。苦しくて、どこか懐かしくて、優しい。遠い異世界の故郷、アコルの花の香りがした。

 ぎこちなくも頷いて、琥珀は用務室を出て行った。初めて名前を呼ばれたことに気がついたのは、寮の部屋に戻った時だった。

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