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笠女郎の大伴宿祢家持に贈りし歌(2)
陸奥の 真野の草原 遠けれど 面影にして 見ゆといふものを
(巻3-396)
陸奥の真野の草原でさえ、遠くても面影に見えるというのに。
陸奥の真野の草原は、遠いものの象徴だった。
その遠い陸奥の真野の草原でさえ、面影で見えるのに、あなたの面影が全く見えない。
それは、あなたの気持ちが、私にないからなのです。
笠女郎は、とにかく大伴家持が好きで仕方がなかった。
それなのに、全く姿を見せてくれない。
陸奥の真野の草原の話まで持ち出して、訴えかけている。
そこよりも、あなたは近くにいるのにと。
成就しない恋愛は、時として、ありえないほどの比較を持ち出すようだ。