stage18.底意
響咲久遠はスッと目を閉じる。
きっかけは早川友樹の妹の行方不明から始まった。
早川を救う為にも妹を助ける一種の手段として、偶然にもその犯人のリーダーが大学教授で、しかもその真の狙いがこの俺自身だと知った上で、敵の本陣に乗り込むことになろうとはな。
向こうにしてみれば、まさに飛んで火に入る、だ。
己の命を賭けてまで、他人の為に行動するとは俺らしくない……。
同時に、脳裏を滝沢有夢留の顔と、幼い頃の自分の姿が過ぎった。
それを消し去る様にブルッと頭を振ると、目を開きグッと宙を睨む。
「俺もとんだ騒ぎに巻き込まれたものだ」
そう小さく洩らすとすぐさま、思考を切り替える様にガシャリと力強く電話BOXのドアを開けてから、脇目も振らずに自分の寮へと歩き去った。
約束の時間になり、大学へと向かうと校庭の方から声がした。
「響咲!」
見ると既に滝沢征二が木立の側のベンチから立ち上がり、こちらに手を上げていた。
そしてベンチから久遠の元へとやって来た彼に、久遠は口を開く。
「おや。こんな所でもうお待ちくださったのですか」
「いや、気が早いと思われると恥ずかしいのだが、どうにも性格上誰かと待ち合わせたりすると、落ち着かない方でね。相手より先に分かりやすい場所で、待っておくタイプなんだよ。それじゃあ、行こうか」
「何だか申し訳ないですね。今日突然お邪魔する約束をしてしまって。材料を買ってきたのですが、料理を作られる教授の奥さんに会った時には、ご面倒をおかけしてしまうことを謝罪させてください」
久遠は片手に下げていた買い物袋を軽く掲げて見せてから、言った。
するとふと、滝沢の顔に影が差す。
「……あいにく……妻には逃げられてね。家で待っているのは息子一人だけなんだ」
それが有夢留か。
久遠は密かに思いながら、滝沢と二人、歩き出した。
徒歩、電車含めて片道約40分の所に、滝沢の住居はあった。
少し古めかしい年季の入った、コンクリ造りの二階建てのビル。
嘗ては子会社が入っていた感じの建物を思わせる。
「まさかこの一つの建物全てが教授の……?」
「はは……もっと立派な一戸建てのイメージをしてたかね? 15年ぐらい前に生活の中にもラボラトリーが欲しいと思っていて、丁度倒産した会社がこの建物を売りに出していたから、購入したんだ。地下室もあって今では私のお気に入りの住居だ。まぁ外見は悪いが中に入ればとりあえずは、ごく普通の住まいになっているとは思うがね」
そう言いながら久遠を中へと促す。
促されながら改めてザッと周囲を確認すると、人通りの一番多い表の大通りから少し入った路地裏とはいえ、それでも交通量も普通で、マンションや店などもある分人通りも特別少なくない。
ただ、このビルの両脇の建物がブティック店と化粧品店、倉庫ビル、大手旅行代理店の出張事務所があるが、しかし問題は夜にもなればそのどれもが閉められて極端に人通りがなくなることが、予測できることだった。




