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大伴坂上郎女の跡見の田庄にして作りし歌二首
大伴坂上郎女の跡見の田庄にして作りし歌二首
妹が目を はつみの崎の 秋萩は この月ごろは 散りこすなゆめ
(巻8-1560)
※妹が目:はつみの枕詞。愛しい人の目を見る意味で掛かる。
※はつみの崎:未詳。
吉隠の 猪養の山に 伏す鹿の 妻呼ぶ声を 聞くがともしさ
(巻8-1561)
※吉隠の猪養の山:奈良県桜井市吉隠に東北の山。当時は墓地。
はつみの崎に咲いている萩の花は、せめてこの月の間は、決して散らないで欲しいのです。
吉隠の猪養の山に住む鹿が、妻を呼ぶ声を聞くと、なんとも心が引き付けられてしまいます。
万葉時代の貴族は、都に邸宅を持ち、田舎には農園を持っていた。
この二首は、坂上郎女が、農作業のために、田舎に来ていた時の歌になる。
田舎ならではの、広い空間があって、目にする萩や、妻を求めて鳴く鹿のかん高い声を聞き、都とは違う風情を感じたのだと思う。




