笠女郎の大伴宿祢家持に贈りし歌(1)
笠女郎の大伴宿祢家持に贈りし歌
託馬野に 生ふる紫草 衣に染め いまだ着ずして 色に出にけり
(巻3-395)
託馬野に生えている紫草で衣を染めたのですが、まだ着てもいないのに、色に出て、人に知られてしまいました。
万葉集の中で、万葉集の編者、大伴家持の名前が出る最初の歌。
託馬野は、紫草の産地になるだろうけれど、所在は確定されていない。
滋賀県米原市朝妻筑摩の野とも言われている。
笠女郎は、万葉集を代表する女性歌人の一人。
出自、伝記も未詳ながら、大伴家持と関係があったことは、間違いがない。
その関係があった時期は、大伴家持が後に妻とする坂上大嬢と交際を始めた時期と相前後していることから、恋敵やら三角関係も推定できる。
確かに、ストレートにすんなり結び付くよりは、嫉妬や三角関係があったほうが、恋は燃え上がる。
「人に知られてしまった」の「人」は、恋敵の坂上大嬢だったかもしれない。
大伴家持が、自分の名前が出て来る最初の歌に、これを選んだのは、何か思惑があったのだろうか。
実は、笠女郎への想いが、消えてはいなかったのか。
その想いから、最初に載せたかったのではないだろうか。




