山辺赤人春日野を詠む
山部宿祢赤人の、春日野に登りて作りし歌一首
春日を 春日の山の 高座の 三笠の山に
朝去らず 雲居たなびき かほ鳥の 間なくしば鳴く
雲居なす 心いさよひ その鳥の 片恋のみに
昼はも 日のことごと 夜はも 夜のことごと
立ちて居て 思ひそ我がする 逢わぬ児ゆゑに
(巻3-372)
※春日を:春日野にかかる枕詞。※高座の:三笠の山にかかる枕詞。
※かほ鳥:春に鳴く鳥、カッコウとする説もあるけれど、確定されていない。
春日野の三笠山は、毎朝、雲がたなびく。
かお鳥は、鳴き続ける。
その鳥のように、心は揺れ動き、
その鳥のように、片思いばかりをして、
昼は一日中、夜も夜通し、
立っても座っても、私はもの思いばかりをしている。
逢ってくれない娘のために。
春日の野の周辺での宴会の席で詠まれた恋を主題とした宴席歌と思われている。
片思いで、居ても立っても居られない。
その気持ちを、毎朝三笠山にたなびき消えない雲と、鳴き続ける鳥(カッコウ?)に託して歌っている。
雲にしろ、鳥にしろ、「そんな気持ちは私の知ったことではない」と笑っているかもしれないけれど、春日野にいる歌詠みとしては、託すには最適の対象
「逢わぬ児ゆゑに」片思い、男女の恋の永遠のテーマだと思う。




