決意
下山した頃には日が昇っていた。
アミィの『運命』の日は無事に終わった。兄含む司祭達にこってりとしぼられたようだが本人はどこ吹く風である。婚姻の話は消えてはいないが、明白に嫌だと意思を示した修道女を無理やり嫁にするのも外聞が悪い。しばらくは停滞するだろう。
懸念されていた神獣も至聖神殿に戻ったとの連絡がきた。ハイウェルの読み通りだ。
コルネは無罪放免。ハイウェルからはアミィを助けた件で丁重な礼とおそらく口止め料も含まれているであろう報奨金を受け取った。
目的を済ませた一行は至聖神殿にすぐさま戻るとのことだった。準備をしている間にまたしても抜け出してきたアミィがコルネの家の扉を叩いた。
「ちゃんとお礼が言いたくて」
『また叱られるよ』
と指摘したものの、好意を向けられて悪い気はしない。コルネはアミィを招き入れた。
「ねえ、私と同志になって」
友人ではなく同志。アミィは初めて会った時のように目を輝かせて語った。大聖女になってみせる。至聖神殿の頂点に立つと。
「正直に言うとね、結婚も仕方ないと思っていたの。いくら信仰心があっても、アニス様の御声が聞こえたとしても、私は兄とは違って女だから。そうすることでしか神殿には貢献できないから。ちょっと困らせたら、すぐ帰るつもりだったの」
しかしアミィはコルネと出逢った。男からの庇護の外で生きるコルネの母を知った。自分の力で生きることを知った。
「私ね、自分の力で生きたいの。誰かにすがって生きるなんてまっぴら。アニス教徒のくせにこんな考えはおかしいのかしら?」
コルネは首を横に振った。変わった考え方だが、おかしいとは思わない。
「きっとアニス様も私に『戦え』とおっしゃったんだと思うわ。周囲に流されないで自分の意思で動けと」
結局、アミィは『運命』には出逢えなかった。至聖神アニスからさらなる啓示はもらえなかった。
領主との婚姻話も白紙になったわけではない。司祭達の小言は減らない。アミィを利用することしか考えない司教達が考えを改めることもない。至聖神殿に戻っても変わらない日々が待っている。それでもアミィの顔は晴れやかだった。
「戦ってみるわ。だって私の生き方だもの」
生まれも歳も容姿も違う少女に、コルネは母と同じ意思の強さを見出した。アミィは改めてコルネに同志になってほしいと頼んだ。同じ志を胸に抱いて生きる友人を求めた。
「私、あなたが味方ならなんでも出来そうな気がするの」