むささびは
志貴皇子の御歌一首
むささびは 木末求むと あしひきの 山の猟夫に あひにけるかも
(巻3-267)
むささびは高い梢に上ろうとして、山の猟師に見つかってしまったようだ。
むささびは、梢から飛び下りざまに獲物を襲う捕獲の才ある動物。
しかし、その才があったとしても、山の猟師には、かなわない。
才を頼み、余計なことをしなければ、見つかって射られることもないだろうに。
さて、志貴皇子は天智天皇の第七子で、その母は地方豪族の出身で、とうてい皇位を狙うような将来は、なかった。
壬申の乱の時点では、幼少であったため、殺害されることもなかったけれど、
壬申の乱以降は、敗者側の立場でもあり、目立つことははせず、その一生を終えた。
ただ、彼の子の白壁王は、即位して光仁天皇となる。
また、その後は、現在の平成天皇に至るまで、天智系の血を受け継ぐ天皇が続いている。
それを思うと、志貴皇子の地味な生涯は、決して無駄ではなかったようだ。
高い才能を目立たせたがゆえに、殺されてしまった皇子たちが多かった。
平凡な歌に思えるけれど、結果的には、様々な意味で、かなり深い寓意が込められたのではないだろうか。