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柿本人麻呂 近江の海
近江の海 夕波千鳥 汝が鳴けば 心もしのに 古思ほゆ
(巻3-266)
美しい夕焼けに包まれた琵琶湖の、静かな波が寄せては返す浜辺に、千鳥が鳴いている。
こんな雰囲気で、千鳥よ、お前が鳴く声を聞くと、
私の頑なな心も折れそうになる。
思い出すのは過ぎ去った、いにしえの日々。
訳など無粋な人麻呂屈指の名歌。
古とは、大津宮の昔のことなのか。
短かった繁栄の時期。
その後は戦乱。
そして大津宮は捨てられた。
その哀しい運命を思い出したのか。
ただ、それだけではない。
どんな人でも、同じ状況になれば、人麻呂と同じように、それぞれの古を思うのではないだろうか。
使う言葉も、描く風景や、内容も美しく、心に響く。
日本語の歌としても最上級となる歌と思う。