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大宝元年冬十月、太政入道と大行天皇紀伊国行幸時の歌(3)
藤白の 御坂を超ゆと 白たへの 我が衣手は 濡れにけるかも
(巻9-1675)
藤白の御坂を超えようとして、私の着物の袖が、すっかり濡れてしまった。
雫が滴り落ちる山道を歩く旅行者の自然な歌ではない。
この御坂は、謀反の罪を問われた有馬皇子が絞殺された場所。
約40年前(斉明四年:658)の悲惨な事件を思い出さずに、通り過ぎることは不可能で、その鎮魂の意味もあると思う。
また、この歌は斉明天皇の紀伊国行幸時の歌
「朝霧に 濡れにし衣 干さずして ひとりか君が 山路超ゆらむ」を意識して詠まれたとも言われている。




