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stage35.傷心



 これまで旅館に泊まってきたが、滝沢有夢留(たきざわあむる)は決して温泉に入ろうとはしなかった。

 なので今度はリゾートホテルに宿泊した。

 浴室からバスローブ姿に頭にはバスタオルをかけた姿で、有夢留が出てきた。


「あー、いいお風呂だったー!」


「そうか。おかげで少しは傷も癒えたろう」


「え?」


「いや……以前お前の両手を治療してやったことがあったが、その時パーカーの胸元からチラリと傷跡が見えたんでな」


「……」


 これに表情を消して有夢留は無言になる。


「安心しろ。お前も気にするだろうから、別に追求はしない」


 ベッドの上で上半身を起こして背もたれ、足を伸ばした姿勢で身を委ねていた響咲久遠(きょうさくくおん)は、そう静かに言った。


「……見たい?」


「見る気などない」


 ベッド脇に立つ有夢留の言葉に、久遠は彼の方に顔を向けることなく、目を伏せた。


「いいよ。見ても」


「断る」


 有夢留の催促に、久遠はきっぱり言い放つ。

 しかし有夢留は更に言葉を続けた。


「見てほしいんだ久遠に。僕が受けた大人達からの仕打ちを」


「……どうしてもか」


「……」


 有夢留はそっとバスローブを脱ぐと、静かに足元に落とした。

 そしてゆっくりとその場で両手を広げ、回転して見せる。

 久遠は、それに目を見張った。

 体中に刻まれた傷跡。

 背中の一部は皮膚がつっぱっている。


「これは……火傷か?」


 久遠はベッドから身を乗り出すと、有夢留の背中を指先で触れる。


「それは僕が12歳の時。一番最近の傷はこの胸にあるクロスの傷だよ」


 有夢留は正面を向くと、左胸にある傷跡に指を当てる。


「それは心臓の上じゃないか」


 久遠の表情が更に険しくなる。


「うん……心臓を抉り取られそうになった。でも丁度その時、他で捕まった家出少女が連れ込まれてきて……その子のおかげでと言ったら悪いけど、何とか僕は命拾いしたんだ」


 有夢留は言いながら足元に落としたバスローブを拾い上げると、ゆっくりと着込む。


「だけどその子が代わりに犯され心臓を抉り取られてたけど……その時僕は良かったって安心したんだ。目の前で人とは思えないような物凄い絶叫を上げているその子を見ながら、ホッとしてた……。こんなに苦しくて辛い思いを繰り返しても、僕は死にたくないって思ったんだ。死んだ方がよっぽど楽だろうに、なぜか死にたくないって……!!」


 体を振るわせ始める有夢留へ、久遠は珍しく声を大にして怒鳴った。


「当たり前だろうが! お前は生きているんだから!」


 ――生きているんだから――


 これに有夢留はポロポロと大粒の涙を零した。


「お願い久遠……! 今だけでいいからずっと僕を離さないで……!!」


 有夢留は言いながら、久遠の胸の中へと飛び込んできた。


「アム……!?」


「ただ抱きしめてくれるだけでいい! お願い! それ以上は何も求めないから……!!」


「……アム……」


 久遠はそんな有夢留を、グッと力をこめて抱きしめた……。




 ――「ねぇ久遠……久遠は夢とかってある……?」


「夢……? フン、そんなもの、とうに捨てた」


「そっか……どうして?」


 有夢留はベッドの上で、久遠に背後から抱きしめられながら、二人一緒に足を伸ばした姿勢で訊ねた。


「それは……」


「……そういえば久遠って、自分の事は話してくれないよね。言いたくないなら別にいいけど」


 これに数秒間無言だった久遠は、ゆっくりと口を開いた。


「……俺の夢は……母に愛されることだった」


 言うと、ふと短く息を吐いた。


「俺も日本人の父を持つハーフなんだが、両親揃って子供嫌いでな。父は俺が生まれた時に母と俺を捨てた。そのせいもあって更に母は俺を嫌った。母は医者の男を好んで愛する女だった。だから俺も医者になれば愛してもらえると思ったんだ。だが結局、母にとって俺は目障りな子供でしかなかった。そんな母に絶望して……二年前に母を精神病院に放り込んで捨てた……」


「そうなんだ……じゃあ僕と久遠は少し似てるね」


 有夢留が言った時、首筋に何らかの雫が零れてきた。


「久遠……?」


 有夢留は背後の久遠を振り返る。

 そこには、涙をポロポロ零す、久遠の姿があった。




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