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飫宇の海の
出雲守門部王の京を思ひし歌一首
飫宇の海の 河原の千鳥 汝が鳴けば 我が佐保川の 思ほゆらくに
(巻3-371)
飫宇の海に注ぐ意宇川の河原の千鳥。
お前が鳴くと、私の故郷の佐保川を思い出してしまう。
※飫宇の海:島根県の宍道湖の横の中海。
河原は、その飫宇の海に注ぐ意宇川の河原。
出雲守門部王が、故郷奈良佐保川を懐かしんだ歌。
古来、鳥は死者の魂の宿るもの、冥界との往復が可能なものと信じられていた。
鳥の鳴き声に、故郷を思い出すなど、現代の生活では考えられないけれど、羽を持ち遠距離を移動する鳥に、自分の故郷への想いを伝えて欲しくなったのだろうか。
それとも、鳥の鳴き声は、故郷で待つ妻の言葉を伝えているのだろうか。
尚、四句目で、地名に「我が」を関するのは、万葉集に唯一の例。
これもまた、不思議な面白さを感じる。




