表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/41

stage7.少年



「……何だ」


 響咲久遠(きょうさくくおん)は何故かその空気に違和感を覚えながら、静かに声をかける。

 すると少年は、顔を俯いたまま目だけを久遠に向けながら、おそるおそる彼に両手でビニール袋を差し

出した。


「……?」


 久遠は無言でその袋を受け取る。

 すると少年はそのまま素早く踵を返すと物凄い勢いで、階段を駆け下りて行った。


 その少年を妙に思いながらも、久遠はビニール袋の中身を確認すると、少女が身につけるようなアクセサリーと片方の靴と上着が入っていた。

 もしやと思い、久遠は慌ててさっきの少年を追いかけて寮の外まで出たが、もう既にどこにもいなかった。




 それから約二ヶ月の時間が経過した。


 結局あの時の少年から手渡された遺留品らしき物は、早川麻衣未(はやかわまいみ)の物だった。

 兄の早川友樹(はやかわともき)は、最愛の妹が行方不明になってから勉強どころではなくなり、結局大学を辞めてしまった。


 あの後しばらく警察などで騒がしかったが、今ではすっかり周囲はいつもの日常を取り戻している。

 それでも久遠にとって、この二ヶ月はとても長く感じられた。


 麻衣未は未だに行方が知れず、初めは連絡を取り合っていた友樹とも、今ではすっかり途絶えている。

 友樹は自分を責めながら、今でも妹を探して回っているらしい。


 久遠の方は、親しくしていた友人との付き合いがなくなって、再び何もかも忘れるかのように勉学に打ち込んでいた。

 一人の時間が多くなって、プライベートではどことなくワインの量も増えた。


 友樹がいなくなってからは、大学でやたらと教授の滝沢征二(たきざわせいじ)が接してくるようになったが、内心それが煩わしかった。


 その間、滝沢本人から携帯番号のメモまで手渡されるほどだった。


 気が付くと遠く滝沢が自分を見つめているようで、気になって目を向けると目が合うことも多く、多少の気味悪さを覚えて滝沢を避け始めるようにもなっていた。


 そんなある日の夜、寮の自分の部屋でワインを飲みながら、窓の外を眺めている時だ。

 街灯が照らす門から、よろめきながら歩いてくる人影に気付いた。

 やがてその人影はそのまま植え込みに進むや否や、その中に倒れこんでしまった。


「……」


 久遠はしばらくただ無言で、その様子を見つめていた。

 医学を学ぶ身でありながらも、彼はいちいちその現場に行ってまで人助けする気はなかった。


 自分を訪ねて来る者以外は関係のないことだ。


 久遠はそう思いながら窓に背を向けたが、暗闇の中での人影なのでちゃんと確認は出来なかったとは言え、思わず気になってしまう。


「……もしや早川の妹……!?」


 久遠は思い出したように呟くと、ワイングラスをガラステーブルに置いて、急ぎ植え込みへと向かった。


 久遠の膝ほどの高さはある植え込みに着くと、ゆっくりとその場に倒れこんでいる者の側にしゃがみこむ。

 パーカーのフードを被っていたので、それをそっと脱がして顔を確認する。


 ……違う。早川の妹では……いや、こいつどこかで……。

 ――そうか。こいつはあの時俺に袋を手渡したガキ……!!


「おいボウズ! 起きろ! 貴様に聞きたいことがある!」


 しかし少年はぐったりと横たわったままだ。


 こいつなら早川の妹の行方を知っているはずだ。

 今も必死に探している早川の為に、こいつから少しでも情報を聞き出してやる。


 久遠はその少年を肩に担ぎ上げた。


 ……やけに軽いな……今時のガキってのはこんなに軽いものなのか?


 などと思いながら久遠は、少年を自分の部屋へと連れ帰った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ