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高市連黒人の羇旅の歌(1)
高市連黒人の羇旅の歌 八首
旅にして もの恋しきに 山下の 赤のそほ船 沖を漕ぐ見ゆ
(巻3-270)
高市連黒人は羇旅(旅)の歌の多い歌人。
旅の途中 もの悲しさを感じていると 山の下にいた赤丹塗りの船が 沖を漕いでいるのが見える。
「赤のそほ船」は、ソホ(赤土)で、赤く塗った船。
元々は魔除けであったけれど、その後官船が全て赤く塗ったので、官船をさすようになった。
旅の途中、何かもの悲しくて、ぼんやりとしてしまったのだと思う。
ふと、気が付いて見たら、さっきは山の下にいた赤い船が、すでに沖の方を漕いでいる。
自分がぼんやりとしていようが、どうだろうが、世間は動いている。
旅は、見慣れぬ風景、見知らぬ人々の中を進む。
旅人が、もの恋しかろうが、そんなことにはお構いなく、周囲は動く。
いたしかたない寂寥感だけれど、これはこれで、感じてしまうのは仕方がない。
ただ、千何百年も前の人が、こんな、繊細な歌を詠んだと知ると、親近感を感じてしまう。




