門部王の、東の市の樹を詠みて作りし歌
門部王の、東の市の樹を詠みて作りし歌
東の 市の植木の 木垂るまで 逢はず久しみ うべ恋ひにけり
(巻3-310)
東の市に植えた樹が茂り枝が垂れるまで、ずっと逢うことができなかった。
あなたのことを恋しく思うのも、仕方ないことでしょう。
※門部王は、聖武天皇の侍従。後に大原真人姓を賜り、臣籍降下した。
平城京の市は官営であり、東西二つの市が設けられていた。
運営については、律令に規定があり、毎日「午の時(正午前後の二時間)」に開き、日没前に打たれる鼓を合図に終わること、市では男女は座を別にしなければならないことなどが、定められていた。
また、歌にも詠まれたように、樹木の種類は不明ながら、木々が植えられていたこともわかる。
どのような事情があったのかはわからないけれど、市に木を植えた時期に見かけた女性だったのだろうか、その時に気になっていたけれど、木が茂って枝が垂れるまで逢えなかった、だから、よりあなたが恋しいのですと、歌う。
交易の場である「市」は、人々が集う場所、そして男女の出会いの場所でもあった。
さて、たまたま見かけた人を本当に覚えていたのかは不明、「ナンパ」の常套文句の典型(教科書?)のような歌と思う。