娘を思う母と婿
大伴坂上郎女の橘の歌一首
橘を やどに植ゑ生ほし 立ちて居て 後に悔ゆとも 験あらめやも
(巻3-410)
和せし一首
我妹子が やどの橘 いと近く 植ゑてしゆゑに 成らずは止まじ
(巻3-411)
橘の木を家の庭に植えて、ずっと育ててきました。
立ったり座ったり心配して育ててきたのです。
その結果が、誰かに取られるような後悔をして、何の甲斐があったのでしょうか。
あなたの庭の橘が、私の見えるすぐ近くに植えてあったのです。
実らせないわけには、いかないのです。
この橘は、大伴坂上郎女の大切な娘のこと。
生まれてから、心を尽くして育ててきて、その結果、他人に取られてしまう。
少し戯れの気持ちなのだろうか。
それに和す人は、作者名はないものの、大伴駿河麻呂はと推定される。
娘さんの成長を近くで、ずっと見ていました。
実らせない(結婚させない)わけにはいきませんよ、これは「結婚の決意」を秘めた、本気なのだと思う。
いずれにせよ、現代に生きる私たちにも、その心情がよくわかる二首と思う。