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笠朝臣金村の塩津山にして作りし歌(2)
塩津山 打ち越え行けば 我が乗れる 馬ぞつまづく 家恋ふらしも
(巻3-365)
塩津山を越えて進んで行くと、私の乗った馬がつまづいた。
家で待つ人が、私を心配して恋いているようだ。
家で待つ妻や家人は、旅先の夫の無事を願い、ひたすらに祈りをささげた。
妻が夫の衣の紐を結ぶことは、紐の結び目に魂を結びこめることになり、無事安全帰還の呪いとする。
また、妻の肌着を身につけることもあったようだ。
そんな妻の想いを身体に括り付けて旅路を行くけれど、途中で馬が躓いてしまった。
そうなると、家で待つ妻が心配して、自分を恋いて、「もっと用心しなさい、そして無事に、できれば早く帰ってきてください」との想いが、馬に伝わったのだと思う。
官道や駅制が整いはじめた時代であり、まだまだ旅は常に危険に満ちていた。
馬が躓いただけでも、妻が家人が自分を心配していると思う。
実は、自分が家に帰りたいと思った、馬もそう思っているかもしれない。
でも、自分は、ますらおだから、そうは詠まないけれどということなのだろうか。