ほととぎす なかる国にも 行きてしか
弓削皇子の御歌一首
ほととぎす なかる国にも 行きてしか その鳴く声を 聞けば苦しも
(巻8-1467)
ホトトギスのいない国に行ってしまいたい。
その鳴く声を聞くと、苦しくてたまらない。
ホトトギスは、「いにしへに恋ふる」、追想を促す鳥とされていた。
しかし過去へ戻ることは不可能。
それゆえにその声を聞くと「苦し」と詠んだと思われる。
(参考)
吉野宮に幸したまひし時に、弓削皇子の額田王へ贈り与へし
古に 恋ふる鳥かも ゆづるはの 御井の上より 嘆き渡り行く
(巻2-111)
額田王の和し奉り歌一首 倭の今日より進り入れたり
古に 恋ふらむ鳥は ほととぎす けだしや鳴きし 我が思へるごと
(巻2-112)
(持統天皇)の吉野宮に行幸なされた時に、弓削皇子が額田王に贈り与えた歌。
天武帝がおられた昔のことを恋慕う鳥なのだと思います。ユズリハの樹のある御井の上を通って、鳴きながら飛んでいくのです。
額田王の返歌。倭の京(明日香浄御原)から奉られた。
その昔を恋い慕うような鳥はホトトギス。私が恋い慕うように、ホトトギスがおそらく鳴いたのでしょう。




