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世の中を
沙弥満誓の歌 一首
世の中を 何に譬へむ 朝開き 漕ぎ去にし 船の跡なきごとし
(巻3-301)
人の世を何に譬えようか
朝に港を出て 漕ぎさって行った船の 波の跡が残っていないようなものだ。
人の世は無常であり、残り続けるものなど何もない。
有名な無常歌であるけれど、大伴旅人の酒誉め歌の直後に乗せられていることには、編者の意図があるかもしれない。
酒に酔い過ぎた大伴旅人氏を諌めたのか、慰めたのか。
ただ、そのような背景がなくとも、無常の表現としては実にわかりやすい。
詠んだ当時から、人気を集めたというのも理解できる。
※沙弥満誓:笠麿。朝廷に仕える笠氏出身の朝臣から、元明天皇の病の際に出家し沙弥満誓となった。
その後、筑紫観音寺別当として大宰府に赴任し、後に大宰師として赴任してきた大伴旅人らとともに筑紫歌壇と呼ばれることになる独自の歌風を形成した。




