6/1385
大伴の御津の浜なる忘れ貝
大伴の 御津の浜なる 忘れ貝 家なる妹を 忘れて思へや
身人部王 (巻1-68)
大伴の御津の浜にある忘れ貝 その名前のように 家で待つ妻を思い忘れることなどあるのだろうか。
これは旅に出ている夫の、家に残る妻への思いを詠んだ歌。
旅の寂しさから、詠んだのだろうか。
※大伴の:御津の浜の枕詞
「忘れ貝」は、二枚貝の片割れだけが、浜辺に残っている状態。
つまり、相手から、忘れられ、捨てられ、残っている状態。
「忘れ貝」を拾って、恋そのものを、忘れたいと歌う事もあるけれど、この歌は逆に忘れないと歌う。
旅先にあって、浜辺で片割れの貝を見たのだと思う。
それを不吉に思ったのか。
途端に、妻が恋しくなってしまったのかもしれない。
片割れにはしたくないし、なりたくもない。
だから、忘れ貝を懸命に否定する。
美しい浜辺の中、忘れ貝を拾い、妻を想い、たたずむ一人の男。
絵のような、情感あふれる姿が見えてくる。